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15 喰われること

私が再び目を開くと木の天井が目に入った。

ゆっくりと布団から起き上がる。


「寝衣に着替えてる…」


きっと蘭花が着替えさせてくれたのだろう。

窓を開けると澄んだ青空が広がっていた。

とても気持ちのいい朝だ。

朝ご飯も既に用意されていてお粥が湯気を立てていた。


「いただきます」


私はお粥を口に運ぶ。


「…美味しい」


ごま油の良い香りがしてとても美味しい。私はすぐにお粥を平らげた。


「相変わらず上等な衣…」


食べ終わった私は箪笥に入っていた衣を取り出していた。

自分が着ていた衣は洗濯されているのか何故か無い。

その代わり入っているのはどれも一級品の衣。


「私にこれを着ろと?」


しかも全て私の大きさぴったしだ。

一体いつ誰が採寸したのやら。私の情報を調べた時でさえ出てこなかったと思うんだけど。

…玄瑞じゃなきゃいいな。


◇◇◇


「うーん、手持ち無沙汰。散歩でもしてみる?」


恐れ慄きながらあの衣を着た私はやることがなく、悩んでいた。

麒麟邸に行ってもいいけど、寝てる月に出くわしたりたら気まず過ぎる最悪の朝を迎えることになる。

一度冷静になったとはいえ、番になんてなりたくないのは同じ。

ちゃんと向き合って話をつけないといけない。


────そういえばあの人たち今どうなっているんだろう。

輿入れ予定日に私がいないのだからかなり文句を言われたに違いない。まぁ、まさか娘が後宮にいるなんて思わないだろうから今は大丈夫かな。

月達も私が家出したって知ってるみたいだから、その理由もわかるはず。


私はんっと伸びると扉を開き外へ一歩踏み出した。


◇◇◇


「あ、こんなところに椿がある。あぁ!金木犀の木も!

綿花もあるみたいだしいろんな髪油かみあぶらが作れそう。」


意気揚々と金龍宮の庭に出た私は早速胸を躍らせていた。

実家では一応最低限のお金はもらっていたものの、本当に最低限、毎日二食のご飯と二月ふたつきに一度古着を買えるか否かほどの金額だった。

勿論私だって体調崩すし、生活必需品は買わなければいけない。鈴花にだって生活がある。彼女の給料でやりくりするのも私が成長するにつれて大変になってきた。

幼い頃は鈴花に頼んで母の形見の装飾品を売っていた。しかしそもそもあまり多くない形見も目を離した隙に麗凛に取られてしまうので、そういった生活はできなくなった。

そこで元々手先が器用だった私は離れの裏庭に生えている竹や木の皮で鞄を作って売り出した。


そうして植物をいじったりしているうちに、香油や髪油、簡単な薬などを作れるようになっていったのだ。

その辺は体質によって合う合わないがあるので売っていないが。

…私の鞄は凝った装飾が入るから女性に人気なんだよね。


私は袖をまくると、とりあえず籠を編みやすい植物を採っていく。採集した植物を入れる籠を作ろうと思うんだ。


「テンキ草かぁ。たくさん生えているのは嬉しいけど、テンキ草は浜辺に生える植物だよね?なんでこんなところに生えてるの?」


疑問はあるものの、まぁ気にしたら負けなので黙々と採集する。


すると、


「おまっ、何してんの?」


「へ?」


医者を連れた紅炎とその他四人が私を見て口をアングリと開けていた。


◇◇◇


あのあと強制的に金龍宮へ連れ戻された私は何故か布団に入れられ医師の隋湾ずいわんさんの診察を受けていた。


「はい、もう口を閉じていただいて大丈夫です」


「あ、ありがとうございます…」


「ねぇ翠零」


「え?」


医師の言葉に口を閉じた私に顔を引き攣らせた蒼風が声をかけた。


「君、今何月何日か分かる?」


その問いかけに私は一瞬悩む。

えと、私が家を出たのが卯のうのつき十一の日(じゅういちのひ)だったから…


「卯の月十四の日?」


「違う」


速攻で月に否定された。


「えぇ?でも、十一、十二、十三…」


「そういうことじゃない!」


指折り数えても月に突っ込まれる。

すると白嵐くんが呆れた顔で口を開いた。


「あんた、丸2日昏睡してたんだよ」


「丸2日⁉︎」


そういえば、金龍が現世では今頃大騒ぎだって言ってたかも…。


「それで毒を飲んだんじゃないか、チカラに喰われたんじゃないのか、実は持っていた持病が悪化したんじゃないかとか心配して医者呼んでみれば、本人は何事もなかったように起き上がり、庭で草をむしっている。」


「なんともなくて本当によかったよ…」


苛つきながら状況説明する月と胸を撫で下ろす蒼風。

チカラに喰われるってなんだろう?

あ、でも医師がいるから番に関係のありそうな話は迂闊にできないか…。


「どうしたんだい?翠零。何か質問があるようなら答えるよ。この医者は僕のお抱えだからね。事情は知ってるし、口も硬い」


「ねぇ、チカラに喰われるってなんのこと?」


蒼風の医者は黙って薬を調合している。

本当に口の硬い医師のようだった。

はぁ…私も離れに置いてきた分のあれこれ、作り直したい。ここに生えてるもので大体作れそうだしなー…。


「翠零話聞いてる?もう一度説明するよ?」


蒼風の言葉に私はハッと顔を上げる。

…少しボーッとしてた。そういえばちょっと熱っぽいかもしれない。


「いい?チカラに喰われるっていうのは役目を放棄したい、とか、深く絶望した時に宿主の想いに反応して四神獣や麒麟、金龍のチカラが暴走することによる現象だ。それが起きると膨大なチカラに器ーー人間の身体のことだね。が、耐えきれず崩壊する。

要は死ぬってことだ」


「また⁉︎」


「しかも翠零の場合、番だから殊更ことさらチカラが大きい。

器の方もまだまだ未熟だ。番として目覚めたなら気を抜けばすぐに喰われるよ。」


「危険すぎない?なりたくてなったわけじゃ無いのにそんな危険なの?

生きること自体が危険じゃない」


「仕方がないんだ。

俺たち候補者が死んでも何度でも新たな候補者が選ばれるが番はそうはいかないからな。

お前が喰われたら勿論みんな仲良くあの世行きだ」


ぴっと月は真顔のまま人差し指で空を指す。


「あ、あの、それって選んだ後も続くんでしょうか?」


「いーや?そんなことないよ。

誰か一人番に選ばれた時点でその他四人の痣とチカラは消えるんだ。で、選ばれた側は麒麟の痣へと変化し金龍の力も持ち合わせた最高で最強の王になる。元々痣が麒麟だった人は痣は変わらないらしいけど。

チカラが安定するし、そう喰われることはない。」


ニコニコと頬杖をつきながら教えてくれる玄瑞。


「痣とチカラを失った奴らは喰われることは一生なくなるんだってさ。

…どっちの方がいいとも限らないよな」


ずっと笑っていた紅炎らしくない沈んだ言葉。

喰われるかもしれないが真の王として歴史に深い爪痕を残すか、

喰われる事は無いが選ばれなかった者として嘲笑され歴史に埋没するか、

確かにどちらがいいとも限らない。


やっぱり、私は縛られるしかないのか────

そんな人生もう、うんざりだ。

その瞬間ズワリと室内の空気が渦巻いた。


「「「「「「⁉︎」」」」」」


あ、そっか。

絶望、したもんね。


そのまま渦は大きさと過激さを増し私を中心に荒れる。

そして、苦しそうな顔をした医者は気を失った。

私のチカラに当てられたんだ。

みんなも苦しそうな顔をし始め心臓の当たりを抑える。

渦は周囲の空気や物を巻き込み、私から外の世界は見えなくなった。

そんな中蒼風の苦しげな声だけが聞こえて来る。


「翠零…!抑え、るんだ。隋湾さんが死んでしまう!」


「…!」


私の頭の中に静かな声が響く。


『姫さま、どんなに恨んでも、どんなに憎らしくても、決して命を奪ってはなりません。

命を絶つのも駄目です。

どんな人だって、どんなことがあったとしても死んで良い理由にはなりません』


鈴花…!昔、唯一手元に残ったお母様の形見を花らを離れた隙に麗凛にとられた時、泣き叫ぶ私に鈴花が言った言葉だ。


…死ぬのは、ダメ!


ゆっくり、ゆっくりと渦は小さくなっていく。


「翠零!」


綺麗な金色の瞳。

まだ渦は巻いていて何も見えないのに飛び込んでくる勇猛なる麒麟。

その名は

金麟きりん…!


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