13 蒼風視点
今回は5人と翠零が出会ったあの日の蒼風視点です!
あの日僕たちはこの国の神である金龍を祀る神社を巡っていた。定期的に僕ら候補者は金龍に力を捧げなければいけないのだ。
まぁ、金龍に定期報告をしに行っているようなもの。
「ええっと次はこの山を降り、10分ほど歩いたところにあるみたいだ」
僕が地図を片手に振り返ると月は難しい顔をして呟いた。
「毎度思うことだが、この神社はかなり古びた信仰も薄い神社のはずなのに潜在する金龍の力が強い」
すると普段あまり喋りたがらない白嵐もこくりと頷いた。
「僕もそう思う。ここは金龍の力が強すぎる。肌がちくちくするよ」
「白嵐があえて言うほど不自然なのか…」
自分は白嵐みたいに力を感じ取るのが得意ではない。
なんならこの5人の中で最も疎いといえるほどに。
「この神社が歴史に関わっているのかもしれない。戻ったら調べてみるよ」
「頼む」
「なぁなぁ蒼風めちゃくちゃうまい桃見つけた」
沈んだ空気の中に割り込んでくる元気が溢れ出した声。
振り向くと紅炎がニコニコと大きな桃を片手にはにかんでいた。
「紅炎…お前には緊張感という感情はないのか?」
月が呆れた様子で呟く。僕はその月の言葉にため息をつきつつ全面的に同意した。
◇◇◇
その後も談笑しながら山を降りる。
────と言っても大抵は紅炎の話に白嵐以外が笑っているだけだが。
あぁ、前から人が歩いてくるな。
若い女の子。
その女の子は一瞬顔を歪めたあとさっと道の端に寄って歩いた。
僕はすぐに興味を失いすぐにふいと視線を逸らした。
けれど彼女はすぐに立ち止まった。怪訝な顔をして辺りを見渡し始めたかと思うと、今度はその顔が恐怖に染まっていく。
…虫でもいたのか?
それでも、特に大した関心を抱けず目を逸らす。
…今は知らない女の子よりも強すぎる力について考えたほうがいい。
するとピリッと痣が痛んだ。
それが示すのはこの山の力が僕にも感じられるほどに強くなっていること。
…何故だ?僕らが奉納した直後よりも力が大きくなっている。
後ろをチラリとみると仏頂面を貫いている白嵐の顔がやや強張り額には脂汗が浮かんでいる。
チカラを敏感に感じ取ってしまう白嵐にはかなり辛いはずだ。
「月」
「あぁ、少し…いや、かなりおかしい。
まさか…」
するとポゥっと遠くの灯籠に明かりがひとりでについた。
「「「「「⁉︎」」」」」
その後も灯籠は順々についていく。
そしてどこからともなく鈴の鳴る音が響く。
その音と共に僕は体内をめぐる血がザワザワと騒ぎ出すのを感じた。
同時に普段は内で渦巻いているだけの青龍の力が大きく膨れ上がり、外へ出ようと暴れだす。
僕はこの現象をよく知っていた。
何度も何度も沢山の文献を探して読み漁った『番の呼応』と呼ばれる現象だった。
番が近くまで来ていると言うことを示す現象。
それでも足を止めなかった僕たちが立ち止まっている少女とすれ違う瞬間。
そのざわめきは最高潮へと達した。
振り返った僕の目に映ったのは…
────金龍…!
美しくも威厳溢れるその姿にハッと息を呑む。
けれどそれはギロリと一度こちらを睨むとすぐに薄れていった。
金龍と重なっていた少女がよく見えるようになる。
艶やかな黒い髪を渦巻く大きなチカラに踊らせ、銀色の瞳は癒しの泉の如く深い。
彼女をみた瞬間、荒波立っていた力がスゥっと落ち着いた。
…あの強くなる一方の山の力の根源は彼女か。
その事実にどくどくと鼓動が駆け巡り心が先走る。
膨大な量の金龍のチカラを放つこの少女こそが…!
僕らの番だ
驚いたような番の手首を掴む月。
抜け駆けはいけない、と思いながら僕は恐る恐る口を開いた。
「ねぇ、君、さ…」
あぁ駄目だ。歓喜で声が震えてしまう。
月が僕の後を引き継ぐようにして言った。
「お前・・・もしかして、番か・・・?」
◇◇◇
「逃げられちゃったな」
「そうだねぇー。まさかこんなところにいたなんて」
紅炎と玄瑞が番の走っていった方向を眺めながらごちる。
「確かにそれはそうだ。梨氏が納めるこの領地は都からそこまで離れていないのに。
今まで僕らがどんなに調べても見つけられなかったのが不思議なくらいだ。」
「灯台下暗しってやつだな。」
僕は未だ瞼に鮮明に焼きついた美しいあの光景を思い出すように目を閉じた。
◇◇◇
僕は望まれた子供じゃなかった。
父が仕事である貴族の元を訪れたときだった。
その貴族の一人娘は若く、とても美しかった。
…泊まった父が皇弟の立場を利用して襲うことなんて予想ができたことだった。
父にはそのときすでに妻子がいたらしい。
たった一夜。
しかし彼女は一人の子供を身籠った。
そうして生まれたのが僕だった。
望まぬ形で産んだ僕を母はとても大切にしてくれた。
そうして生まれてまもなく蒼風と名付けた僕を母は名前の誓いをしに行ってくれた。
そして母が名前を唱えた瞬間に蒼龍が現れ僕の体に入っていったらしい。
その時に僕の青龍の痣はできたんだとか。
ある時将来を案じた母が父に見せに行った時のことだった。
父は始め自分の子であることを認めなかったそうだが僕が男児であること、そして青龍の痣があると知った途端に母を側室に召し上げ、僕を自分の子供として認めたんだそう。
周りは敵だらけだった。
だから僕は当たり障りのない笑顔を浮かべ、賢い人間になることを目指して生きてきた。
そうでないと生きていけないから。
自分が番の候補者であることを知ったのは7歳の頃だった。
知った瞬間に子供ながらに激しい怒りが湧いたのをよく覚えている。
『僕がそんなに重要な存在なら、どうして僕らは…母はあんなにぞんざいな扱いなんだ!』
側室に召し上げた、なんて名前だけで母は本当に雑に扱われていた。
それでも皇子の実母ということで下女のような仕事をさせられていたわけではなかったが、北にある人の気のない宮で生活していた。
陰気臭くてカビの匂いはするし、もちろん手入れされていないからボロボロ。
申し訳程度に付けられた3人の下女は盗みをする、仕事をサボる、横領をする、の三段構え。
唯一信頼できるのは実家から連れてきた僕の乳母だけ。
母は次第に体調を崩して行った。
碌に薬も与えられず、弱っていく母を見て何度も医者を呼んだ。
けれど医者はいつも正妻に門前払いされて母の元に訪れることはなかった。
そうして僕は学んだんだ。
大切な人間を守るためには地位とそれに伴う権力が必要なのだと。
結局行き着いた先はそれだった。
番に選ばれれば僕は真の王になれる。
誰一人抗うことのできない、地位と権力が手に入る。
大事な人を守るためならなんだってやってやる。
だから勉強した。
だから文献を毎晩毎晩読み漁り、番をずっと探し続けた。
その途中で月たち他の候補者にも出会った。
それぞれ複雑な過去を持っているみたいだった。
今は結構仲がいいと思っている。
でもね。月、白嵐、紅炎、玄瑞。
番は誰にもあげられない。




