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12 私の正体1

美女たちに睨まれながらしばらく歩くと、あるやしきが見えてきた。


「あれが俺たちの住む邸だ。麒麟邸という俺が住む邸を、東に青龍邸、西に白虎邸、南に朱雀邸、北に玄武邸というように囲んでいる。

それぞれ、青龍は蒼風、白虎は白嵐、朱雀に紅炎、玄武に玄瑞が住んでいる」


「へぇ、痣と同じなんだ」


「そういう風習だからなー」


紅炎が退屈そうに頭の後ろに手を回しながら言った。


「もう一つ邸があるけど、あれは何?」


私の指差した場所には少し離れた場所にそれぞれの屋敷よりも少し大きい邸があった。けれど、長く使われていないのか、草が生い茂っている。


「あれは金龍宮だよ。

…君もいずれはあそこに閉じ込められることになる。」


最後の方の蒼風の言葉は風にかき消されあまり聞こえなかった。


◇◇◇


「この国が遥か昔に金龍によって作られたのを知っているか?」


「それくらいなら」


月の麒麟邸にお邪魔させてもらった私たちは丸い座卓を囲んでいた。


「そして今の皇帝一族が麒麟と呼ばれ金龍の力を借りた者の子孫であることも?」


「まあ。」


今の皇帝一族は金龍が内から国を守れるようにと、金龍が力を与え、この土地を収めるように言い渡したものの子孫だ。

初代麒麟は、死後天翔る本物の麒麟となり金龍の元へと昇ったという伝説もある。


「金龍と麒麟は暫くは静かに見守っていたんだ。しかし────」


***


ある時、麒麟の子孫であることを笠に着過ぎた皇帝がいた。

その皇帝は度がすぎた贅沢をし、ついに国の財産が底をついた。

そしてその皇帝は愚かにも禁忌を犯したのだ。


国民を贄に財産を取り戻そうとしたのだ。


もともと金龍が国を作った理由は人々が安らかに過ごせる地を作りたかったからだ。

そして麒麟を作り出したのは内側から尊い命を守るため。

怒った金龍は再びその地に舞い降り、その皇帝を厳罰に処した。

しかしこれではいけないと思った金龍はあるものを作った。

金龍は初代麒麟や、各方々を守る青龍、白虎、朱雀、玄武のチカラを、残された5人の皇子に与えた。五人の皇子にはそれぞれ与えられたチカラの属性を示す痣がでたらしい。

そして、自らの髭を抜き、そこに一枚の鱗を結えて人界に飛ばしたのだ。

その髭は金龍の痣と鱗を持った人の姿となり、四神と麒麟にチカラを与えられた5人の中からひとり真の王を選んだ。

そうして選ばれた皇帝は金龍の化身と番い、活気を失った大地を再び栄えさせた。


それから不定期で麒麟、青龍、白虎、朱雀、玄武の痣を持った5人の皇子と、国内のどこかに金龍の痣を持った番が現れ、番は真の皇帝を選び、均衡を保つのだ。


***


「そして、俺たちはその5人の皇子。

俺は麒麟、蒼風は青龍、白嵐は白虎、玄瑞は玄武の痣を持っている。そして金龍の痣をもつお前が────」


「番、ってこと…?」


「そうだ。だからお前には番としての役目を果たして貰わなければならない」


そんな急に言われても…。

そもそもなぜ私が選ばれたのか、あの不思議な現象はなんだったのか、これからどうなるのか────


「質問なら、言え。俺たちにわかることなら答えてやる」


すぅ、はぁと深呼吸をひとつする。


「どうして、私が選ばれたの?」


「知らん。基本的に不規則に選ばれると言われている。神のみぞしるってやつだな」


そんな投げやりな…。


「あの神社で起こった不思議な現象は?」


「歴代の番と候補者────痣を持った皇子のことだな。

が、出会った時に起こる、『番の呼応(つがいのこおう)』という現象に酷似している。

多分それだ」


「そうなんだ…」


それなら私に金龍が見えたことにも納得がいく。


「なんで一番年上の玄瑞じゃなく月が麒麟なの?やっぱり直系の皇子だから?」


「それは単に順番だな。名前の誓いをした順番だ。

俺たち候補者は生まれながらではなく、名前の誓いの時にチカラと痣をそれぞれ四神と麒麟から授かる。

…玄瑞は色々あって名前の違いが遅かったんだ」


なんか複雑な事情がありそう。

そういえば…


「どうやって選ぶの?」


「そう!それを説明していなかったんだよな!」


いきなり大きな声で叫ぶ紅炎。


「うるさい紅炎。あとお前茶菓子を一人で食べただろ」


「いいじゃん。白嵐も結構食べてたし」


「ちょっと。僕を巻き込まないでよ」


ギャーギャーとまた口喧嘩を始める3人。

白嵐くん、結構言うなぁー。


「玄瑞。3人を外に出した方がいい。広いところに出してやらないと血を見る」


「わかってる。ほらほら三人とも遊ぶなら外にしな。」


ち、血を見る?さらっと物騒な単語が出てきましたが?


「「「玄瑞!」」」


「中にいたいならちょっと黙ろうねー」


「「「あっ、ハイ…」」」


ここからだと玄瑞がどんな表情をしているのかは見えないけれど、途端に三人が黙ったことから大体の予想はつく。

たぶん敵に回すと一番怖い人は玄瑞だ。

遠い目をしている蒼風は私に向き直ると口を開いた。


「先ほど、龍は髭に鱗を結んだといったね。」


「はい」


「髭というのは君自身。君の体を構成するものだ。

そして鱗というのが金龍の力の譲渡に必要な媒介。

番はその鱗を候補者に摂取させ、金龍の力の一部を譲渡させることで真の王を選ぶんだよ」


私の体、髭だったんだ…。

ちょっと、どころじゃなく嫌かもしれない。


「文献によると、君の痣の上、龍の体の部分に鱗が一枚生えているはずなんだ。」


そんなの見たことがない。

そもそも龍の痣の上に鱗まであったとなれば、私は勘当どころじゃ済まなかったはずだ。

あの人たちなら生まれてすぐ捨てられてもおかしくない。


「私にはそんなものありません。

きっと全部、今まであったこともたまたまです。痣も…たまたま同じような形をしていただけです。」


「そうか、お前家出していたから湯浴みしていないのか」


は?

なんの話?

いきなり話に割り込んできた月の言葉にことっと首を傾げる。


「とりあえず今は麒麟宮の湯殿を貸してやるからちょっと入ってこい。

おーい!蘭花(ランファ)、翠零の面倒を見てくれるか」


月が呼ぶと、一人の初老の女性が姿を現した。

白髪の彼女は誰かに似ている気もするけど…。


「了解いたしました。

お初にお目にかかりました。翠零さま。

月さまのお世話係の蘭花でございます。」


「あ、はじめまして。翠零です。よろしくお願いします。」


反射的に挨拶を返してしまう私。

すると蘭花さんは袖口を口元に添えてくすくすと笑い始めた。


「ふふふ。鈴花から聞いていた通り、とても愛らしくて素直な子ですねぇ。本当に良い方が番さまで蘭花は本当にようございました」


「え、鈴花を知ってるんですか?」


私は突然出てきた人名に食いつく。

すると蘭花はゆっくりと頷いた。


「えぇ。そうでございます。鈴花から聞いていませんでしたか?

鈴花は私の双子の妹なんですよ」


「えぇっ⁉︎」


衝撃の爆弾発言。

鈴花は私の前では家族の話をしなかったから全く知らなかった。

双子って。そりゃぁ似てるはずだよ。


「双子だったんですね…。鈴花は私の話をしていたんですか?」


「えぇ。休暇のたびに成長なさった翠零様のお話をずうっとしていました。

ただ鈴花は『翠零さまが番だなんて…』と、

いつも暗い顔をしておりましたねぇ。」


「えっ?鈴花は私が番だったってことを知っていたんですか?」


「えぇ。」


「蘭花さんそこまで。それ以上はちょっと…」


蒼風が慌てたように話に割り込んでくる。

そっか、鈴花は私が番だってこと知ってたんだ。

なぜかモヤモヤとしたものが心で渦巻く。


「ほらほら、翠零ちゃんは気にせず入っておいで。お風呂上がりの翠零ちゃんもみてみたいし!」


キモっ。

私はドン引きと軽蔑の目で玄瑞を見つめた。

…そういえば最初と一人称変わってる人が何人かいるなぁ…。


◇◇◇


「はぁ〜気持ちいい…」


お風呂から上がった私は蘭花さんのマッサージを受けていた。


「それはようございました。それにしても姫様のお髪は随分と艶がありますね。一体何をつけているのでしょう?」


「あぁ、これですか」


私はうつ伏せのままちょいと髪の毛を少し摘んだ。


「髪には自作の油と香料をつけ合わしたものをつけているんです」


「まあぁ!なんて凄い!ここまでの艶を出せるモノをご自分でお作りになられたのですか?」


「まぁ…」


すこし照れくさいな。

そうは言っても結構ありふれた雑草とかの組み合わせなんだけど。

えへへ、と笑う。


「どんなに高貴なお方でもここまでの艶がある髪を持つ方はおりません。…どうかお気をつけてくださいませ」


私は蘭花が言った言葉の意味を理解できず戸惑う。


「え?あぁはい。」


「ふふふ。それから敬語と敬称は要りませぬ。あなた様に仕える身でございますから。ささ、あとはこちらの鏡をご覧くださいませ」


「鏡?」


確か麗凛も銅鏡を持っていたはず。銅とはいえ鏡はかなりの高級品だ。

けれどこれは…


硝子(ガラス)?」


「はい。輸入したモノで坊っちゃまのために用意されたのですけれど、あの子は一切使わなくて…」


こんな高級なモノをホイホイと輸入できちゃうなんて…。

さすが皇族、程度(レベル)が違う。


「そうなんだ…。それにしても凄い。まるで自分が二人いるみたい────ってえ?」


私が驚いたのも無理はない。

私の痣の上に本当に金色に輝く一枚の鱗があったのだから。

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