11 五人の皇子
そうして今に至る。
「なぜ、私を挟む必要があるのかわからない…」
「まぁまぁ、きみは番なんだからさ。
それより俺たちみたいな顔がよくてしかも一国の皇子な、
年頃の男子に囲まれてるのに君は全然赤くならないね。
普通の女の子なら俺のそばに座ってさらっと会話してるだけで俺に夢中になるのに」
「そ、ソウデスカー」
やばい、こいつ女ったらしだ!
そっと黒の人から距離を取る。狭いからあんま変わらないけどね。
それでも黒の人は距離を詰めてくる。
「そのくらいにしろ玄瑞」
「はいはい」
よかった、金の人が止めてくれて。
注意された黒の人は元の場所に戻る。
「ありがとう。えーと…」
「そういえば俺たちまだ名前言ってなくね?」
言葉に詰まる私と被せ気味に身を乗り出す緋の人。
狭いんだから身を乗り出さないで欲しい。
ていうかほんとに皇子なの?この人たち。
そういえば私、タメ口だ。
***
「じゃぁ、私から。」
と手を挙げたのは青の人。
深い青の瞳に紺色の癖のない髪。
真面目な正統派ってところだろうか。
あ、でもさっきの発言は忘れてはいけない。天然さんだ。
「花・蒼風、17歳。2月12日生まれ。父は現皇帝の2番目の弟。痣は青龍」
「え?痣?」
さらっと言われたけどこの人にも痣があるの?
「うぃ、次おれ。花・紅炎。16歳。8月27日生まれ。父上は現皇帝の1番目の弟。痣は朱雀な」
また、サラサラと流されてったけど、こいつにも痣があるんだ!
よし、痣について考えるのは一旦後回しにしよう。
ツンツンとあらゆる方向に跳ねた深紅の髪に、鮮やかな緋の瞳。肌は健康的に焼けている。
こいつ外見から中身までガキだ。でも父上って言ってる辺り育ちが出るね。
「次は僕。」
そう言って話し始めたのは白の人。地味に今まで一言も声を聞いていない。はじめて会った時も仏頂面で、笑ったかと思えば嘲るように鼻で笑うだけ。
多分だけどわたしと同い年だと思う。ちなみにわたしは15歳だ。
「花・白嵐。13歳。11月9日生まれ。父親は末っ子。痣は白虎。」
サラリと揺れる真っ白な髪は肩につくくらいの長さで儚さが強調される。
…あれ?ふたつも離れてるの?身長同じくらいなの何?
「次は俺だね。花・玄瑞。19歳。母様が皇帝の血筋。痣は玄武。好きなものは女の子!」
「あの、紅炎さん。席変わらない?」
長い黒髪を下ろした黒の人。隣でそんなこと言われても気持ち悪さが増すだけだ。やっぱ女たらしじゃん。
「いい加減にしてやれ玄瑞。最後は俺だな。
華…。」
そこまで言うと金の人は止まる。
「諦めたら。月」
蒼風が諭すようにポンと肩に手を乗せる。
「クッ…。俺の、名前は…華・金麟だ。」
「は?キリン?」
「そうだ。母が名付けた。流石に同じ漢字は畏れ多いと言うことで金と書いてキと読ませる。」
「…」
「仕方ないだろう!父が止める前に名前の誓いをしてしまったんだ!」
憐れみの視線を向けると、赤くなった金麟は喚くように叫んだ。
あと1000年くらいしたらキラキラネームと言われるようになるやつだ。
ちなみに名前の誓いとは、麒麟と金龍に赤子の名前を誓うことで、戸籍登録ができる。儀式みたいなもので、必ず金龍を祀る神社でやるのだ。
私の名前の誓いは先ほどまでいた神社で、翠零がやってくれたらしい。素人でも手順さえ間違えなければできるので、ほとんどの国民がやっているはず。
名前の誓いをすると、基本改名はできない。
「だからみんな月って呼んでるんだ。」
「そうだ。お前も月と呼べ。もう名前の話はやめよう。
1月20日生まれの17歳。痣は麒麟。父は皇帝だ。」
黒い髪に金色の瞳はよく映える。皇子らしく傲岸不遜に笑う顔はやはり皇帝の息子なだけある。
名前はあれだけど。
「お前はしねぇの?自己紹介」
「私が自己紹介しなくても知ってるでしょ。素性なんて。」
実際名前だって知ってたわけだし。
「一応お前の口から聞きたいじゃん。」
「否定しないんだ?はぁ…。
梨・翠零。15歳。親とかは言わなくてもいいはずだよね。嫌いなものは────」
ちらりと玄瑞を見やる。
「女好き」
「あれ?なんで俺だけ集中攻撃なの?」
笑顔でこてん、と首を傾げる玄瑞。
「あら、女好きなら女の言葉の裏くらい読み取れなくては」
「俺優しくて純粋な女の子が好きなんだ。」
うふふ、あははと嫌味と皮肉の応酬をしていると、また月の止まれの指令が入った。
「お前、思ったよりも恐ろしいな」
「え?ひとりの少女の素性を権力を行使して調べて、付き纏っている誰かの方が私には恐ろしいと思いますけど」
***
「それで痣って結局なんなの?あなたたちにもあるみたいだけど…」
「それについては目的地についてからだ。ここでは────」
一旦月は言葉を区切る。
「誰が聞いているか、わからない」
私ヤバいのに捕まったのかも。
***
月の手を借りて馬車を降りる。
振り向くとそこにあるのは、ババンって効果音がつきそうなほどでかい敷地と屋敷。
中からは宦官と見られる黒い衣服を着た男が出入りしている。
想像はしていたけど…
「ここって…」
「後宮だね」
後宮とは帝の血筋を残すための女の園である。よっぽどでなければ、一度、妃として入れば出ることは叶わない。
蒼風の言葉にはて、と疑問を抱いた。
「…えっと、どう見ても宦官じゃないよね?」
「見てわかるの?まぁそうだね。俺ら、皇子なんで」
「後宮に宦官以外の男子が入っちゃダメなんじゃ?」
「基本はね」
私の疑問は肯定されたことにより、さらに深まる。
玄瑞はクツクツと笑う。
「その辺は後で月から説明があると思うよ。ほら、通行人の邪魔になるから入ろうか」
蒼風に促されて中へと入る。ちなみに他三人はとっくの昔にスタスタと中に入って行ってしまった。
門をくぐると目に入るのは煌びやかな衣服を着た女性たちやその下女。ぽつらぽつらと宦官もいる。
「やっときた。お前ら歩くの遅すぎね?」
少し先で三人が待っている。慌てて合流しようと小走りすると玄瑞にガシッと肩を掴まれた。
そのままくるりと別の方向を向かされる。
その先にあったものを見た私はうわっと頬を引き攣らせた。
「なんで、なんであんな子が玄瑞さまや蒼風さまと…!」
「月さまや白嵐さまもよ!ズルいわ!あんな子より私の方が魅力的ですのに!」
「あいつ、今紅炎さまに駆け寄ろうとしなかった⁉︎」
そこにはぎりぎりと爪を噛んで睨んでくる姫さま方がいた。
「翠零」
と蒼風が少し屈んで顔を覗き込んでくる。
その些細な動作にもきゃあっと黄色い悲鳴が上がった。
「ここは違う意味でも危険だからもう少し気をつけようね」
「ハイ…」
女、こわ。




