異世界にも観覧車ってあったんですね
なろうラジオ大賞投稿作品のため、1000字以内の超短編となります。
今日も俺は寝言で要望をしてしまったらしい。
異世界に転生して早一年。どうやら俺は寝言で何かを願えばいくつかの条件を満たすことでこの世界に実現させてしまうらしい。
その条件ってのは…俺にもわからない。
騎士団の家系に転生した俺は日々、トレーニングのための水泳訓練だとか走り込みだとかいろいろとやらされる。
最初の寝言は、ちゃんとしたプールが欲しいだったらしい。
騎士団の訓練場のすぐ隣に突如と現れた屋内型プール。まさか俺が出したなんてこの時微塵も思っていなかった。
散歩で見つけた紙飛行機。
「よくカレンダーの裏で作ってたよなぁ」
(父さんが希望のお弁当の中身をカレンダーに書き込むから母さんが俺の卒業式がメモできないって怒ってたっけ)
そんなことを思った日の翌日。
「なあ、お弁当ってそんなにうまかったのか?」
ルームメイトの先輩が俺の寝言を聞いて興味をそそられたらしい。俺には覚えがないから答えに迷ったが母さんの弁当は最高だった。嘘をつきたくなくてああ、最高だと伝えた。
騎士団の昼食が弁当になった。先輩がめちゃくちゃ喜んでた。
それからもパソコンやら自転車、なぜか改札が俺の周りに現れて、原因は俺かと気づき始めた頃。婚約者が決まった。なんと彼女も転生者だという。
日本を知っている彼女と会話が弾むのは当たり前でお互いに惹かれるまで時間はかからなかった。
今、目の前に観覧車がある。
「異世界にも観覧車ってあるんですね」
手を繋いでいる彼女が懐かしむのと同時に背景に合わない見事なイルミネーションを見せつける観覧車に苦笑する。
「乗ってみます?」
どうやって動いているのかわからない観覧車に乗る?
いやいやいや、怖いでしょ?えっ怖くないの?
キラキラ輝く瞳を見ていたら嫌だなんて言えなくなった。
「乗りたい?」
「興味深いです」
あーそっち?気になるタイプってこと。
俺は意を決して、彼女の手を引いて自動で開く扉へ向かって歩いた。
もう一度彼女と頷きあってから乗り込んだ。少し揺れるゴンドラは俺の方に傾いた。
ゆっくりと登る中、先輩を見つけた。ベランダに出るところがさすが。
「意外と普通ですね」
「ああ、普通…だったな」
二人で笑いあったのち、気づいたら頂上にいて彼女と初めてキスをした。
調子に乗って二周目に突入した俺たちは…この世界から消えた。