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苦手な方はご注意ください。

別の世界ではただの日常です

脳内データ閲覧装置

作者: 茅野榛人

「あれ? もしかして……あ! やっぱりそうだ!」

「はい?」

 全く知らない人だ。

「えっと……何処かでお会いしましたっけ?」

「えー……私ですって! 三年前に、僕が財布を落とした時に、拾って渡して下さったではありませんか!」

「……そうでしたか! 三年前の!」

 全然思い出せない。

 恐らくこの人も既にあの装置を利用しているに違いない。

 十年前、とある研究者が、人間の記憶をデータとして閲覧する事が出来る『脳内データ閲覧装置』を開発した。

 しかし当時はまだ信頼も得ていなければ、その装置によって生じるであろうとされるトラブル等に対応する準備も整っていなかった為、販売や提供は一切されなかった。

 やがて全世界の政府が、装置の現実性や安全性を拡散、更に装置や人間の記憶データに関する法律も施行され、今から一ヵ月前、遂に装置の販売が始まった。

 装置は、銀色のヘルメットのようなものに、コードが繋がっており、その先はUSB端子になっている。

 使用方法は、銀色のヘルメットのようなものを頭に被り、固定し、パーソナルコンピューターにUSBをさし込み、パスワードを入力すれば、記憶データを閲覧する事が可能なのである。

 この装置により、視覚や聴覚、嗅覚や味覚と言った情報を、全てデータとして閲覧、更には他の記憶媒体にコピーする事が可能になるのである。

 これによって例えば、視覚と聴覚によって保存されたデータを編集し、日記代わりにしたり、授業のノート代わりにしたりすることが出来る。

 しかしこれらのデータは全て法律で守られており、他人のデータを勝手に閲覧したり、インターネット上に投稿、拡散したりする事は違法行為であり、一度違反しただけで極刑が下される程、厳しいものになっている。

 ただし捜査や検証の為と言った、明確な理由があれば、データの開示を請求する事が出来る。

 かなり便利な装置ではあるが、決して安くはない。

 大半の人達は、装置をローンで購入している。

 しかし僕は、決してこの装置を欲しいとは思わない。

 サイバー犯罪の多発するこのご時世、データなんて直ぐに盗まれるに違いない。

 確かに僕は記憶力が弱い、しかしだからと言って機械には頼りたくない。


 段々周りと会話が合わなくなっている。

 友人や仕事の関係者は皆、何十年も前の、よほど記憶力が強くない限り、決して覚えていないであろう取るに足らない事を話している。

 間違いなくあの装置の所為だ。

 誰もがあの装置を使い、自身の古い記憶を閲覧しているのであろう。

 完全に、時代に乗り遅れている。


 とうとう装置に手を出してしまった。

 周りとの会話の合わなさに、限界を感じてしまったのである。

 ローンで装置を購入し、自身の記憶データを閲覧してみた。

 物凄い……本当に物凄い装置だと実感した。

 どれだけ昔の記憶でも、ちゃんとデータとして残っている。

 僕は……小さい頃に……こんな事をしてしまっていたのか……。


「おい……おい! おい!」

「あ……は……はい!」

「お前どうした? 最近調子悪いぞ?」

「いえ……別に……」

「大丈夫かよ」

「大丈夫です……大丈夫ですよ」

「全くもう……最近お前みたいに調子の人が多いなあ……どうなっちゃってるんだよ……」

 こんな調子にもなるさ……あの小さい頃の記憶を閲覧したら……。

 僕は昔、無自覚に数多くの人達をいじめており、傷つけていた。

 装置を使って昔の記憶を閲覧しなかったら、このまま一生この事は封印されていたであろう。

 今の自分だからこそ、昔の自分がいじめっ子だった事に気が付けた。

 真面目だけが取り柄だと自負していたのに……僕は一体……あの人達に……どう謝れば良いのであろうか……。

「おい……おい!」

「あ……はい! すみません……集中します……」

 いや無理だ……。

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