魔王様、クッキングの時間です!
「カレーライスを作るのである!」
魔王様が言ったので、我々下っ端の魔族は大急ぎで支度を調える。
「魔王様、準備ができました」
「ようし、やるか。まず材料を切るのだ!」
下ごしらえは我々の仕事らしい。
「魔王様、カレーの具は何にしますか?」
魔王様は何故か、マントを翻して宙空に向かって叫ぶ。
「ジャガイモ!ニンジン!それから…豚肉!」
「ははあ、御意!」
我々下っ端で野菜をザクザクと切る。
「このタワケ者があっ!」
突然魔王様が烈火のごとく怒り、下っ端魔族の三匹を三つ叉の槍で一気に串刺しにした。
「ひええええっ」
「魔王様、如何いたしました?!何か粗相がありましたか?」
魔王様は槍をブンと振り、串刺しにしていた3匹を遙か遠くへ飛ばした。不憫だ。
「ワシは野菜はもっと小さくしてくれないと食えんのだあああっ!」
「すみませんんんんっ!」「おい、もっと小さくだあっ!」
我々は慌てて、野菜を切り直す。
「うん、そう。そうそう、でもみじん切りみたいにしたら、逆に駄目だよ。うん、そのくらいな」
魔王様が細かく野菜の大きさについて指示を出す。
「御意いいいいぃ!」
野菜と肉をを切り終わった。いよいよ魔王様の出番である。
「鍋で豚肉を炒めるぞおおおっ!」
「魔王様!お見事ですっ!」「素晴らしいお手並み!」「野菜が切れてる!切れてるっ!」
また魔王様が激怒し、今度は熱い鍋を側にいた下っ端の顔に押しつける。
「ぎええええええっ!熱っっっっっっっ!」
「野菜切ったのはワシじゃないわあああっ!」
「お許しを!お許しを、魔王様ぁ!」
肉に透明感が出てきたので野菜を入れ、もう少しだけ油を回す。
「よかろう。水を入れるぞおっ!」
「魔王様!いい水入れ時!」「いよっ!水もしたたる魔王っぷり!」
もちろん魔王様が激怒して下っ端の顔に熱した油が浴びせられる。
「魔王っぷりっていったいなんじゃあああああっ!」
「ぎゃあああああっ!顔が、顔がぁ!」
「魔王様、お許しを!」「魔王様ぁ、焦げ付きますぅ。ここはカレーを優先で」
「そりゃそうだね。焦げ付いたら台無しだよね」
魔王様が水を入れて野菜と肉を煮込み始める。
「これでしばらく煮込むこととするっ!」
「さすがです、魔王様」「誰でも出来ることとはいえ、お上手です。魔王様」
魔王様が例によって激怒する。自分の前にいる下っ端をお玉で2秒間3500回高速殴打した。
「誰でも出来ることで褒めとんのか、おんどれはぁ!」
顔面を内出血で膨らませた下っ端魔族が失神した。
「魔王様、魔王様。ほら、ほら、煮えましたよ。魔王様が野菜小さめにしたので煮えるのが早いんです」
「むう?」
「いよっ!さすが魔王様!」「ちょっと褒めれば、のりやさい!つけあがりやさい!野菜だけに!」
「こ、この無礼者がああああっ」
魔王様が火炎を噴き、近辺の下っ端が18人黒焦げになった。
「では、味付けじゃい。うむ?…これか?」
魔王様が調味料ストッカーの前でウロウロする。
下っ端の一人が笑いを堪えながら、魔王様に話しかける。
「ま、まさか次に何したらいいか、判らないんじゃないでしょうね?」
「バッカだなあ。魔王様ともあろうものが、そんなはずないじゃないか。プププ」
魔王様が尖った爪で二人の下っ端の目を突き刺す。
「ふぎゃあああっ!」「眼が、眼がああっ!」
かくして30人余の下っ端魔族を犠牲にして魔王風カレーが完成する。ここで読者の皆さんには言っておきたいが、我々魔族は死んでもだいたい2時間10分後くらいに蘇るので、心配しないで欲しい。魔王様に殺されたり、眼を潰されたりするのは我々にとってちょっとした遊びのようなものなのだ。少しだけ痛いけどな。
「どうだ。できたぞ。うまそうなカレーじゃあいっ!」
「いよっ!カレー上手!」「私のカレーは左利き!」「魔王様の加齢臭!」
「意味が全然判らんわああああああいっ!…えっと、それから、誰が加齢臭じゃあいいっ!」
魔王様が頭にかじりついて、3匹の下っ端が頭を半分無くした。
「…で、どうだ、お前達。味は?」
魔王様がオドオドと味を尋ねられた。それだけで半笑いの者がいる。
「…?」「なんだ?カレー?」「これは…」「魔王はバカ?」
「魔王様、最後にどれを入れましたか?」
「ワシはそこのカレー色の調味料を入れて仕上げたぞ!」
魔王様が指さした場所には味噌が置いてあった。
「魔王様。ププッ。これは」
「これは…ブーーッ。豚汁です」
下っ端全員が下を向いて肩を震わせている。中にはあからさまに笑いを堪えている者も多い。
「こ、これが地獄の魔王風カレー、豚汁風味じゃああああいっ!」
緑色だった顔を真っ赤にした魔王様が三つ叉の槍をブンブン振り回しながら、地獄の火炎を吹き散らし、雷をあちこちに落としまくった。魔界はいったん滅亡し、もとに戻るのにだいたい2時間10分ほどかかった。
また食べ物がらみのものを書いてしまいました。
魔界の皆さんは楽しくやっているようで何よりなのです。