死にたきゃ死ね
そこに川がある。光が水面に反射している。
「・・・」
川の中に手を入れ濡らす、意味はない。ため息をついて、刃物を取り出して首にかける。
そこで、隣に少女がちょこんと座る。何も言ってこない。刃物を下ろす。
「…なんだ、死ぬのやめたんだ?」
こちらを見もせずそう言った。
「死なないの?」
少女はそう続けた。
「え?なに?まさか私が貴方の自殺を止めにやってきたとでも思ってる?死にたきゃ勝手にしなよ。私は止めない、説得もしない、関係ないし。…何さ、そんな驚いた顔して。こっちも困るんだけど」
紙にペンを走らせている。
「死ぬんなら早く死になよ。まぁ、この世に存在できるかできないかは閻魔様の判断だけどね。それと、死ぬんならここじゃなくてもっと下流の方で死んでよね。ここ私のお気に入りの場所だから、貴方のその穢らわしい血液で汚さないでね。ていうか、首切るの痛いよ?そんな死に方で大丈夫?もっと楽な死に方あるんじゃない?」
楽器を弾いている。
「誰にも迷惑かけたくないんなら、この先の大きい湖で溺死してきたら?魚のご飯になるから誰なのかなんてわかりっこないよ。ま、誰にも迷惑かけない自殺なんて存在しないけどね。・・・あれ、何か忘れているような…ああ!そうだ!今日は見たいテレビがあったんだった!テレビって面白いよねー。…どうしたのさ、そんなにこっち見て。…え?私達のファンなの?そうなんだ、へぇ。あ、そうそう。明日ライブするんだけど見に来る?ああ、貴方は死ぬから無理か」
…え、それマジで?それ行かなきゃ死ねないじゃん。
「あらそう。友達も好きなの?」
うん、自分が勧めた。
「そうなんだ、友達に変な音楽押し付けておいて人生狂わせておいて自分は死ぬだなんてばかやろーだね」
まぁ、確かに。
「…あぁ、そうだ。漫画も読まなきゃ、読み終わってないの忘れてた。貴方も知ってるの?」
その漫画の主人公ね、覚醒して新しい能力手に入れたんだよ
「…って、ネタバレしないでよ。私は単行本派なの。次が出るのはいつだったかな…それまで許さないからね」
「死ぬ前には色々確認しておいたほうが良いよ。ちゃんとガスの元栓閉めた?窓はちゃんと戸締りした?大事なものは壊しておいたほうがいいかもね…まぁもったいなくて無理だけど。ああ、私占い出来るんだよ。練習したんだ。貴方の来世を占ってあげるよ。えーと…タマネギだってさ」
…死ぬのまた今度にしたら?
死にたければ勝手に死ねば良い。
ただ、誰にも迷惑をかけるな。
私は自殺を否定するわけではない。
だが、肯定もしない。
誰かが自殺しても私は弔いはするが、可哀想だとは思わない。
だって、死にたいと望んだのはその当人だろ。
なら、私はその意見を尊重しよう。
どうせ、毎日誰かが死んでるんだから。