(5)
「あの……何でこんなに暑かとですか?」
結局、光宙は北海道の市長選に出馬する事を選択した。
「何も自分で選択せずに状況に流される事を選んだ」のを「選択」と呼べればだが。
そして、一端、東京まで来て、市ヶ谷と共に北海道に行く事になった。
「いや……今年は、例年に比べて涼しい筈ですが」
「でも、九州より暑かですよ」
今、光宙達が居るのは、二三区内だが山手線内ではない、と云う微妙な場所に有る、市ヶ谷の会社の本社の社長室だった。
「ところで、中馬さん、畑の方は……」
「ベトナムから来てくれている人達に任せとります。一番、古株の人が、今年で4年目ですんで」
「それは結構。じゃあ、必要なものが有るか確認しますね。まず、実印」
「有ります」
「写真入りの身分証」
「運転免許が有ります」
「戸籍謄本」
「取ってきました」
「住民票の写し」
「有ります」
市ヶ谷から持って来るように言われたものは全て揃っていた。
「じゃあ、選挙事務所も、もう用意していますので」
「は……はぁ……」
「あ、それと、もう1つ変な事を頼んでいいですか?」
「何でしょう?」
「立候補する際は……『ちゅうま みつひろ』ではなく『なかま みつひろ』と名乗って下さい」
「はぁ?」
「名乗って下さい」
「いや、ですが……その……何で……ですか?」
「訳は後で話します。『なかま みつひろ』です」
「え……えっと……」
「『なかま みつひろ』です。いいですね?」
「は……はぁ……」