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8畳間に円形のチャブ台を置いて、光宙と光宙の家で働いている4人の技能実習生は夕食をとっていた。
光宙の家で技能実習生が働くようになって一〇年近く。
3年前に光宙の母親が死んでから、食事は光宙が作るようになったが……手際に関してはマシになったが、腕前に関しては光宙自身も上がったようには感じていない。
全員が、美味いとも不味いとも言わず、黙々と食っていた。
「社長さん、昼間、来た人、誰だったんですか?」
一番長く働いているベトナム人の技能実習生のゴがそう訊いた。
「東京の取引先の人じゃけど……」
「大丈夫な人ですか?」
「何がね?『大丈夫か?』ってどう云う意味ね?」
「日本人で雰囲気が良く似てる人知ってるから」
「どこの人じゃ?」
「私を日本に連れてきたブローカー」
「はぁ?」
「私の給料の半分を、今、そのブローカーに払ってるでしょ」
「あ……ああ……」
「そう云う人」
「そ……そうか……」
「ええっと、社長さん、こう云うのって日本語だと『差し出がましい』って言うかも知れないですけど」
一番若い実習生のナムが手を挙げてそう言った。
「何ね?」
「変な詐欺に引っ掛からないで下さいね。ここが潰れたら、私達、日本で生きてけなくなるから」
「いや……じゃから……」
「あの人みたいな、変に人なつっこい人ほど気を付けた方がいいですよ」
「そ……そっかね……」