(1)
「い……いや、あの、その……ちょっと……ちょっとだけ待ってもらえますか?」
光宙は市ヶ谷にそう言った。
「いや、形だけですよ。形だけ」
「形だけと云っても……その……何かおかしくないですか?」
「何がですか? 大丈夫ですよ」
「い……いや、九州に住んでる俺が北海道の市長選に出られる訳無いでしょ」
「法律上は問題ありませんよ。選挙管理委員会にも確認しました」
「は……はぁ?」
「地方議会選挙の場合は、その地域に住民票がないと立候補出来ませんが……都道府県知事や市長・村長・町長なら日本国籍が有って、決った年齢より上なら立候補だけは出来ます」
「ですけど……」
「困ったなぁ……」
「はぁ?」
「いやね……東京の青年会議所に居た頃に世話になった人の頼みでしてねぇ……。中馬さんならと思って頼んだんですが……」
「あの……立候補って……いつからですか?」
「来週からです。その気が有るんでしたら、早めに戸籍謄本を取って、北海道に行く準備をしてて下さい」
「い……いや……でも……その……」
「お願いします。いやね、私の世話になった人が、どうしても誰かいい人を紹介してくれ、選挙費用は自分で出すから、って言ってるんで」
「い……いや……じゃあ、何で、その人が立候補せんとですか?」
「他に重要な仕事が有るので……」
「は……はぁ……」
「まぁ、考えといて下さい」