札束の海
「で、ここどこ?」
「海です」
「海か」
にしては、なんだか白いな。
「いや、湖ですね。“そちら”の基準で言うと。海だとこれは狭すぎます」
「ああ、そっち」
僕としては、明らかに水じゃなくて紙っぽいのが降り積もっているとこが気になるんだけど。
「ここには名称などありません。我らに言語が必要ない、というのも関係してるのでしょうが、一番の原因は『誰もここへ来たがらない』ことだと私は思っています」
「それで、僕をここに連れてきてどうしたいの?」
「百聞は一見に如かず、です。これを」
と、一枚の紙幣を投げ渡された。彼女が『湖』と呼ぶ湖面から掬い上げた一枚である。
激しく風も吹いているのに、ノアが投げた紙幣は導かれるように僕の手元へ一直線に飛んできた。
それにも若干驚いたのだが、紙幣を受け取り、そこに描かれていた内容を確認するとさらに驚いた。これは、
「福沢諭吉じゃないか」
万札である。
「? …………ああ、“そちら”ではそう呼ぶのですね。ちなみにこれは、最近この場所に降り積もった最も新しい紙幣となります」
「え、それってつまり」
「ここには、“そちら”側で使われなくなった硬貨や紙幣が無限に眠っているのです」
へえ、じゃあこの白いの全部お金ってことか。
「これが、“こちら”と“そちら”がどこか知られざる道で繋がっているのではないかと、私が考えた根拠です。シキさんは異邦人なので、一度は見てほしいと思って連れてきました」
「なんだか、奇妙だよね」
「異世界なので」
「君が言う?」
笑いつつ、湖の方に目を向ける。
そのとき丁度、湖面で紙の群れがざわめき立つのが見えた。
「あ、くじら」
「はい?」
「いやほら。今くじらが跳ねてるのが見えてさ」
「……………………私には、何も見えませんよ?」
湖は、もう何も言わなくなっていた。
そろそろ紙幣って変わりますよね




