夏に至れない病
死に往く夏に敬意はあるか。
そう問うた君の、至極真剣な横顔を覚えている。
夕方は肌寒い6月下旬だった。街の灯りが少しずつ灯り始める時間、隣を歩いていた君はそう言っていた。
真っ白なパレットの上で秩序無く溶いた絵の具みたいな、空と雲がごちゃ混ぜになった天井を見つめるひとみの、その美しさ。床にぶつけて割れた硝子が散り散りになったようなひかりがその目に舞っている。
夏至なんだよ、と、かみさまが丁寧に作り上げた小さな口が、言葉を紡ぐ。返した言葉は頼りなく、吹いた湿っぽい風にあっさりと攫われてしまった。
「これから夏なのにね」
「──じゃあ、まだ死なないじゃん」
思わず飛び出した強い口調に対して、笑い交じりの呼吸が落ちる。君のやわらかい茶色の髪が、動きに合わせて零れるように揺れる。
「案外夏真っ盛りって、一年で一番日が長いわけじゃないんだな、ってはなし」
生まれても、死んでもいないみたい。
「夏ってどこにあるんだろうね」
影が伸びる。段々と、夕に溶けていく。つまづきそうな君のよたよたとした足取りが、少しだけ胸をざわつかせる。
支えるために伸ばした手を、拒むことなく握りしめられた。背後から襲う冷たい闇が、タイムリミットだと暗に告げていた。
「ここにあるでしょ」
そう言えば、君ははらりと笑う。青色の吐息が口から零れて、そうして君は少しだけ眠った。一番日の長い日なのに、生きているでしょう、なんて、抗議する暇もくれないで。