第5話【魂を操る者】(前編)
新しい愛武器、 黒月を手に入れた清火は次元迷宮で武器の試運転をしていたところ、 結合迷宮を発見。
そこで清火は不死の王、 リッチに遭遇した。
「まずは雑魚から刈り取るか……」
清火はリッチによって呼び出されたアンデット達を鎌と黒月で素早く倒していく。
しかしリッチは倒した側から次々と別のアンデットを呼び出してくる。
……本当に面倒……かといってあの高さに浮いていられると鎌じゃ届かないし……
数十メートルはある洞窟の天井近くの高さまで浮き上がっているリッチには清火のジャンプでも届かない。
しかし遠距離攻撃も無効なため飛び道具も使えない。
「……いいこと思いついた……! 」
何か思いついた清火は壁に向かって走り出した。
すると清火は壁の側面に沿って走るように壁を登り始めた。
やっぱり今の私の脚力ならいけた!
そして清火はリッチの目線まで登ると勢いを付けて壁を蹴った。
次の瞬間、 清火は猛スピードでリッチの所まで飛んで行き、 通り過ぎざまに鎌でリッチの首を斬り飛ばした。
「弾けるのは遠距離攻撃だけみたいね……これでリッチの魂も私の物……」
そして清火が地上へ着地すると同時にリッチと共にアンデット達も灰となって消えて行った。
……ここには他には何かないかな……結合迷宮には必ずと言ってもいいくらいの確率で珍しい素材や武器があるはずなんだけど……
「……ん? この宝石は……」
何か無いかと辺りを探した清火はリッチが消えた場所の真下に赤色の宝石が落ちているのを見つけた。
……使い道は分からないけど……一応貰っておこう……
「お……丁度ボスも倒されてコアも見つかったのか……一体何時間掛かったんだろ? 」
スマホに迷宮攻略の報告が来た清火は早々にその場を退散した。
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無事新しい武器の試運転を終わらせた清火は自宅に戻り、 先程拾った宝石を調べることにした。
まさか迷宮から出たらもう夜が明けてたなんて……ずっと一人で潜っていたから時間が分からなかった……
「……それにしてもこの宝石……何なんだろう……迷宮の素材辞典にも載ってないし……」
またローナに聞くのもなんかあれだしなぁ……しばらくは保留でいいかな……今は朝だけど眠いし寝よ……
そして清火は宝石を調べるのは後回しにし、 ベッドに向かおうとした時……
「……ん? 電話……しかも協会から……」
清火のスマホに攻略者協会から電話が掛かってきた。
「はい……清火です」
『あっ、 モルス様ですか? 早朝から申し訳ありません』
電話の相手は拳一だった。
こんな朝早くから電話してくるなんて……何かあったのかな……
拳一は話を続ける。
『実はモルス様に立会人としてある攻略者の迷宮攻略に同行して頂きたくて……』
「ある攻略者? 」
まぁやることも無かったし別にいいか……
「分かりました、 場所は? 」
『よろしいのですか! ? 』
「ん? どういうことですか? 」
拳一の話によると今回の立会人をする攻略者が入ることになる迷宮はAランクの危険な迷宮になるそうで、 しかもその迷宮を攻略する人物は傷害罪で捕まり、 最近刑務所から出所したばかりの危険人物だと言う。
そこでその攻略者が再び犯罪をしないかどうか一定期間、 迷宮攻略時のみ監視をする役を付けなければならない。
……なるほどねぇ……そんな危険な依頼を普通の攻略者が引き受ける訳も無いか……
『何せSランクの攻略者達は普段から多忙でして……Bランクの攻略者は何人か招集はできたのですが……やはり心許ないと思いまして……』
「それで最後の希望として私に電話してみたってことですか……」
『……はい』
「まぁ、 構いませんよ……別に忙しくありませんし」
『この話を聞いてもまだ引き受けて頂けるとは……ありがとうございます! 』
「はぁ……とにかく集合場所と時間を教えて下さい」
そして清火は拳一からその迷宮の場所と集合時間を教えてもらい、 向かうことにした。
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東京、 渋谷の一角にて……
拳一さんが言ってた場所はここのはず……
「お、 あの人達かな……」
迷宮の入り口付近にて少人数で集まっていた攻略者を見つけた。
「すいません、 皆さんもしかして拳一さんの指令で? 」
「ん? そうだけど……もしかして君も? 」
「あ、 はい……良かった、 合ってた……」
……にしても集まってる攻略者は皆私よりも年上か……まぁ当たり前だけど……
「なぁ……あれが最後に招集された攻略者か……? 」
「らしいな……拳一さんの話だとDランクの攻略者らしい……」
「えぇ……弱いじゃん……」
「仕方ないさ……協会の命令なんだし彼女だって断れなかったんだろう……」
「可哀想になぁ……俺達でフォローしてやらないとな……」
清火を見た攻略者達はひそひそとそんな話をしていた。
……まぁ仕方ないか……私は公式上ではDランクだし……別に命令されたわけでもないんだけどなぁ……
そんなことを考えていると迷宮の清火達の前に一台のワゴン車が止まった。
すると後部座席の扉が開き、 そこから一人の青年が降りてきた。
「君らが僕の監視をする攻略者さんかぁ……今日一日よろしく、 僕は和泉 将太と言います」
青年の態度は不気味なほどに丁寧かつ普通だった。
髪も瞳も一般人とは変わらない黒色だった。
……こんな青年が犯罪をしたなんて……とてもそんな雰囲気じゃないけど……確かにAランクの実力があるのは分かる……
「俺達だって暇じゃないんだ、 さっさと行くぞ」
「……」
そして清火達は迷宮へ入っていった。
…………
迷宮の中は洞窟となっていた。
洞窟系の迷宮……嫌な記憶が蘇る……
そんなことを思いながら清火は他の攻略者達の後を付いていった。
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しばらく清火以外の攻略者達が魔物を倒しながら迷宮を進んでいると分かれ道に着いた。
「これは……一度二手に分かれて探索した方が効率がいいかもしれないですね」
将太がそう提案すると監視役の攻略者の一人が言った。
「なら俺達二人がこいつの監視をしておくよ、 お前ら三人は別の道を探索してくれ」
……あの二人じゃ不安過ぎる……相手はAランクだし……
二人だけの監視に不安を感じた清火は……
「私もそちらに行きます……監視はいくらいても困りませんし……」
監視役二人に付いていこうと提案した。
「まぁ……いいけどよ……足だけは引っ張んなよ? 」
「大丈夫です」
しぶしぶではあったが攻略者達は了承した。
そして清火は将太の監視役二人と共に分かれ道を進んでいった。
…………
「……にしても何もねぇな……こっちは外れかぁ? 」
「……」
実はこの時、 清火は当たりの分かれ道を知っていたのだ。
もう片方の道の先では魔物の気配はあったけど素材は豊富なはず……こっちはこのまま進んでも行き止まり……普通に考えれば前者の方を選ぶけど……今回は監視が目的だし……行き止まりに当たったら戻ればいい
そんなことを考えていると行き止まりに着いた。
「なんだ行き止まりか……じゃあ戻ろうぜ」
そう言って監視役二人は来た道を引き返そうとした。
しかし将太は動こうとしなかった。
「ん? どうした? ほら、 行くぞ! 」
「……」
将太は何も言わない。
……この気配……何かおかしい!
何か感じ取った清火は何を思ったのか黒月を将太に向かって撃ちだした。
しかし弾丸は将太の体を透けていってしまった。
次の瞬間、 将太の姿が歪みだし消滅してしまった。
「しまった……これは分身だ! ! 」
「なっ、 だとしたら本物は! 」
あの野郎! やっぱりロクな事考えてなかった! !
「急いで戻るぞ――」
監視役二人が急いで戻ろうと走り出した瞬間、 清火は目にも留まらぬ速さで二人を追い抜き、 暗闇に消えてしまった。
「なっ……何なんだ……あいつ……! ? 」
「あの身体能力……普通じゃないぞ……」
二人は清火に置いていかれ、 驚きの余り呆然としてしまった。
…………
分かれ道の所まで戻った清火はもう一つの道に走っていった。
くそっ……間に合え……間に合え! !
そんな清火の願いは空しく、 別れた二人の元まで着くと……
「……っ! 」
「おや? 君は……意外と早かったね? 」
返り血で服を汚した将太と、 その足元に無惨にも殺された二人の姿があった。
「お前……何故……」
「いやぁ、 殺すつもりは無かったんだけどさぁ……泣き叫ぶ姿を見てたら……つい殺したい衝動に抗えなくなっちゃって♪ 」
不気味に笑いながら将太は言った。
この異常者が……でも私にこいつを殺す理由はない……拘束して協会に突き出さないと……
すると将太は装備していた短剣を手に取った。
「君、 中々の実力者なんだろう? 殺し甲斐のある相手を丁度探してたところなんだぁ……」
「……」
仕方ない……人と戦うのは初めてだけど……やるしかない……
そして清火は黒月を両手に出した。
次の瞬間、 将太は姿を消し、 突然清火の目の前に現れた。
なっ……まさか……縮地か!
すると将太は清火の首に向かって短剣を振った。
しかし清火はギリギリで攻撃をかわし、 距離を取った。
「いいねぇいいねぇ! その顔だよぉ! 」
「……チッ」
面倒な……かと言って黒月を撃ったら死んでしまうし……
そんなことを考えていると清火の背後に突然将太が現れ、 攻撃してきた。
「っ! ? 」
清火は黒月で短剣を受け止め、 弾いた。
目の前に姿があったのに……また分身か……
「うーん……面倒だなぁ……こっちとしては早く斬りたいんだけどなぁ……」
すると将太の姿が突然消え、 目視で確認できなくなった。
これもあいつの能力か……流石はAランク……普通の攻略者とは戦い方が違う……奴の場合は人を殺すのに特化してるみたいだけど……
清火は感覚を研ぎ澄ませ、 将太の気配を感じ取っていると……
「おい、 大丈夫か! 」
「やっと追い付いた……」
先程清火が置いていった二人が到着した。
まずい、 今は!
次の瞬間、 二人の首から血が噴き出し、 倒れてしまった。
「はははっ、 やっぱり人の首を斬るのは魔物と違って楽しいなぁ! 」
その声と共に二人の死体の間に将太が現れた。
「……」
……もう我慢ならない……もう目の前で人が殺されるのは見たくない……こいつは取り返しのつかない罪を犯した……こいつは……私が……
裁く……!
次の瞬間、 将太は再び姿を消し、 清火の背後に回り込み斬りかかった。
しかし……
「……うん? これは……」
清火の周りに青白く光る炎のような物体が現れ、 将太の短剣を弾いた。
それはまるで巨大な鱗のような甲殻を持っており、 長い体をしていた。
それはまさしく巨大なムカデだった。
「……」
清火は振り向き、 将太を睨み付けると巨大なムカデは将太に向かって攻撃してきた。
将太は間一髪で攻撃を避け、 距離を取った。
「そのムカデは……まさか……大ムカデ? 」
「そうよ……私が前に倒した大ムカデの魂……」
そう、 これは清火の新しい能力の一つ……殺した対象の魂を具現化させ、 操る能力。
リッチの持つ死者を呼び出し操る能力である。
……初めてにしてはうまく操れたか……さて……あと何匹呼び出せるかも試そう……
そして清火は先程呼び出したムカデと同じものを三、 四体程出現させた。
「なるほど……上限は無さそう……」
「……何なんだ……君は……」
将太の顔からは先程の笑顔が消え、 引きつった表情になっていた。
そして清火は再び将太を睨み付けて言った。
「私は……」
「お前の死神だ……! 」
清火の反撃が……今、 始まる。
続く……