第4話【奪魂の銃】(前編)
前回、 清火は新しく手に入れた能力を使い自身の使う武器を新たに作り上げた。
「はぁ……何とか閉店まで間に合った……」
武器作りに夢中になっていた清火は買い物をすっかり忘れてしまっていたのだ。
……さて、 準備したら迷宮に行きますか。
そして清火は買い物した物を片付けると着替えて外へ出た。
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数分後、 清火は目的の次元迷宮に到着した。
今回行くのは前より一つ下のBランクの迷宮……新しい武器を少し試したい……
そして迷宮の入り口が開かれた。
…………
『バシュンッ! バシュンッ! 』
複雑な地形をしたジャングルの中、 清火は茂みや木の上に隠れながら素早く魔物達を銃で始末していく。
……中々使い勝手がいい……頭に撃てば一発で吹き飛ぶ……魔力の弾だから火薬による大きな発砲音もしないから目立たずに動ける……
しばらくジャングルの中で狩り続けていると……
「……ん? 」
この気配……空から?
上空から強い気配を感じた清火は見上げると……
『キエェェェェェェェェェ! ! ! 』
「あれは……コカトリス……! 」
コカトリス、 神話では鳴き声で人を石に変える鳥の魔物である。
石化はまずい……治療のできる魔法も知らないし薬も持っていない……でも、 今の私にはこの銃がある。
清火にまだ気付いていないコカトリスは清火の上空を通り過ぎた。
それを清火は木々に隠れながら素早く追う。
「……ここ! 」
一段と高い木を見つけた清火は目にも留まらぬ速さでてっぺんまで登り、 高く飛び上がった。
……来た、 射程距離圏内に到達!
コカトリスが清火の銃の射程圏内に入った瞬間、 清火はコカトリスの眉間に二発撃ち込んだ。
もろに受けたコカトリスは力尽き、 そのまま地上へ落ちて行った。
……攻撃されてまずいなら、 攻撃される前に殺せばいい……
難なくコカトリスを倒した清火はコカトリスが落ちた場所に向かった。
…………
「……酷い臭い……コカトリスって死んだらすぐに体が腐るのね……」
コカトリスの死体を前にして清火はその強烈な臭いに思わず鼻を覆った。
コカトリスの体の中に何か入ってないかな……武器の素材にしてみたいんだけど……
強烈な臭いに耐えながらも清火はコカトリスの死体を漁っていると……
「……これって……水晶玉? 」
コカトリスの心臓部分からハンドボール程の大きさの水晶玉が出てきた。
それはどす黒い紫色をしており、 いかにも禍々しい雰囲気を漂わせていた。
……凄く呪われそうな感じだけど……一応貰っておこうかな……何か使えそうだし……
気味悪がりながらも清火はその水晶玉を収納した。
さて……そろそろボス部屋にでも行こうかな……この迷宮に入って何時間か探索してるけど未だに報告が無いし……
そして清火はボス部屋に向かった。
…………
『……』
清火が去った後、 コカトリスの死体は何故か地面の中へと引きずり込まれた。
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「……やぁっと見つけた……こんなツルに隠されていたんじゃ気配だけじゃ分からないわけね……」
数十分程探し回り、 清火はツルに覆われていたボス部屋の扉を見つけた。
……しかもこの気配……ただのBランクのボスじゃない……この感じ、 あの時と一緒……
「……もう……油断はしない……! 」
そして清火は部屋に一人で入った。
…………
「……うっ……臭い……死臭……? 」
部屋の中ではコカトリスの死体とは段違いの腐敗集がした。
でも……何故だかそれほど苦しくない……精神力も上がってるのか……
暗い部屋の中、 奥へ進んでいくと……
「これって……ドラゴン! ? の……死骸? 」
部屋の中央辺りまで来た所にドラゴンの腐った死骸が転がっていた。
すると次の瞬間、 ドラゴンの死骸は突然動き出した。
「……なるほどね……ドラゴンゾンビか……! 」
ボスはドラゴンの屍から蘇った魔物、 ドラゴンゾンビだった。
こうも大きいと銃だけじゃ対処しきれない……鎌の出番か……
そう判断した清火は銃をしまい、 大鎌を出した。
清火に気付いたドラゴンゾンビは青白い炎を吐き出し、 襲い掛かってきた。
清火は素早く回避し、 距離を詰めた。
そして間を空けずにドラゴンゾンビの腕を一本斬り飛ばした。
「……やっぱりあれじゃ無理か……」
清火の斬り飛ばしたドラゴンゾンビの腕は黒い塊になり、 再び元の場所に戻り、 再生した。
名前の通り不死って訳ね……厄介な……だけど必ずあの力には根源があるはず……恐らく心臓部……そこを狙えば……
そんなことを考えている矢先、 ドラゴンゾンビの眼が突然緑色に輝き出した。
「っ! 」
危険を感じた清火はドラゴンゾンビの視線から外れるように避けた。
するとドラゴンゾンビの視線を受けた個所に生えていた植物が石化したのだ。
この能力、 まさか……コカトリスの! ?
「さっきからコカトリスの気配が混じってると思ったら……そういうこと……」
実は先程のコカトリスの死骸はボス部屋に運ばれ、 ドラゴンゾンビの中に吸収されていたのだ。
まさか死体を吸収するなんて……ますます厄介な……
「だけど……倒せば確実に強くなれる……」
すると清火は姿を消し、 部屋を駆け回り糸を張り巡らせた。
ドラゴンゾンビの体は糸に絡まり、 動きを止めた。
でか物は動きが遅くて助かる……
そして清火は飛び上がり、 ドラゴンゾンビの心臓部分に手を当てた。
「……強酸性の毒……斬っても無駄なら溶かせばいい……さぁ、 心臓を見せろ! ! 」
そう言って清火は強酸性で溶けて中身がむき出しになった心臓部を見た。
……! ? 何もない! ! ?
そこには本来あると思われた心臓が無かったのだ。
そんな……絶対心臓部はあるはず! 公式の情報には間違いなんて無いはずなのに……
清火が戸惑っているとドラゴンゾンビは糸を引きちぎり、 清火に襲い掛かってきた。
清火は慌てて距離を取った。
「……はぁ……一体どうすれば……ん? 」
焦り始めた清火はふと気づいた。
コカトリスを吸収したドラゴンゾンビ……そして心臓が無い……何故、 コカトリスの死骸だけ……まさか!
何かに気が付いた清火はコカトリスから取り出したあの水晶玉を手に出した。
「……こんなに近くにあったのね……」
そう呟くと清火は水晶玉を砕いた。
するとドラゴンゾンビは突然もがき出し、 苦しむ様子を見せた。
やっぱりこれが心臓だったのね……何らかの経緯でコカトリスの体内にドラゴンゾンビの心臓が入り込んでたんだ……
「死しても尚……苦しませてまで殺す程鬼畜じゃない……今すぐ楽にしてあげる……」
そう言うと清火は目にも留まらぬ速さでドラゴンゾンビの頭上まで飛び上がり、 大鎌を体と一緒に回転させながら上から下へと通過していった。
清火が地面へ着地するとドラゴンゾンビの首は斬り落とされた。
しかし今度は再生することは無かった。
ドラゴンゾンビの魂……ゾンビと言えどドラゴン……一体どんな能力が手に入ったのやら……
そんなことを考えながら清火は部屋を後にした。
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迷宮のコア事態には興味は無い清火は先日と同じく、 ボスを倒した後は一人で迷宮を出て行った。
「……」
夜の街の風景を眺めながら清火は高いビルの上で黄昏ていた。
……今回の迷宮攻略で分かった……この拳銃はまだ改良できる……
清火は手に拳銃を出した。
拳銃は魔力を撃つ衝撃でかなり傷が付いていた。
「……もっと頑丈な素材が要る……でも探すのもそろそろ面倒になってきたなぁ……」
迷宮攻略の中で頑丈な鉱石を見つけるのはかなり運が必要だし……Sランクの迷宮でも見つかる確率は六分の一だって言われてる……そしてそのSランクの迷宮が現れるのは世界中の迷宮を合わせて何千分の一……いくつか日本に出現するとしても都合よく近場に現れる訳でもないしどう考えても効率が悪い……
「……アイツに頼んでみるかぁ……あまり会いたくないけど……」
そう呟くと清火はビルから飛び降りた。
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数分後……
清火はとある路地裏に着いた。
……確かここで店をやってるって聞いたんだけど……何せ高校の時は少ししか関りが無かったしなぁ……
しばらく薄暗い路地裏を進んでいると……
「……あった……」
清火が立ち止まった場所にはいかにも怪しい雰囲気を放つ金属の扉があった。
扉を開けると地下へ続く階段があり、 清火はその階段を降りて行った。
「……すいませーん……誰かいる? 」
一番下へ降りた先にあった部屋を覗き込みながら清火は恐る恐る呼びかけた。
部屋には見たことも無い機械が置いてあり、 そこら辺にガラクタのような物が散らかっていた。
……いないのかな……?
「すいませーん! ! 」
清火は大声で呼びかけると今度は部屋の奥から何者かが現れた。
「うるさいなぁ……そんな大声で呼ばなくても聞こえてるさねぇ……」
部屋の奥から現れたのは一人の女性だった。
よれよれの白衣を着ており、 髪は金髪の長髪であり、 作業をしやすいようにか髪留めでまとめられていた。
その瞳は青色をしており、 外国人を思わせる風貌をしている。
「久しぶりね……ローナ……」
彼女の名はローナ・ウェンデッタ、 清火とは高校の時からの知り合いである。
彼女には特殊な趣味があり、 次元迷宮から掘り出された珍しい素材を研究し、 兵器を開発しているのだ。
その素材の入手ルートは……違法な物もあるため不明である……
「……うん? アンタ……誰……」
「まぁ……そんな反応になるよね……清火って言えば分かる? 」
するとローナは驚いた様子で清火に駆け寄った。
「oh! キョウカ! どこかで見た事あると思ったら! 」
……あっさり受け入れちゃうのね……まぁローナらしいけど……
ローナは母国アメリカから引っ越してきた人間なのである。
「今日はあなたに頼みたいことがあってね……今いい? 」
「勿論いいに決まってるわよ! さぁさぁ座って座って! あ、 お茶入れるね! 」
……やっぱりこのテンションには慣れないなぁ……
ローナは清火の事を何故か気に入っており、 一方的に親友と思われているそうな……
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部屋にあるソファーに座り込み、 二人はお茶を飲みながら話をした。
「珍しいわねぇ、 あなたからここに来るなんて」
「ちょっと頼みたい事があってね……」
するとローナは清火の体をまじまじと見つめてきた。
「……にしても随分と可愛くなったわねぇ……背まで縮んで……」
「……///」
ローナは少し変な性癖があるからなぁ……襲われでもしなきゃいいけど……
気を取り直して清火はローナに作った拳銃を見せた。
「……これの耐久力強化のために新しい金属を調達したいの……ある? 」
拳銃を見たローナは驚いた様子で拳銃を手に取った。
「これは……普通の拳銃じゃない……魔力を流し込んで弾を形成する構造になってる……キョウカ、 あなたまさか……! 」
「その通りよ……色々あって私に魔力が宿ったみたいでね……説明すると長くなるけど聞く? 」
「……いや、 大丈夫……攻略者には興味はないからね……あぁ、 親友としてのキョウカは別よ? 」
……まぁ、 説明する面倒は省けたからいいか。
「それよりキョウカ、 この拳銃……もう使わないのよね? 」
「? うん、 もっといい素材があるなら変えようかと思ってたし……」
それを聞いた瞬間、 ローナは側に会った作業机に駆け込んだ。
すると引き出しから様々な道具を取り出し、 拳銃を分解し始めた。
行動までが速すぎ……まぁいい素材はあるっていうことでいいかな……
しばらくするとローナは清火の元に戻ってきた。
「hmm……キョウカ、 この銃はまだ改良できるわね……」
「そう思ってわざわざあなたに頼んだのよ……構造は大体理解した? 」
「私を見くびらないでくれる? こう見えて兵器開発のプロなんだから! 」
そう言うとローナは部屋の奥に姿を消した。
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数十分後……
「いやいやお待たせ! キョウカにぴったりな金属を持ってきたよ! 」
そう言ってローナが清火の前に差し出したのは真っ黒な鉱石だった。
「……これは? 」
「漆黒魔法鉄……次元迷宮で見つかった最硬の金属よ……世界で見つかったのはこの塊しかない……」
「えっ、 それってもしかして……」
清火がローナの顔を見るとローナは物凄く悪党の顔をしていた。
あぁ……やっぱそういうルートから……
するとローナは鉱石の説明をし始めた。
「この金属には他の金属とは違って元から魔力を宿しているの……しかも自分で魔力を生成しているみたいで、 決して魔力が無くなることはない……」
次元迷宮から見つかる鉱石の中には魔力を宿す金属もある。
そしてその金属を加工し、 武器を作ることで商売をする者達も少なくない。
しかしその武器はどれも高級、 短剣一本買うのに数十万はくだらないそう……
それを知っていた清火は驚愕した。
「噓でしょ! ? 自ら魔力を生成する金属って……高級品どころか世界的な大発見じゃん! 」
「そう……だからこそ私はこの鉱石の入手に血を吐くような努力をしたのよ……これなら今までにない最強の兵器が作れると思ってね……でも……」
ローナは少し困った表情をした。
「この金属……最硬なだけにあって加工が難しくて……私の持ってる最強のレーザードリルでも弾かれる始末……」
なるほどね……だから原石のまま出してきたのね……でもそれなら私の能力で何とかできそうだけど……
そう思った清火はローナにある提案をしてきた。
「ローナ、 もしかしたらこの金属……私なら加工ができるかもしれない……」
「えっ! ? 」
後編へ続く……