第3話【黒猫の死神】
前回、 謎の声から特別な力を受け取った清火は事実上Sランクの力を持ったということが発覚し、 公に晒さないことを条件にSランクへと昇格した。
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その日の夜……
「……さて……行きますか……」
昼間だとこの格好は動きにくいからね……夜中に出現してるAランクの迷宮にでも行こう……
事実上Sランクへと昇格した清火には一日一回の迷宮攻略のノルマは無くなり、 完全自由活動ができるようになった。
それに加え、 Sランクの攻略者には特別待遇として毎月50万円の給料が支給されるのだ。
結果的にSランクになれて良かったか……一人暮らしの資金にはもう困らないし……何なら政府の要請が無い限りずっと遊んで暮らせるし……でも私の目的はそれじゃない……
「もっと……喰らわなきゃ……」
そう呟くと清火は深夜の街へ出た。
…………
「……Aランク迷宮……あった……」
清火はなるべく人の集まっていない迷宮を探し、 そこへ向かった。
「……ここがAランク……」
確かに雰囲気が違う……強い魔物の気配を凄く感じる……
清火は迷宮の入り口に着いた。
他の攻略者達は清火を見た。
すると攻略者の一人が清火に突っかかってきた。
「おい、 迷子なら交番に行ったらどうだ? 」
それを聞いた他の攻略者達はクスクスと笑っていた。
……はぁ……
清火は冷静に言い返した。
「そんな冗談言う余裕があるならきっとボスも一人で倒せるんでしょうね……」
その言葉にその攻略者は顔をしかめたが何も言わずに清火の側から離れた。
面倒な奴に付き合う暇は無い……私は強くならないといけない……
そして迷宮が開かれた。
…………
中へ入るとそこは神殿のような迷宮になっていた。
他の迷宮とは違う……こんな構造の迷宮を見るのは初めてだ……
清火は迷宮の奥へと進んでいった。
中は入り組んでいたが清火にとっては全て手に取るように分かる。
……奥に敵が十数体……この音は……骨? ……まぁ丁度いい……試しに今まで喰ってきた魂の能力を使ってみようか……
すると清火は蜘蛛の糸を手から出し、 通路に張り巡らせた。
これはあの蜘蛛の能力……何となくだけど使い方は分かる……
数分後……
清火は蜘蛛の糸の後ろで待機していると奥からスケルトンの兵士達が走ってきた。
スケルトンか……大した能力は無いけどまだ成長はできるか……
そしてスケルトンは透明な蜘蛛の糸に気付かず清火に向かってきたがそのまま糸に引っかかり、 動きを封じられてしまった。
「さて……喰わせてもらうよ……」
そう言うと清火は鎌を出し、 スケルトン達をバラバラに切り刻んだ。
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その後も清火は同じ罠を使いながら魔物達を倒していった。
ここまで魔物達を狩ってきたけどロクな能力を持った奴はいなかったな……今のところ役に立つ能力は蜘蛛糸と大ムカデの強酸性の毒……それとあのサイクロプスの頑丈な体か……
「探索も済んじゃったしボス部屋に行くか……」
そして清火はボス部屋へ向かった。
…………
ボス部屋へ着くとそこにはさっき清火に突っかかってきていた男がいた。
あれはさっきの……ムキになって本当に一人で倒そうとしてるんじゃないでしょうね……
清火はしばらく様子を見ることにした。
「畜生、 あのガキ……俺の方が格上だということを証明してやる! 」
……私実質Sランクなんだけどね……あの人のランクはどの位か分からないけど……
そしてその男がボス部屋に入ると部屋に飾られていた何体もの巨大な鎧兵士の像が動き出した。
流石Aランクの次元迷宮、 ボスも雰囲気が違う……
「うおらぁぁぁ! ! 」
最初に男は自身を強化し、 一体の兵士像に向かっていった。
強化系の能力持ちか……それ系の人は大抵前線に出て魔物を倒していくっていう戦法が無難だけど……回復系の能力持ちが一緒にいないとまともに戦えない……
清火は嫌な予感をしながらも観察を続けた。
男は兵士像に攻撃をすると兵士像は破壊された。
「どうだ、 俺だってできるんだ! 」
一人で何言ってんだか……
男が他の兵士像を狙っていると兵士像達が破壊された兵士像の瓦礫に集まってきた。
「な、 何だ? 」
すると瓦礫はみるみる武器の形に変化し、 兵士像達に武器が渡された。
なるほど……倒せば倒すほど面倒になっていく仕掛けね……しかもあの武器……エンチャントまでされている……
「う、 嘘だろ……こんな数の強力な武器を持った敵なんて……」
男が怖気づくと兵士像達は男に向かって攻撃し始めた。
男は完全に怯えてしまい、 逃げ回ることしかできなかった。
はぁ……もう見てらんない……
男の情けない姿を見て痺れを切らした清火は部屋に飛び込んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ! ! 」
兵士像の持つ剣が男に直撃しようとした瞬間、 剣と共に兵士像がバラバラに斬り刻まれた。
「……へ? 」
「年下の言葉を本気にするなんて大人げない……その結果がこれなんだから……」
そう言いながら清火は瓦礫の上に降り立った。
「お……お前……」
「あんたはそこで見てて……」
次の瞬間、 清火は猛スピードで部屋を駆け回り、 糸を兵士像達に絡め動きを封じた。
「……全ての魂を私の力に……」
そう呟くと清火は糸を一本引っ張り、 兵士像達を糸で斬り刻んだ。
……おかしい……まだ気配が消えない……まさか……
するとバラバラになった兵士像の瓦礫が一点に集まり、 更に巨大な兵士の像が現れた。
なるほどね……原型を残しちゃいけないってことね……
「……なら……」
清火は鎌を出し、 兵士像の上に飛び上がった。
木っ端みじんにしちゃえば問題ない……
次の瞬間、 清火は像の全身を駆け回った。
そして清火が地上に降りると同時に像は粉々になってしまった。
……これでまた能力が追加されたかな……武器錬成能力……今の所使いどころが思いつかない……
そんなことを考えていると男が清火に話し掛けてきた。
「お……お前は何者なんだ……」
「……ただの攻略者だよ……あんたと同じ……」
そう言うと清火は男の前から立ち去った。
「……手柄はあんたにあげる……私はそういうの興味ないから……」
部屋を出る際、 清火はそう言い残した。
ボスさえ倒せればいい……コアは他の攻略者に任せたって問題は無い……
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迷宮を出た清火は早々に別の迷宮へ向かうことにした。
別の迷宮まで場所が遠い……建物を伝って行けないかな……
そう考えた清火は近くの建物の前で思いきりジャンプした、 すると清火の体は建物の屋上まで飛び上がった。
「……行ける……! 」
そして清火は建物を伝って次の目的地へ向かった。
道中、 距離が離れすぎてジャンプでは渡れないところでは糸を使って飛び移ったりもした。
……なんか蜘蛛のスーパーヒーローみたい……
その後、 清火は街の各所に出た次元迷宮をいくつか攻略していった。
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翌日……
清火は自室でスマホを確認すると……
『昨晩、 謎の人影が街の空を駆け回る』
……これって……
ネットニュースに清火と思しき人影が写った写真が掲載されていた。
コメント欄には……
『なんか猫っぽくね? w』
『猫の頭飾りでもしてんのか? 』
『よく見るとでかい鎌持ってんな……』
『じゃあ黒猫の死神ってことでw』
『いやいや、 黒猫の死神って……w』
……まさか撮影してる人がいたなんて……でも写真はどれもブレてるし私っていうことはバレてないか……
そう思いつつコメントの続きを見ると……
『こいつ会ったことあるかもしれん……黒い猫耳の付いてるパーカーを着てる女の子だった』
『マ! ? どんな見た目? 』
『赤い目に白い髪をしてた、 あと肌も色白って感じ』
『絶対かわええやん、 会いてぇ! 』
『深夜にいたから多分基本深夜活動の攻略者かも……』
……絶対あいつじゃん……くそ野郎……まぁ敵になる奴が出なければいいけど……
「ま、 昨日の内に通販で頼んだ代わりの服があるから出掛けることはできるか……目はカラコン、 髪は帽子で隠すか……」
昼間はとりあえず今持っている自分の能力の確認と……買い物か……
そして清火は服を着替え、 外に出て近くの空き地へ向かった。
…………
「さて……武器錬成……一体どんなものか見てみようかな……」
そして清火は地面に手を付けた。
すると地面から黒い砂のような物が浮き上がり、 集まり始めた。
これは……かなり集中力が必要みたい……物質の結合を意識しながら……武器の大体の形をイメージし、 形成……
数秒後、 黒い砂のような物が集まって出来た物は一本のナイフだった。
「ぶはぁ……中々疲れる……これだけ消耗してできたのはナイフ一本……やっぱり漫画のように物質から結合させて武器を作るのは厳しいか……」
……ん? これって……私の持ってる武器から形を形成し直せば……まだマシになるんじゃ……
思いついた清火は収納から何本か剣を出した。
そして清火は武器に手を翳した。
まずは金属の形状を変換……そして結合……
すると剣は形を変え、 一つの塊に結合した。
「できた……ここから新しい武器の形に形成していけば……あの鎌に代わる武器ができる! 」
正直使ってから実感したんだけどあの鎌は予想以上に目立ちすぎてたからなぁ……写真を撮られた以上、 あれを使うのはリスクがあり過ぎる……
その考えに至った清火は鎌に代わる武器を作ることにした。
えぇと……どんな武器がいいかな……近距離でも遠距離でも立ち回りやすい武器……尚かつ目立たない大きさ……
「……拳銃……そう、 二丁拳銃がいい! 威力も立ち回りやすさもかなりあるし」
あとはどのタイプにするか……確か回転式と自動式があったような……自動式はリロードにはカートリッジが必要だけど簡単かつ早い……回転式は銃弾単体だけでもリロードは可能、 しかし技術が無いと素早くリロードはできない……まぁ、 私の場合は器用さも普通の人間とは格が違うみたいだし回転式でも関係ないか……
しばらく悩んだ末、 清火は見栄えを重視して回転式の拳銃を作ることにした。
「さて……詳しい構造はネットで……いや……待てよ? 」
どうせ魔力を持ってるんだ……だったら有効活用した方が良いんじゃ……
何か思いついた清火は早速作業に取り掛かった。
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数時間後……
「……できた……! 私にだけ扱える世界にたった一つの武器……」
時間を掛けて出来上がったのは二丁の回転式拳銃だった。
形は私が一番興味を持ったマグナムをベースにして、 色は夜でも目立たない黒を基調にして……ここまでは普通の拳銃とは大差ないけど……性能は普通の拳銃とは訳が違う……
すると清火は銃を手に持ち、 その辺に積まれていた粗大ごみの塊に向かって引き金を引いた。
次の瞬間、 銃口から光の弾丸が飛び出し、 ごみの塊に着弾した瞬間小さな爆発が起きた。
「……成功だ……! 」
そう、 清火が作ったのは魔法銃である。
この銃は魔力さえあれば弾丸の予備はいらない、 ただ魔力を込めるだけで内部で魔力の弾丸を形成してくれるのだ。
そしてその弾丸は着弾した瞬間、 小さな爆発を起こす。
……威力は申し分なし、 だけど……連射を繰り返すと魔力の消耗が激しくなってしまうのが欠点かぁ……
「ま……一応凡用の武器は完成かな……非常時になればあの鎌を使えばいいし……あとは武器を装備するためのベルトでも作ろうか……って今何時! ? 」
ふと気が付いた清火はスマホの時計を確認した。
「うわぁ、 もう8時を回ってる! 買い物忘れてたぁ! ! 」
そう叫ぶと清火は慌てて走り出した。
続く……