二重人格
町内で有名な彼女は二重人格だった。
「雪乃ちゃん、おはよう!」
「おはようございます」
礼儀正しく、綺麗で可愛い雪乃は町内のアイドルだった。
田舎にある小さな町に住む町人は少なく、その中でも高嶺の花のような存在である雪乃はそれに酔いしれていた。
そんな雪乃と同級生だった華はある日、小さな町ではなく大きな町で雪乃を見つけた。
華は両親の薦めで塾に通っており、その帰りに雪乃を見つけていた。
「雪乃、さん?」
彼女のチャームポイントであった美しい黒髪はなく、金色の髪をしていた。
可愛いより綺麗の印象が強い顔立ちは見るからに“派手”に変わっており、雪乃の顔をした雪乃ではない誰かのようだった。
「ねぇ、秋乃~あのばばくさい人が見てるよ~」
気づかれた、と思った華はすぐに逃げようとした。だが、その行為は無駄だった。
「誰よあの女。知らない~」
雪乃ではなく秋乃、と呼ばれた少女は華のことを知らないと言いどこか行ってしまった。
「あの子は雪乃さんじゃないの?」
知らない振る舞い、知らない格好、知らない名前。
顔のみが彼女を連想させた。
「雪乃さんじゃなくて、秋乃さん……」
華は秋乃の存在を見ないふりして、家へ帰った……