第4話 王妃の願い
皆さん、こんにちは。昨日はくたくたに疲れてしまったフルールです。
どうやら私は探偵に向いていなかったようです。
今日は王様と王妃様が国民の話を聞く相談会の日です。王様と王妃様が平民の訴えや悩みを聞き、その場で共に解決策を練ってくださるのです。
通常は毎月5日に行われるのですが、今回は戦に向かう者の家族の為に特例で行われるのです。
家族は皆、不安を抱えています。皆は様々な思いを訴えます。王様は真摯に答弁され、王妃様は親身に寄り添うお言葉を添えられます。
リビティオを終えられた御二方は、お城のバルコニーにお出ましになりました。
「此度の戦に赴くは全てが志願者である。勇敢な我が国の民を誇らしく思う。皆で兵士達の無事と帰還を祈ろう。これは私たちから戦に向かう者への餞である」
王様に王妃様、そしてメイドや憲兵たちも一斉に抱えていた紫のパンジーを放ちました。空が一瞬紫に染まり、王妃様に続き誰もが祈りを捧げました。そして、戦に行く人へ紫のパンジーを贈るのが一時期流行りました。
『あなたの無事を信じて待つ』と。
翌日、いつも通り王宮にお花をお届けした帰り、王妃様にお声掛けいただきました。
「おはよう、フルール。少しお時間よろしいかしら? こちらへ来てくださる?」
「王妃様、おはようございます。何なりとお申し付けください」
「貴女にお礼を言いたかったの。昨日はあんなにたくさんのお花をありがとう。おかげで皆で祈りを捧げることができました」
「恐れ入ります。王妃様のお心遣い、とても素敵でございました」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。皆の祈りが届くといいのだけど······。アルブレスは争い事が多く、闘争が激しくなりつつあるので心配なのです」
王妃様は悲しそうなお顔で空を見上げられました。
西の果ての国、アルブレス王国は辺境の部族や砂漠の戦士と長年争い続けています。領土争いが主な理由だそうです。とても長い間続く戦には、アルブレス王国の民も敵の民も苦しんでいます。挙句の果てには、東南北の国を巻き込もうとしているのです。
しかし、南の国は断固として戦には参加しないと表明したそうです。北の国は遠く、国自体があまり裕福では無いので支援は出来ないんだそうです。
「ご心中お察しいたします。私はそのあたりの情勢はよく存じませんが、戦に向かわれる皆様がご無事であられることを願うばかりです」
「そうね、私たちには祈る事しかできないのだものね······。無力さを痛感しています」
「そんな、王妃様······。そのように仰らないでください。王様と王妃様の、私たち民を想ってくださるお心はちゃんと伝わっております。ですから皆様も志願なさったのではないでしょうか」
「ありがとう、フルール。貴女は本当に優しいのですね······。そうだわ、失礼ですけど貴女今おいくつだったかしら?」
「え······っと、15になりました」
「そう、いい年頃ね。今意中の方は居るのかしら?もしまだ居ないのなら、今度のファルシオにいらっしゃいな」
「ご招待いただき嬉しいのですが、今はまだ恋などはよくわからなくて······」
「そうですか。構わないのよ、気にしないでね。私の力のせいかしら、どうしても人の恋路が気になってしまうのね、うふふ。もし運命に出会いたくなったなら、貴女のタイミングで運命を探しにいらっしゃいね」
「お気遣い頂きありがとうございます」
「呼び止めてしまってごめんなさいね。お店もあるでしょうに、気をつけてお帰りになってね」
「はい、王妃様。それでは失礼致します」
王妃様は本当にお優しい方です。母を亡くしてから特にご配慮いただいているようで、非常にありがたい事です。私には本当のお祖母様のように思えます。いえ、恐れ多いですね。少し浮かれているのかもしれません。
私には祖父母というものがなく、どういう感じなのか知りません。母は駆け落ち同然なので、実家はないようなものなので、当然祖父母に会うこともありません。父の両親は私が生まれる前に馬車の事故で亡くなったそうです。
少し寂しい気もしますが、私の周りには沢山の素敵な方が居るので、とても恵まれているんだと思います。
運命の出会い······ですか。憧れはしますが、恋や愛とはどういう感じなのかわからないので、これからゆっくり運命に出会いたいです(*´︶`*)
❀紫のアネモネ
花言葉: あなたを信じて待つ
毒性:茎を折った時に出る汁で 皮膚炎、水泡を起こすことがある。