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花の方舟  作者: よつば 綴
第一章 出会い
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第3話 出会い




 皆さん、おはようございます。今朝も王宮にお花をお届けしてきた、フルールです。

 その日のお天気や城下町の雰囲気に合わせたお花をお持ちするのが、晴れの日の朝の日課なのです。



 先程、いつものようにメイドのアイネさんにお花をお渡しした時に聞いたのですが、近頃王宮で妙な事が起きているらしいのです。

 なんでも、王宮の至る所で花びらがばら撒かれているんだそうです。それも限って雨の日に。そして泣き声がどこからともなく聞こえるんだとか。ちょっと気味が悪いですね。

 ですがもしも、困って泣いている人がいたらお助けしたいです。名探偵フルールが参ります!なんて、少し意気込んでみたりします。



 王宮はとても広いので、とりあえず花びらがあった現場から巡ってみようと思います。

 わかっているだけで5箇所です。一日で全て見て回るのは難しいので、今日は近くの2箇所を見に行きたいと思います。お城の北西にある食料庫の裏と、西南にある祭祀用具の保管庫の近くです。いざ、参ります。


 食料庫へ向かっていると、とても澄んだ優しいお声に呼び止められました。


「あら? フルールではありませんか。お待ちなさいな」

「これは王妃様。今日のお花もお気に召していただけましたか?」

「ええ。今日はハルシャギクでしたわね。とても可愛らしいわ。まるであなたのように陽気で可愛らしいお花だわ。いつもありがとう」

「恐れ入ります。ご希望のお花があればお申し付けください。明日お持ち致します」


 王妃様は少しお考えになり、何かを思い出された様子でお答えくださいました。


「そうね、紫色のアネモネがいいかしら。できるだけ沢山。明日はそれをお願いしますね」

「かしこまりました」

「ところで貴女、こんなところで何を? お花を届けて頂いてから随分経ちますが······」

「ええっと、それはですね······アイネさんと話込んでしまいまして······」

「そうでしたか。お昼から雨が降るそうなので、気をつけてお帰りになってね」

「はい。ご配慮痛み入ります、王妃様。それでは失礼致します」

「ええ、ごきげんよう」



 さあ、いよいよ王宮探索です。雨が降る前に帰らなくてはいけないので急ぎましょう。どこかに悲しんでおられる方はいらっしゃいませんでしょうか。

 それにしても、何故アネモネをご所望なのでしょうか。それも紫と限定されました。何かおありなのでしょうか。


 食料庫に向かっていたはずなのですが、いつの間にか迷ってしまいました。帰ろうにも門が何処どこなのかもわからなくなってしまいました。調査がてらしばらく歩いていると、どこからか微かに泣き声が聞こえます。

 声の聞こえる方に進むと広場に着きました。どうやらここは園庭のようです。中央には小さな噴水があって、小鳥さんたちの水飲み場になっています。


「小鳥さん、どこかで誰かが泣いています。ご存知ありませんか?」


 ぴょぴょぴょ〜


 可愛らしい鳴き声ですね。小鳥さんたちが飛び立ち、東屋の方へ飛んでいきました。

 よく見ると、東屋に誰かいらっしゃいます。行ってみましょう。


 アイボリーの石柱がとても美しい、園庭を眺められるベンチがあるだけの東屋です。そのベンチに座っている男の子が泣いています。男の子の頬をつたう涙が陽光で輝き、とても美しいです。



「あのーぅ、どうかされたんですか?」

「······お姉さん、誰?」

「私は城下町で花屋をしているフルールと申します。こんなところでお一人で、どうかなさいましたか?」


 どうやら貴族のご子息の様です。


「······明日、兄が出兵するんだ」

「なんと······、それはお辛いですね。どこかで戦が?」

「うん。西の果ての国から要請を受けて、国としても断りきれず渋々少数だけど援軍を送ることになったんだ。兄は誰かが行かねばならないならと志願してしまって······」

「そうでしたか。立派なお兄様ですね。でしたらこの······、えっと、手を出して頂けますか? えいっ」


 ぽんっと男の子の掌にブロワリアの花を出しました。


「す······ごい。綺麗だね」

「これはブロワリアです。花言葉は『祈り』。お兄様の無事を祈りましょう」


 男の子はとても優しく微笑んでくださいました。赤みがかった美しい茶髪がサラサラと風になびき、翡翠のような輝く瞳をお持ちで、驚くほど綺麗な男の子です。思わず見惚れてしまいました。


「ありがとう。これを兄さんに贈るよ。ありったけの祈りを込めて」


 そう言って男の子は花にキスをしました。


「お気に召していただけて良かったです。私もお兄様のご無事をお祈り致します」

「優しいんだね。僕はラーファ・シャルル。『幸福フェリクス』のシャルル家の。またどこかで会えたら嬉しいな」


 そう言ってラーファ様は走ってお帰りになられました。例の噂とは違いましたが、悲しんでいる人をお助けできたようで良かったです。それにしても戦だなんて······。皆様が無事にお帰りになられますように。

 そういえば、調査が途中でしたね。ですがそろそろ帰らなければいけません。しかし、帰り道がわかりません。どうしたものでしょうか······。


 とぼとぼ歩いていると、アイネさんにお会いすることができたので、門まで案内していただきました。本当に助かりました。勝手に探索などしてはいけませんね。これでお店に戻れます(*´︶`*)





❀ハルシャギク

 花の色は中心が濃紅色で、周辺は黄色の蛇の目模様。別名のジャノメソウ(蛇目草)の由来。花びらの多い花。花言葉:陽気





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