第3話 変わらないもの
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高嶺の花を咲かせます の方も同時連載して参ります!
今朝の出来事から推察すると、春も加奈も、恐らくだが俺の存在を忘れている。
考えても分かるはずのない記憶が消えた原因を考えるより先に、俺の中で一つの疑問が浮かび上がる。
春と加奈以外の人間は俺のことは覚えているのか?
一つ分かっていることとしては、今朝、顔を合わせたので、家族は俺の存在を覚えているということだ。
じゃあ、クラスメイトや先生は?
学校が関係する人間はみんな俺のことを忘れている可能性だってある。
そうなれば、俺のこの高校での学生生活は終わるが...
(まぁ考えてもしゃあない...直接確かめるか。)
俺は所属する3組の教室の前に着いたので、なんか知らん人入ってきた的な空気になるかもという不安を抱きつつ、思い切ってドアを開ける。
ちなみに、加奈とは同じクラスで、春とは違うクラスだ。彼女は1組。
ガラッ
クラスに入ると、俺に対して怪訝な視線は向けられなかった。いつも通りの日常だ。
(これこれ!いつもの感じ!いつも通り!)
いつも通りの環境に感動していたが、俺は、ふと我に返って、教室のどこかに加奈がいないか辺りを見渡した。が、加奈の姿はなかった。
「よ!どうした、珍しくおどおどしてっ」
明らかに挙動不審な様子に見えていたらしい俺に話しかけてきたのは、吉富和也。こいつとは高校で知り合った。
親友、呼んでいいのかは分からないが、数少ない男友達の中で一番仲良くしている。
「俺はいつもこんな感じだろっ」
「そぉーかーー??なーんかいつもと様子違うよなー.」
「暑苦しい!くっつくな!」
和也はおちゃらけた性格だが、何かと察しが良い。相変わらず暑苦しい。
(暑苦しいけど...なんか少し安心するな。)
教室の片隅で和也とギャーギャー冗談を言い合っていると、加奈が教室に入ってくるのが見えた。
和也を始め、クラスメイトに俺に関する記憶が消えている人間がいないというこの状況が、再び、俺に僅かな希望を抱かせる。
今、話しかければ、いつも通りの加奈に戻るかも。いや、むしろ、元から正常で何かの悪ふざけだった可能性もある。
俺は、早く答えが欲しいという気持ちから、加奈に話しかけに行くことにした。
「加奈...おはよう。さっきはごめんな。俺最近なんかしちゃった?」
望む答えを願うように、返答を待つ。
「あ、今朝の方... 同じクラスだったんですか?転校生とかでしょうか?」
「なぁ、加奈!俺だよ!俺。太一! 一体何なんだよ朝から!」
「初対面の人間を呼び捨てにして、大声を出すあなたこそ非常識だと思いますよ... 失礼します。」
加奈はあくまで常識ある人間として、初対面の人間として接してきた。
(もうこの確認作業はやめよう...辛いだけだ。)
「おいおい加奈どした?珍しく太一と喧嘩でもしたの?」
俺との会話をバッサリ切って席に戻った加奈に、加奈の親友で俺とも交流のある、金本が問いかけていた。
「え、喧嘩も何も、多分転校生?だよね?」
「え。珍しくふざけるねぇ。太一は最初からクラスメイトだし、あんたとは幼馴染でしょー?」
「最初から?クラスメイト?幼馴染?何言ってるの? でも、転校生じゃないなら、目立ってないから気づかなかっただけかな...あんまり人の名前覚えるの得意な方じゃないし...」
「あー、本当に大喧嘩したか、縁切ったとかそのレベルだなこりゃ。」
あんた何したの、と言わんばかりに金本は俺の方を見てくる。
俺はとりあえず首を横に振って、何もやってねぇアピールをしといた。
加奈の記憶が消えているとしたら、加奈自身も違和感を覚えるはずだ。
違うクラスの春はともかく、加奈と俺は同じクラスなのだから、ここに来てクラスメイトの顔を知らないのはおかしい。
そして、幼馴染なんだから、家族ぐるみで知り合いだ。元々そんなに話題に出ていないかもしれないが、家族で俺の話題が出た時も、加奈からしたら違和感しかないだろう。
とりあえず、クラスの状況や、この記憶消滅の対象範囲は把握できた。
他のクラスメイトに異変がなかったのが、せめてもの救いだ。
その後、午前の授業を受けて、昼休み。
俺は、昼休みは基本、学食を食べにいく。うちの高校の学食は安くて量が多い。
いつも通り、日替わり定食の食券を購入し、おばちゃんに食券を渡して、トレイに乗った定食を受け取り、席に座る。
和也含め一緒に食事できる友達は何人かいるが、昼休みは基本1人で食べるようにしている。
自分のペースで落ち着いてゆっくり食べたいからだ。
(食事の時くらいは、記憶の件は忘れて、まったりしよう。)
いそいそと、今日の日替わり定食(火曜日)のメインディッシュであるアジフライを口に運んでいると、俺が食事をしている2人用のテーブルに対面する形で1人の生徒が座ってきた。
(他に席空いてるのに、なんでここに座ってきた...)
3分の2程度かじったアジフライを皿に戻して目線を上げ、俺は正面に座ってきた生徒を確認する。
正面に座ってきた生徒は、恋人の春だった。
アジフライは上手いんじゃ...
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