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世界は私に甘すぎる。

作者: ゆきもち

 物語を作るのが好きだった。

 それは転生し、容姿が家庭環境が変わっても魂に根付いた不変の欲だ。子どもの小さな手で万年筆を握り、ペン先をカリカリと音を鳴らし植物紙に文字を綴る。書き上げると紙を折って封筒にいれる。椅子から立ち、両手で封筒の下を持って窓際へ寄る。


「これを、あの子に届けて。」


 祈るように、封筒を額に寄せて呟く。魔法が発動し、キラキラと光り始めた封筒は輪郭を変えて鳩の姿になる。クルッポーと手の中で鳴く鳩をひと撫でし窓から腕を伸ばす。翼を広げた鳩が夜空へ飛んでいく。


 私の物語は、それを期待する“誰か”の元へ旅立って言った。





 4歳のある晩、私は突然前世の記憶を取り戻した。女性の日常を夢で見るなんてなぁとほのぼのなごんでいたら、その女性がトラックに轢かれた。鮮明に伝わってきた女性の死に際の戸惑いに、それが自分の前世だったと気づいた。飛び起き「これが死因か!」と叫んでしまった。同人界隈でよくあるトラック転生を私は経験してしまったんだな…ベットから飛び出して姿見の前に立つと、前の世界で流行っていた乙女ゲームの登場キャラクターが映る。たれ目に埋め込まれたサファイアの瞳、ちょこんと置かれた小さな唇、鼻、眉、整然と配置されたかわいらしい顔立ち。毛先へ向かって緩やかにウェーブかかった長い金髪が、月明かりに照らされキラキラと眩いてる。どこからどう見ても、私が知る「悪役令嬢」の姿に、頬をおさえて驚く。

 破滅ルートとか、王子たちのこととか、いろいろ考えなければいけないことはあるが、まず先に思ったのは「私って、ちょーかわいい」。仕方ない。主人公のライバルとして描かれる悪役令嬢は「ぶりっ子属性」という個人的に地雷だらけの性格だったが、余りあるほどの絶世の美少女と公式で言われていたのだから。





 自分が「悪役令嬢」になったことも、前世を思い出したことも、その後の日常生活に支障をきたしたかと言えばそんなこともなく、ただ、悪役令嬢らしい「我儘」「自分本位」といった行動は本家の「ユーフィリア・アルノール」より格段に少なくなっているだろう。人格が完全に形成される前に、「私」という前世を思い出せてよかったと心底ほっとした。自分が可愛すぎるのは重々承知なので、多少の我儘で甘えるのはむしろリップサービスと言ってもいいが、使用人に呆れられるほど度が過ぎるのはいい大人の「私」には耐えられなかっただろう。ちなみに両親は可愛い私にメロメロなため、どんな我儘も聞いてくださる。欲しいものは何でも与え、使用人に私の我儘に付き合うよう命令している。こんな環境で育ったら、確かに「悪役令嬢」は我儘放題の高慢娘に育ってしまうよな…そうはなりたくないな、と拳を作って「めざせ!深窓令嬢」と掲げる。世間知らずは、貴族でいる以上克服しきるのは難しいから、せめて「悪役」の枕詞を変えよう。うん、私は無知でおバカだが世界で一番かわいい令嬢となるのだ。




◇◆◇




 お母様に頼まれて、お爺様に向けた手紙を書いている。

 父の元へ嫁いできた母は時々自分の顔を見せに実家へ私を連れて帰ることがある。次の休暇もその予定で、こうして伺いを立てるために私が手紙を書くことは少なくない。いまだ10歳の誕生日を迎えていない私は子供用の万年筆でちまちまと文字を書いている。お爺様はたいそう私をかわいがってくれているみたいで、この手紙も喜んで受け取ってくれているらしい。お爺様のもとへ帰ると、毎食御馳走がテーブルに並び、三時のおやつはとびきりにおいしいケーキがだされる。抱き上げられたり、頭を撫でられたり、めちゃくちゃに可愛がられる。普段以上に甘やかされるせいで、お爺様の所から帰ってくるといつも数キロ体重が増えていて、泣きながら私は運動するようになった。脂肪によりこの美貌が失われるのは嫌だ。「太ったってユーフィは可愛いよ」と両親が言う。なんだってこの世界は私に甘すぎるんだ。それじゃあ「悪役令嬢」まっしぐらじゃないかと、せめて自分だけは自分に厳しくしようと気を引き締めた。運動の一環として最近は剣術を習い始めた。此れだけ可愛ければ自衛の手段はあった方がいい。女の子に習わせることに両親は抵抗があったみたいだが、ここは渾身の「甘え上手」で口説き落とした。やっぱり世界は私に甘い。

 手紙が書き終わり、それを持ってお母様の部屋へ向かう。扉を開けると私と同じようにお爺様へのお手紙を書いている母がいた。私に気づいた母は私を部屋に招き入れ、膝の上をポンポンと叩いた。お母様に近づくと脇に手を差し込まれ、私を持ち上げて膝の上に乗せた。

「丁度、私も書き終わるところよ」

 書記机の上に置かれた便箋を折り、私が渡した手紙と一緒に封筒の中へしまう。蝋で封を閉じ、白い便箋を窓の方へ掲げた。

「見ててね」

 お母様に言われた通り封筒を凝視していると、白い光が封筒を包み、鳩が現れた。お母様の手にとまっていた鳩は、開け放たれた窓から羽ばたいていった。

「すごい!どうやったの!」

「そう難しい魔法じゃないのよ」

 お母様は丁寧に「伝書バトの魔法」を私に説明してくださった。紙を鳩に変えて任意の相手へ手紙を届ける魔法らしい。やり方を教えてもらい、私は便箋を1枚貰った。「誰に手紙を届けたいか」を強く思い描き、紙が鳩になるよう魔力を注ぎ込む。手の中の紙はキラキラと輝き始め、お母様が作った鳩より一回り小さな鳥になった。小鳥は羽ばたくと私たちの頭上で旋回し、お母様の手のひらに降りた。お母様が小鳥に触れると小鳥は再び光って元の封筒の姿へ戻った。魔法が成功したことを知り私は喜びの声をあげた。家庭教師から基礎魔法の使い方を習っていたとはいえ、初めて挑戦した魔法が発動したことに興奮と喜びが沸き上がる。

「あらあら!私の子ってやっぱり天才じゃないかしら」

 そういいながら、お母様は私の頭を撫でてくださった。私はでろんと顔を緩ませて、なでなでを享受していたが、ハッと気が付き口を締めた。いけない、いけない、自分に厳しくしなければ。

「ちゃんと鳩が生まれるまで練習しますわ!」

 その日は、ひたすら「伝書バト」を練習し続けた。夕方になっても完成しきれず、蝋燭をつけて夜遅くまで熱中した。まさか、母も召使たちも私のことを「勤勉で真面目ないい子」と噂していることなど知らず、鳩が出来上がったことに喜んでいたのだった。


 「伝書バト」が完成したことに喜んだ私は、習ったことをすぐ実践したがる子供のように、誰かに手紙を出したいと思った。まずは父と母に、育ててくれてありがとうと書いた内容の手紙を送る。私という記憶が混じったせいで純粋な「ユーフィ」ではなくなった「私」を、愛してくれてありがとう。


 次に、お世話になった乳母と召使たちに、短く「いつもありがとう」的な内容の鳩を送る。鳩は受け取ると元の封筒の形に戻るらしいので、便箋の形をハートにして皆をちょっとびっくりさせた。とても喜んでくれたのでウキウキしながら次の手紙のことを考えた。


 次はどうしようかと首を傾げた。

 身の回りの人には全員送ってしまったから、手紙を書く相手が他に思いつかない。悩んだ私は、「じゃあ、知らない人に鳩を送ってみよう」と便箋に文字を書き始めた。ちょうど、前世の趣味だった執筆活動を再開し、誰かに読んで欲しい欲が出てきたところだった。知り合いに見せるのは恥ずかしくて、前世ならネットの投稿サイトがあったけど、今世はネットワーク環境はまったくもってなかった。

 私は短編の童話を便箋に書き、「伝書バト」で顔の知らない誰かへ届くように念じた。本来特定の相手だけに使える魔法だから、成功するかドキドキしながら鳩を飛ばした。海へメッセージボトルを投げ入れるときのようだ。波に打ち返され戻ってくるように、魔法が失敗して身内に拾われてたら恥ずかしいなと思いながら、毎晩一羽ずつ飛ばしていった。





 ある日、私のもとに「伝書バト」が来た。やっぱり魔法が失敗して自分のもとに手紙が返ってきたしまったのか、とションボリしながら受け取ると、鳩は見たことのない封筒の形になる。蝋も私が使っているものと違う。私は驚きながら封を開け、手紙を取り出した。


『初めまして。物語を読みました。とても面白かったです。』

 手紙の内容はそれだけだった。



 私は驚いて、もう一度文章を読み返した。内容は変わらず、私の物語を褒めてくれるものだった。手紙を持つ手が震え、力が入りそうになる指を緩める。


 大きな紙に26文字で綴られた感想メール。


 舞い上がるほど私は嬉しかった。

 私はその手紙を持ちながら飛んだり跳ねたり、くるくる回って興奮した。こんな風に感想がもらえると思っていなかった。初めてもらった感想メッセージ。一体誰が書いてくれたのだろう。喜びがあふれて、体がしっちゃかめっちゃかに動く。たった3文を何度も読み返し、指でなぞる。とうとうじっとしているのに耐えきれなくなり、便箋を引き出しに大事にしまってから、木刀を引っ掴んで中庭に出た。文字を書く人間のわりには脳筋な行動だったが、この状態は筆がとれるほど思考が動いていなかった。型をなぞり、しばらく無心で打ち込むと、頭が冷えてきた。腕を下ろし、深呼吸を行う。


「よし、返信を書こう」


 廊下をバタバタと行ったり来たりする私に使用人たちが目を白黒させていたが、私は気にせず自室に飛び込んだ。すぐさま椅子につき、机に上に便箋を広げた。


『感想ありがとうございました。このような形で頂けるなんて思っていなかったので驚きました。とてもうれしかったです。おもわず舞い踊るほど興奮してしまい、何度も読み返しました。少し涙が出ました。

 よかったら、また物語を送ってもいいですか?感想はいりません。面白いと言ってくれた貴方に物語を送りたいのです。返信お待ちしています』


 読み返して、う~んと唸り、紙を丸めた。新しい紙を取り出して書き直す。


 頭を抱えて1日中悩んだが、どう返信すれば自分の気持ちを失礼のないよう送れるのか分からず、そのうちゲシュタルト崩壊してきた。ぐるぐる目が回り、自分がどんな文章を書いているのか分からない。


『感想ありがとうございました。とてもうれしかったです。良かったら、また手紙を送ってもいいですか?」


 書きあがったそれは、相手と同じ3文だけだった。




◇◆◇




 あれから一年、感想をくれた方と手紙のやり取りをしている。

 私は短編小説だけでなく、長編ものを区切り何回かに分けて送るようになった。冒険小説を送ったとき、裏庭の鳥の巣に金の卵が産まれていないか確認するようになったと教えてくれた。推理小説を連載したときは、手掛かりをすべて開示してからきた手紙には熱心な推理が書かれていた。恋愛小説を書いたときは、意外にも女性の方へ感情移入してくれたらしい。筆跡や書き言葉から男の子だと予想していた。どちらにせよ、恋愛観に共感してくれたのならうれしいなと思った。


 恋愛といえば、本日タージェンス家のご子息が我が家にご招待されるらしい。お母様たちははっきりと言っていなかったが、要するに私のお見合いだ。前の世界のゲームで「悪役令嬢」が攻略対象の「オルタ・タージェンス」とお見合いした話が載っていたから間違いない。しかし原作では、オルタを「タイプじゃない」とバッサリ切った「ユーフィリア」のせいで婚約は白紙に戻り、心に傷を負ったオルタはもともと引っ込み思案な性格から引きこもりの根暗クンになってしまう。ゲームの舞台は貴族が集まる魔法学校だが、オルタは出席率が低く寮の部屋にこもっていることが多い。オルタ√は、風紀委員を引き受けた主人公が先生に頼まれて彼を部屋から連れ出そうとするところから始まる。

 ちなみに、オルタは私の「推し」なため今日の会合を非常に楽しみにしてたりする。しかも、会えるだけではなくお見合いまでするのだ。全国のオルタファンに殺されてしまうな。私が彼を拒まなければ婚約してしまうのだろうか。原作と全く違うストーリーになり、そのまま破滅フラグも消失してくれないだろうか。一石二鳥なことを考え、ムフフと口に手を当てた。





 時刻は三時、お菓子の並んだテーブルの前でオルタ・タージェンスを待った。コンコンとノックされた扉が開き使用人がドアを押さえ、その後ろからオルタ君が入ってきた。彼は少し猫背になりながら小さく「失礼します…」と呟いた。


 カワイイ!


 みて!俺の推しがこんなにもかわいい。声ちっちゃ。猫背だ。ちょっともじもじしてんの。オルタ君はメカクレ属性なので左目の上目遣いが見れますよ。

 私は漏れそうになる本音を喉元で押さえ、にっこり笑って彼を迎えた。その時彼が顔を真っ赤にしてくれたので、ほんと美少女でよかったと心底思った。





「ごめんなさい。僕はあなたと婚約できません」


 オルタ君が席に着き、軽く挨拶をしてからさっそく切り出された本題に口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになる。ゴクリと紅茶を飲んで、深呼吸をしてから尋ねる。


「理由を聞いてもよろしいでしょうか…?」


 え。私何かした…?この短時間ですでに嫌われる要素を生み出してしまったの?と涙目になる。推しに嫌われるの辛い。


「実は…僕、好きな人がいて…」


 おやおやおや!すでに!思い人がいるんですか!!なにそれ聞いてない。公式で言ってなかったじゃん、幼少期に好きな人がいたなんて。それとも、もう主人公と出会っちゃったの…?私というイレギュラーもいるんだからそういうこともあり得るのか?原作通りに物語が進む保証なんてないんだ。


「どのような方なんですの…?」


 恐る恐る尋ねると、オルタ君は照れたように頬を桃色に染めて、膝をすり合わせた。え、かわいすぎ…もしかして、目の前にいるのは天使…?


「会ったことはないんですが、いつも手紙でやり取りをしてくださってる方です。もう一年もあの方の物語を聞き続けています。本当に素晴らしいストーリーを書く方で、初めて読んだとき興奮で手が震えました。なんとか感想を伝えたくて『伝書バト魔法』を練習しました。やっとできるようになったら、今度は感想になんて書けばよいかわからず…いえ、書きたいことは山のようにあったのですが、長文を送れるほど僕の魔法の精度はその当時高くなかったので、言葉を厳選した結果、書いた文章はたった三つでした。初めての手紙ですごく緊張して、戸惑いながら鳩を飛ばしたら、相手から返信が来ました。それからずっと、思い続けている相手です。今はまだ探しに行けないけど大きくなったら絶対に見つけ出し、結婚するんです」


 怒涛の告白を聞いて、私はうっと心臓を押さえた。目の前にいるのは間違いなく天使。手紙の相手に恋をして、純粋に慕う無垢なエンジェル。もちもち子どもほっぺを桃色に染めて、恥じらうかわい子ちゃん。


 ん?でも、え、まって。まって???手紙のあいてって、これっもしかするともしかしなくても。


「オ、オルタ様…!少しついてきてください!」


 私は彼の手を捕まえ部屋をでた。「!…まって…」と驚く彼をひっぱってズンズン廊下を進んでいく。たどり着いたのは私の部屋。扉を開けて中に入ってから手を放し、彼を入り口で放置してから机の方へ向かう。引き出しを開けて取り出したのは”誰か”からもらった手紙。それをオルタ君に差し出した。彼は戸惑いながらそれを受け取り、手紙の中身を見る。

「こ、これって…!」

 小さな声だけど叫ぶように言った。私はどういう態度をとれば良いのかわからず、俯いて彼の言葉を待った。幻滅してしまっただろうか。手紙を書いていたのが同じ年頃の、ただの、何の変哲もない普通の女の子だなんて。私の可愛さも彼の好みにあっているだろうか。

 彼はどんな人間を想像していたのだろう。私は彼の理想とどれだけ離れていたのだろう。


「幻滅しましたか…?」

そう言ったのは、私じゃなくてオルタ君だった。


「手紙の相手が、僕みたいな根暗で、な、なんにもできないダメな子だなんて…げんめつした、でしょう…?」

涙をためた左目がうつむき、震える声で彼は言う。自分に自信がないのがありありと分かる、悲愴な自虐をつづける。両手を祈るように組み、断罪される瞬間を待つ罪人のように体を震わせていた。


 私は、堪らず彼の手を両の手で包んだ。


「え…?」

 顔を上げた彼の瞳に、微笑む私の顔が映る。私は首を横に振って否定した。


「幻滅してませんわ。」

右手を伸ばし、彼の落ちてきた左前髪を耳にかけてあげる。サラリと彼の紺青の髪が揺れる。呆然と私を見上げている彼の額にキスを落とした。さながら王子のように、私の書いた恋愛小説のヒーローの様に慰めようと。



「だから泣かないで、私の王子様」



 真っ赤にした顔から湯気を出しながらオルタ君は、腰を抜かしてふにゃふにゃと座り込んでしまった。慌てて支えようとしたが間に合わず、私も床に座る。



「ぼ、僕と結婚してくれますか…?」



小さな声で尋ねる彼に、私は頷いた。





「ええ、もちろん!」












だって、私も”手紙の相手”に恋をしていたのだから。





◇◆◇




「あなたたち!そこで何をしているの!!」


 オルタ・タージェンスが裏庭で男子生徒に囲まれているのを見つけた。性格が大人しい彼は気の強い上級生に囲まれることが多い。大抵は彼の家柄に恐れをなして話しかけることすら皆無だが、生徒の中には品のない三流貴族がいるようでオルタは鬱憤を晴らす対象に選ばれることがあった。


「私の婚約者には、一切手出しをさせないわ」


 怒気の孕んだ声で脅し、地面から拾った木の棒をレイピアのように構えた。

 彼を守るために散々暴れ回っている私の実力は全校生徒に知られているようで、オルタを虐めようとした奴らは恐怖で体を震わせた。





 あれから5年後、私たちはアイリス国立魔法学校に入学した。残念ながらクラスは別れてしまったが、昼休みや放課後は一緒にいることが多い。私が彼の教室に迎えに行くと、照れたようにはにかみながら私を迎えてくれる。しかし彼は時々姿を消すことがある。そういう時はだいたいイジメっ子に連れられて校舎裏にいるのだ。



「まったく、懲りない奴らね」



 オルタを連れ出した先輩方は身体中に青アザを作ってから、逃げていった。

 用途が無くなった木の棒を地面に投げてオルタに向き直り、大丈夫だったかと声をかける。オルタは涙で目を潤ませながら頷いた。


「ごめんねユーフィ…僕って鈍臭いからすぐに捕まっちゃうんだ…」


 顔を俯かせてグズグズと泣きだした。まったく謝る必要なんてないのに、涙をこぼしてしまう可愛いオルタ。頭に手を伸ばし撫でてあげる。


「まったく、私から離れてはダメよ」

「うん…」


 素直にうなずくオルタに癒される。私の婚約者ってなんでこんなに可愛いんだろう。




「いえ騙されてはいけませんよユーフィ。その男、狙ってやっている部分がありますからね!」


 物陰から現れたのは、第一王子のリオル・アイリス。ゲームのメイン攻略対象だった男だ。私と同じクラスで席も近かったことから、彼に話しかけられそこそこ仲良くなった。会話のなかで知ったことだが、彼は昔私の無差別伝書鳩を受け取ったことがあり、私の物語を気に入ってくれていたみたいだ。



「そうですよ、お姉様!その男ヤンデレ属性もちなんですから!!」


 またもや物陰から現れリオルに同意するように言ったのは、主人公になってしまったヘレン・サフィニア。彼女は私と同じ転生者で、原作ゲームを知る仲間だ。いつの間にか慕われていて何故か「お姉様」と呼ばれている。ほんとになんで?



「うぅ…僕がヤンデレだったら、ユーフィは嫌?」


 オルタが首を傾げて尋ねてくるから、私は首を横に振った。全然、ヤンデレ大好き。ウェルカム!ただし、オルタ限定。


「キィィ!お姉様とイチャイチャしやがって、許せませんんん!!」

「…私もまだ諦めてないからね」


 地団駄踏むヘレンと、意味深に微笑むリオル様。そして後ろから私を抱きしめ、自分の中に閉じ込めるオルタ。






 なかなか愉快な仲間たちに囲まれて、今世の私は世界に甘やかされている。











〈人物紹介〉


◇ユーフィリア・アルノール

 トラ転した成り代わり夢主。オルタ推しの夢女。

 上流貴族の一人娘なので大層甘やかされている。自覚あり。趣味は文字書きで、誰かに読んでもらいたい欲が爆発した結果「無差別伝書鳩事件」を起こす。小説で色々な人の心を奪っておきながら放置している鬼畜。普通、顔も知らない相手に伝書鳩を飛ばすことなど不可能だと考えられていたため、猛特訓して感想を送ったオルタだけが覚えめでたく愛された。

 オルタがヤンデレであることを知ってる。



◇オルタ・タージェンス

 一途なヤンデレ。愛は重い。最もユーフィを愛している人間であり、ユーフィの小説の1番のファンであると自負している。でも、それ以外に自信がない。大抵のことはユーフィの方が上手く出来て、いつもユーフィに守られてばっかりだから。

 メカクレ男子。



◇リオル・アイリス

 アイリス王国の第一王子。ゲームのメイン攻略対象。ユーフィの小説に心を奪われた1人。授業中偶然目に入ったユーフィのノートに小説のネタが書かれていたことから、手紙の送り主の手がかりを持っているかもしれないと思いユーフィに近づく。結果、ご本人でした。

 諦めが悪いタイプ。



◇ヘレン・サフィニア

 面食いの逆ハー狙いトリップ女。原作のユーフィリアは性格が好きじゃなかったけど、今世のユーフィはかっこよくて王子様みたいで素敵!脳内お花畑。でも、普通にユーフィのことは慕ってる。

 最後はリオルとくっつく。




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