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しばらくすると、またジェームズから感謝が書かれた長い手紙が戻ってきて、その中で彼女の髪の房は肌身放さず持ち歩くことにした、と触れられていて、エラは彼の真意が汲み取れず理解に苦しんだ。やがて思いついたのは、こうやって戦地から妻への気遣いを忘れなかった良い夫を裏切った不貞妻、というレッテルを貼ってより一層盛大に捨てるつもりなのだろうか、ということである。
(それが一番ありえる話かな…)
そう思ってはいても、手紙の中のジェームズはまるで別人のように感じられた。手紙では、ジェームズは饒舌で、エラに嫌味を吐くこともなく、今までの自分の軽率な行動を心から悔いているような素振りを見せていた。
それからも何度も手紙のやり取りは続いた。エラの短い返事に対してジェームズの返事はいつも長かった。この手紙のやり取りの相手は、最早ジェームズであってエラの知っているジェームズではない、という思いが湧いてきていたある日。
戻ったら、と彼は書いていた。
戻ったら、もう一度君とやり直したい、君が俺に愛想を尽かしているのは分かっているつもりだが、どうかもう一度だけチャンスをくれないかーー
その手紙にはエラはどうしても返事を書くことが出来なかった。
やがてジェームズが出征して1年半が経った頃、戦争が終結したと新聞とラジオのニュースで知り、ポツポツと志願して出征していた男たちが戦地から引き揚げて街に戻ってくるようになった。戦争終結直前まで、手紙のやり取りをしていたこともあって、ジェームズが生きているということを誰しもが疑っていなかったし、彼の家族は彼の帰還を心から待ち望んでいた。
「戦地での経験を通して、ジェームズが大人になっていることを期待したいわ」
彼の母はそうやってエラに話した。
「エラにはあの甘ったれた子を押し付けてしまって本当に申し訳なかったわ。でも手紙を読んでいると、少しは成長したように思うの。貴女への謝罪もたくさん書かれていたし」
「そうです、か…」
「戦地に赴くとね、顔貌とか仕草も変わることがあるんですって。やはり私達には想像がつかないような体験だからなのね。エラ、もしあの子が変わり果ててしまっていても、どうかあの子を受け入れてあげてほしい」
彼の母はこうやって彼を甘やかしてきたのだろう、とエラは暗澹たる気持ちで思った。彼女のことは決して嫌いではないのだがーー時々こうやって見える長男への過保護な愛情が、結局ジェームズの自立を妨げているとしか思えない。
(貴女の息子は、戦争から戻ってきたら私を離縁するおつもりなんですよ。それからルーリアさんを連れてくるんですって。その時、どうされるんでしょうね)