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思い余って離婚同意書でも送付してきたのかと思ったが、中を開いてエラは驚いた。
彼は自分の状況を事細かく記してきたのだ。日々の厳しい軍隊での様子、戦況、早くそちらに戻って家族に会いたいという言葉。どこを探してもルーリアのルの字もない。そこに至ってエラは夫の字を初めてまともに見たことも気づいた。慌ただしく書かれているのか少し雑然とした印象を与えるが男らしく確かな筆致であった。
(ルーリアさんにも送っているのかも知れないわね)
その場合はもっと熱い内容を送りつけているのに違いない。
エラに送ってきたのは、対外的に自分は良い夫であることを示すための手紙かも知れない、とそう考え、最初は返事を書かないつもりだったのだが何回か読み直して思いを変えた。
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野営をして月を見上げる度に、君や残してきた家族、故郷を思い出す。
君たちから見上げる月も同じように見えるのだと思って、心を奮い立たせる。
戦況は悪くはないが、いつ死ぬかは分からない、死と隣り合わせの日々だ。
今はもう一度、故郷に戻って、君たち家族の顔を見たいという気持ちだけが俺を支えている。
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本心かはわからないものの、エラは戦地でたったひとり、月を見上げているジェームズを想像すると、少しだけ情けのような気持ちが湧き上がってきた。手紙の返事を書くくらい、悪くはないかも知れない。そう思って、短い返事を書いて翌日執事に託して戦地へと送ってもらった。
しばらくしてまたジェームズから手紙が戻ってきて、エラが開いてみると、彼は返事をくれたことに感謝している旨、今までまともに君と話したことがなかったので君のことをもう少し教えてほしい、それから出来たら君の髪をひと房送ってくれないか、お守りにしたいから、ということが書かれていて、仰天した。
(私の…髪?)
エラの髪は少し赤みがかかった茶髪で、ジェームズは綺麗な金髪のルーリアを引き合いにだして、エラの髪の毛を馬鹿にしていたはずだが。
(宛先を間違っているのでは?)
しかし何回読み直しても、エラ、と書いてある。ジェームズは非日常の戦地でのストレスのあまり錯乱したのだろうか。
しばし悩んだが、万が一このままジェームズが死んだら夢見が悪いと思い、またしても短い手紙と髪を一房いれて、返事を送った。