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愛人の中でもルーリアという未亡人に特にご執心だった。ルーリアはもともとは老将軍に後妻に入った色気滴る妖艶な美女で、色事にも長けていた。老将軍が亡くなった後、彼の財産を相続し今は自由気ままに生きているような女だ。息子が思ったように育っていないことに気づいて手を焼いていたジェームズの両親は、彼がルーリアを妻にしたいと連れてくるのではないかと戦々恐々としていたようだ。
ジェームズの両親は、この息子を育てたという以外は、普通の感性をもった人たちだった。彼らは自分たちでは息子を止められないということに気づいていて、まともな嫁を娶る必要があることを痛切に感じていた。だからもともとエラには目をかけていたのだというーパーティなどの振る舞いを見ていて、この女性なら息子をきっと正しい方向に導いてくれるのではないか、と思ったのだとジェームズの父親は言った。
エラにも申し訳ないという気持ちを常に持っていてくれていたし、彼らは優しくしてくれていた。実の両親よりもずっと気持ちの上では親しみを感じている。ジェームズの弟であるアンドレイは、享楽的な兄を毛嫌いしていて、エラに同情的で、何かと彼女を助けてくれるし、味方になってくれていた。どうしてこの親と弟がいて、この兄なのか。どうしてよりにもよってこの男と結婚しなくてはならないのか。頻繁にルーリアの家に向かう婚約者の背中を見ながら、エラは既に諦めの境地に至っていた。
エラとジェームズは、街一番の教会で結婚式をあげた。
ジェームズが結婚式に現れたのは正直奇跡といってもいいかもしれない。結婚式の前日までルーリアの家に入り浸っていたジェームズは当日の朝、大酒を飲んで酔った状態で家に帰ってきたとアンドレイに聞いた。それでも2人は式をあげたーー神前で、多くの招待客の前で。
ウェディングドレスを着たエラはとても美しく落ち着いていて、参列した招待客の誰もが、ブラウン家の息子は良い嫁を貰ったと羨んでいた。エラの父はこれでシールズ家は安泰だと胸を撫でおろし、ブラウン家もこれで少しはジェームズはまともになるだろうと期待した。
しかし、結婚初夜。
2人の新居が見つかるまでは当面ブラウン家の大きな屋敷で過ごすことになっていたので、2人の寝室となる部屋でエラが嫌々ながらも夫を待っていると、ジェームズが足取りも荒く部屋に入ってきた。
『お前の鶏ガラみたいな身体を抱く気にはならない』
『俺はこれからもルーリアとの関係を続ける』
『お前はどうせ俺がどこの誰を抱こうが気にしないんだろうからこれが最善の方法だ』
呆然としている彼女を残して、そのまま愛人の家へと彼は去っていった。
翌朝、部屋に入ってきたメイドたちは真っ白なシーツを見て、全てを理解した。その話はジェームズの両親の耳にも届いたが、エラにはどうすることも出来なかった。