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数日後。


孤児院へ向かう馬車の中、ジェームズは目の前に座るエラの顔を飽きることなく眺めていた。


今日も彼女は綺麗だーーとてつもなく。


世の女性たちの流行とは違い、彼女はあまり着飾ることをしないがこの美貌があればそんな必要はないだろう。


少しだけ赤みがかった茶色の柔らかそうな髪も、憂いを帯びた琥珀色の瞳も、涼やかな印象を与える鼻すじ、少しだけルージュを塗っている薄ピンクに輝く唇も、どこもかしこもエラは美しい。彼女さえ許してくれれば、いつまでも側で見続けていたい。


彼女の美しさは外見だけではない。

彼女は優しい慈悲の心を持ち合わせている。


ジェームズがかつてエラに一方的にし続けた仕打ちを考えれば、彼女から完璧に拒絶されてもおかしくなかったのに、彼女は戦場にいるジェームズに手紙の返事を書いてくれた。髪の房を欲しいと願えば、躊躇っていただろうが、送ってきてくれた。返事はいつも短かったが、それがどれだけ荒んでいた自分の心を癒やしてくれただろう。


今も、一度でいいから、やり直すチャンスを与えてくれと懇願すれば、彼女は自分の心にいくら沿わないことでも、人を拒絶することを躊躇う。心優しい彼女の隙間につけこむのは気がひけるが、彼はどうしても彼女に赦して欲しい。






馬車の中では沈黙が支配していたが、エラは気にしないふりをして外を眺めていた。ジェームズが自分の顔をじっと見つめていることは視線で感じていた。以前は彼と一切視線は合わなかったが、最近は彼がエラを見ていることが多いので、彼女がジェームズを見ると、自然と視線が合うのだ。そして、かつては絶対になかったことだが、彼は視線に何がしかの熱い想いを込めて、エラを見つめている。


(どうしてこの人は、変わったのだろう)


既に何度となく、胸に浮かび上がった問いかけ。勿論エラには答えは分からない。


(もし、最初から彼がこうして少しでも私に対して誠意を見せてくれていたら…)


家族の中でも孤立し、父親からは政略結婚の駒だとはっきり示されたエラはずっと自分の居場所を探していた。だから婚約の顔合わせの時から彼が自分をこうやって求めていてくれたら、きっとその想いに応えようと努力をしたに違いない。結果として数年後に彼が愛人を持ったとしても、変わらず支えようと思ったかも知れない。


けれど、現実は違った。


ジェームズによって遭わされた、不愉快な思い出が次々と襲ってくる。彼女はため息をついて、脳裏からその記憶を強いて消し去ることに努めた。


貴方の『本当の』目的は何、と問いかけそうになって、直前で口をつぐむ。


彼はきっと言うだろう、俺は君に赦しを乞いたいだけ、そして君とやり直したいだけだ、と。


エラは、今の彼には以前ほど嫌悪感を抱くことはないが、いつ、愛人の方がいいと手のひらを返して、蔑むような瞳でこちらを睨みつけてくるのだろうか、と心のどこかで疑っている男を信じる、というのは、やはり出来そうにない。



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