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エラ・シールズの家庭は父親が全ての権限を持っていた。


美しいが病弱な母とは、彼女が遠方で療養しているために小さい頃からほとんど会えずエラは乳母のマリアに育てられた。母が妹であるマリーを産んでからは彼女は妹につきっきりになってしまい、余計にあまり交流はなくなった。父親は石鹸会社を営んでいて、異国からの香料を生かした石鹸が人気を博し、ある程度成功を収めていたが、ある時に石鹸の原料となる香料を積んだ船が異国の沖で沈んでしまった。エラが18歳、マリーが14歳の時である。


そこからシールズ家はどんどん傾いていった。


もともとそこまで仲の良くなかった夫婦であったエラの両親はますます不仲になり、横暴な父に耐えかねた母はマリーを連れて実家に戻ってしまった。母はエラも連れて行きたがったが、父に反対されて大喧嘩の末、ついにエラのことを諦めた。


父が、母に似て美しいエラを街の富豪の息子に嫁がせる縁談をまとめたからである。



街一番の富豪であるブラウン家は、この辺りの土地を有する大地主であった。跡取りの息子、ジェームズはエラより4歳年上の容姿端麗な男であったがとにかく女癖が悪く、素行もよくなかった。使用人に対する態度も横柄で、エラは顔合わせと称されて、彼に引き合わされた瞬間から、この人とは分かりあえないと心の中で嘆いたものだ。


ジェームズも、美しいが痩せぎすなエラには食指を動かされなかったらしく、冷淡な態度を取り続けた。あくまでも、これは親同士の思惑が絡んだただの政略結婚であった。


自分の両親もそうであったし、エラは内心諦めてはいたが、こうまで気の合わない男とこれから一生を共にしていかねばならないのかと思うと、自分の運命を恨むばかりであった。


傍目から見ると、美男美女であるエラとジェームズは理想のカップルに見えるらしく、慈善事業のパーティなどで2人一緒に現れると、随分と褒めそやされ、モテ男で将来安泰のジェームズを掴んだエラには妬みの目を向けられることもあった。実際は2人の間に感情の行き来は一切なく、冷ややかなものであった。



『お前みたいな冷たい女は好みではない』


周囲に常にちやほやされ、欲しいものはなんでも手に入れて育ったジェームズは、エラのような淡々とした自立した女を毛嫌いしていた。


『どうせ結婚したらお前は慈善事業に打ち込むような、お堅い“正しい女”になるんだろ』


彼の両親に頼まれて、慈善事業のパーティに2人で顔を出したときにはそう言って舌打ちされた。彼は会場に一緒に入ればそれで十分だろとばかりに、すぐにシガレットルームへと姿を消し、そのまま愛人の家に行ってその日は帰らなかった。


そう、彼には愛人がいた。

火遊びを含めたら、1人、2人の騒ぎではない。


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