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「大切なものを守れる力が欲しい。だから、強くなれる方法を教えてください。お願いします。」
手を瓦礫につき、額を手の甲に合わせる。心からの願いだから。ここまで現実に向き合わされてなお思い続けているから。
この願いだけは、何があっても成し遂げたいから。
あとは頼むと言ってくれたお父様に。優しく私をいつも見守ってくれたお母様に。恥ずかしくない姿で再会したいから。
後頭部に視線を感じる。彼が、私のことを見ているのだ。その眼が何を思っているかは、視界が地面でおおわれている私には知る由もない。でも、たとえどんな風に思われていたとしても、私は、
「…いや、あんた急に何言ってんの」
「............え?」
予期せぬ返答に、反射的に顔をあげる。男性の顔は、強者が弱者に見せる侮蔑で歪んでいた。
「強くなりたいって...いや、あんたが強くなったってしょーがねーだろ。そりゃ俺みたいな変な力あれば別かもしれんが、なんもないんだろ?」
もはや顔を合わせる必要すら感じないと、彼は私に背を向けて語る。
確かに今の私には何もないかもしれない。だけど...!
「だったらそんなん無駄」
「あなたのような一人でも戦える力がほしいんです!」
「簡単に言ってくれるなガキが!」
食い下がってみるも、二倍三倍の威力の激昂をもって返されてしまう。私の沈黙を確認すると、彼は声音を落として語りを続ける。
「あんたが強くなって戦ったところで、軍の人たちは失業するわ、親は子供が最前線で戦って心休まらないわ、誰もいい思いしないだろ。それで守れるもんなんて結局、あんたの自己満足でしかない。」
何を、言っているのだろう、この人は...
私に足りないものは強さで、強さがないから誰も何も守れなくて、みんなから恨まれて殺されて、それが嫌だから私は強くなるしかないの。私が強くなれば全部うまくいくはずなの。なのに何?私が強くなっても仕方ない?そんなはずない!私の周りが気づけば滅茶苦茶になってたのは私が弱かったから!私が何も守れなかったから!だから私が強くなれば全部解決するはずなの!いい加減なこと言わないでよ!
嗚呼、脳が五月蝿い...どんどん言葉は出てくるのに、どうして...どうして彼に届くように言えないの...
肩に衝撃。心臓がはねる。彼の手は冷えた鉛みたいで、私の肩の温度を奪う。
「まぁ、そりゃそうだよなぁ...」
耳が痺れる。歯の根が合わない。彼が耳元で、冷酷に、囁く。
「大切なものって...自分のことだもんなぁ?」
瞬間、何かが私の内側ではぜた。
「ふざけないで!」
彼に飛びかかろうとするも瓦礫で瞬時に作られた拘束具によりそれも叶わない。
「あなたに私の何がわかるの!私だってわかってる!こんな、人に頼って強くなろうなんて間違ってるって...でももう嫌なの!私の前で人が傷つくのは!私が弱いせいでみんなを守れないのなんて、もう耐えられないの!だから私は、強くならなきゃいけないの!強く...」
強く、ならなきゃ、いけないのに、...
声が、出ない。
嫌。そんな目で見ないで。
惨めなことくらい、わかってる。
無茶苦茶言ってるって、気づかされた。
でも、じゃあ、私は...
「私は、っ...、どうしたらいいっていうのよ...」
嗚咽で、息が吸えない。涙で、全部霞んでる。
でも、私の前にたつ男の人は。
私から目を反らさなかった。反らしてくれなかった。
何も言わなかった。言ってくれなかった。
表情なんてわからないけれど。惨めな私に、黙って視線をむけていた。
どれくらい、そうしていたかわからない。
沈黙の終わりは、突然だった。
「姫!」
総長の声だった。拘束されていて声の方は見れなかったが、間違いなく総長の声だった。走る足音が、数を増しながら大きくなってくる。みんな無事だったんだ。よかった。
視界に、総長の顔がうつる。
「姫。ご無事で何よりです。ひとまず基地の方へ移動しましょう。...?」
いつもの手際のよさで私を導こうとする総長。そこで初めて、私が手を拘束されていると気付いたらしい。
「姫。これは一体...」
私は総長に一部始終を説明しようとした。しかしそれはかなわなかった。拘束が、解けたのだ。
慌てて振り返ったときには、もう二人はいなかった。