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大姫晩成(仮)  作者: オルガヌム
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5

…まただ。

また、私の前で、人が死んだ。

先ほどまで死んだ気でいた私には、足りなかったのだ。ここが未だ戦場だという自覚が。

私はいつもそうだ。いっぱい考えて、いっぱい言い聞かせないと、ちゃんと行動できない。

誰かを、守れない。

だから、みんなからうらまれるんだ。

もう、いやだ。

こんなの。どうして、…どうして私は何もできないの…

またしても、一発の銃声。もう、私の前で死ぬ人なんて見たくないのに…

「おい、どうした姫さん。早くそっちの軍と合流したほうがいいんじゃないか」

「でも、私は…」

「たぶん軍の人たちみんな王女様のこと探してるよ。早く行って安心させてあげたほうがいいと思う」

「私はあの人たちにひどいこといっぱいした!だから…」

先ほどから話しかけてくる声の方を見て、唖然とした。言い募ろうとしたが、それもかなわなかった。

死んだはずの二人が、生きていたから。

「ひどいことって…戦争でこきつかったとか?そんなん姫なんだししゃーないと思うけど」

「戦争が仕事みたいなものだし、ね?」

「ね?って俺に言われても困るんだけど…まぁそうだとは思うけど」

「あ、今ちょっと上目遣いの私かわいいって思ったでしょ?」

「思ったけど寄るな寄るなもう!お前はほんとにエロいことしか考えてないのか!」

相変わらず緊張感のかけらもなく話す二人。戦場での会話とは到底思えない内容に、唖然を通り越して悲しくなってくる。

「え、なんで、生きて…」

盛り上がっていた会話が中断され、二人が私の方に視線を向ける。一瞬の間の後、男性が言ったのは、


「ああ、俺がおよそ金属でできているものすべてを改造するスキル持ってて、あ、対象のものは全部視界に入ってないといけないんだけど、それでさっきの兵隊たちの銃全部一瞬で改造して銃口があっち向くようにしたからな。ま、大したことでもねぇよ」


こんな言葉。すごい状況説明一気にしてくれた。

にわかには信じがたい話だが、先ほど兵が山ほどいた方を見るとすでにひとりの兵もおらず、あるのは瓦礫の上に投げ出された武具の数々とまき散らされた血痕だけだった。

目にしてみてもなお疑わざるを得ない光景にまたしても唖然としてしまった私に、男性が声をかける。

「おい、そんなことより早くそっちの国の軍と合流しないと、また狙われるぞ。いいのか。」

私は、我に返って声をかけた男性の方に視線を戻す。

そこでふと、考えてしまった。

目の前の男性は、いたって普通の男性だ。年齢は知りようがないが、普通の青年といった風貌で、頭髪が白いことは気にかかるが、普通程度には清潔感が保たれている。服装も、旅人っぽくはあるが、戦闘のための何か特別なものを身につけているわけでもない普通のものに見える。

本当に、普通だよね…

思わず、本当にそんな強い力を持っているのかと疑ってしまう。兵器や武器といわれるおよそのもの全てが金属で作られている今の時代において、金属でできたものを一瞬で改造する技術など、チート以外の何物でもない。転送装置などと並び称される世界三大ミステリの四つ目に数えてもいいくらいだ。そんな力を、明らかに一般市民といった様子の一男性が持っているだなんて…

「本当に、そんな力を…」

「え?なに?どした?」

男性の低い声に、知らず心臓がはねる。

「本当に、そんな力を、持っているのですか…?」

何に怯えているのか自分でもわからないまま、震える声で男性に質問する。男性の返答は、そっけないものだった。

「ああ、でもそんな見せびらかすもんでもねぇよ。」

いらだつわけでも、悪意があるわけでもなく、ただ淡々と、無意味だと告げる。

私が、弱いから…?

降ってわいたように、急に小さく咲いた疑惑の蕾は、怒涛の勢いで私の精神に蔓を絡ませる。

この人は、強すぎるから、弱い人には興味がないのかもしれない。私がさっき、兵隊に怯えて何もできなかったから。私が弱い人だってわかったから。…やっぱり私は弱いまんまだ。いつまでたっても、強くなれないんだ。

「しっかし、この国の軍隊は何してんだ。姫さんに非常時の連絡用の何かとか持たしとくべきだろ」

「…王女様のこと、軍のおじさんたちの娘かなんかだと思ってない?」

「保護者みたいなもんだから間違いじゃないだろ」

保護者…?

軍のみんなが私の…保護者…?

…いやだ。やっぱりそんなのいやだ。

言葉が、胸を縛る蔦を切り裂く。

私が、守りたい。軍の人じゃなくて私が、この国を守りたい。お母様とお父様が帰ってきたときに、ちゃんとこの国を守りましたよって、胸を張って言える人間でありたい。そのために、軍の人たちのことも、国全体の人たちのことも、全部守れる人になりたい。やっぱり私は、強くなりたい。

「あの!」

気が付けば反射的に男性に声をかけていた。

男性は急にどうしたといわんばかりの怪訝な表情だ。当然だろう。私のような弱者が必死の表情で話しかけてきているのだから。でも、私は追いつきたい。この人くらい、戦場で堂々としていられる人になりたい。そうすれば、みんなを守り、導いてあげられるはずだから。

「どうしたら、あなたみたいに強くなれますか?」

今度はちゃんと、はっきりした声で言えた。私は勢いづいて、言い募る。

「私、こんなだからずっと弱くて誰も守れなくて、でも血は王族のものだから、軍の人たちとかまとめないといけなくて…でも、全然うまくできなくて…」

知らず、涙がこぼれる。それでも私は、彼から目をそらしはしない。

たとえ彼が、蔑むような眼で見ていたとしても。

「戦争なんてって、どんどん戦争が嫌いになっていくばっかりで、…でも戦争しないと生きていけないから、何も守れないから…私はたぶん、大切なものを守れるだけの力が必要で、…」

頬を伝う涙も、瞼の内側に溜まる雫も、全部ぬぐって、もう一度、彼と目を合わせる。

「大切なものを守れる力が欲しい。だから、強くなれる方法を教えてください。お願いします。」

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