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8話

 8話


 森の東側を探索した翌日――【スキルの残滓】を吸収して、一日の休憩を経て、家の南側に向けて移動する。

 南の方向には、家の近くにある湧き水から繋がる小川を伝い、南下することにした。


「もしも人間がいるなら、水の傍で暮らしているはずだよな。それに、人が居なくても人の痕跡が見つかれば、いいなぁ」


 俺は、川を下っていくと森の一部が開け、人工物を目にする。


「あれは、水車か」


 既に車軸が腐って倒れているが川辺には、水車小屋らしきものが見えた。

 そして、地面は草木に覆われているが、雑草を掻き分け、見覚えのある植物を鑑定すれば、野生化した野菜や小麦などが生えていた。


「ここは、廃村か?」


 慎重に角槍で足元の草を掻き分けて進めば、石造りの半壊した家々が見つかる。


「やっと文明らしいものを見つけたけど、人は去った後か。いや……」


 俺は、足元に落ちているものを拾い上げれば、太く手頃な長さの骨であった。

 動物というよりも人間の大腿骨辺りだろうか。

 そして、周囲を良く探せば、他にも肋骨や背骨、頭蓋骨、衣服の残骸などが見つかる。


「こうも人の死体が散乱している、ってことは魔物の仕業かな」


 俺は、一度人骨に手を合わせて、廃村を探索する。

 草や蔦に覆われている屋内を調べれば、錆びてたり、折れたりしている農具やナイフ、調理器具が見つかった。

 そうした金属類を纏め上げる中で、隠されたツボが割れて、零れるように錆びた銅貨やくすんだ銀貨などを見つけた。


「人は襲われて、死体は放置。外の野菜は手を付けないから野生化、屋内のお金には手つかず。ここを襲ったのは、知性の低い肉食魔物かな」


 俺がそう呟いたところで、廃屋の外から物音が聞こえ、屋内の崩れた箇所から外を見つめる。

 そして見えたのは、茶色の毛皮を持つ鋭い牙を持つ獣だ。


「【鑑定】だと――ウルフ。それが5匹」


 地面の匂いを嗅いでいるところを見ると、俺の匂いを感じ取ったようで、徐々に俺のいる場所に近づいてくる。


「――【錬成変化】!」


 俺は、壁越しに地面を錬成し、ウルフの足元を拘束する。

 いつもの必勝パターンだが、数が多いために一匹が拘束しようとする地面から逃れ、警戒するように距離を取る。


「くっ、逃したか。だが!」


 狼の怖いところは、群れでの連携だ。それを封じた時点で俺に優位なはずである。

 俺は、屋内から飛び出し、逃げた一匹のウルフに向かって突撃していく。


「はぁぁぁっ!」


 スキルと装備の【跳躍】で相手の反応速度以上の突きでウルフの体を捉え、ホーン・ラビットの角槍が喉に突き刺さる。


『――ギャン!』

『『『グルルルルッ、バウバウバウバウバウ!』』』


 一撃で仕留めることができずに、喉を突いたために、ヒューヒューと細い息を繰り返すウルフとそれを助けることができずに、吠える他のウルフたち。


「手負いの獣は、怖いからな。油断はしない。――【錬成変化】」


 倒れたウルフの胴体を押さえるように土を錬成し、拘束する。

 そして、喉を突いた時、ウルフが思った以上に硬かった。

 角槍を見れば、槍の先端が僅かに潰れていたために、急所である目に角槍を突き刺し、槍を捻って目の奥の脳を破壊する。

 土の拘束の中でビクッと体を痙攣させた後、息絶えた。


「さて、他の奴らも倒すか」


 俺は、同じように身動きできないウルフたちを更に拘束して、一匹ずつ仕留める。

 最後の一匹は、完全に恐怖で甲高い鳴き声を出していたが、この森は弱肉強食のために躊躇うことなく倒す。


「……やっぱり、こういう一方的な蹂躙は、気持ちいいものじゃないな」


 俺は、【錬成変化】で固めた土を元に戻し、倒したウルフたちを分解する。

 五匹分のウルフの毛皮と肉、牙、魔石、【スキルの残滓】を手に入れた。

 そして【スキルの残滓】の内容は――


【スキルの残滓】――AGI微上昇、スキル【刺突強化Lv1】

【スキルの残滓】――AGI微上昇、スキル【斬撃強化Lv1】

【スキルの残滓】――AGI微上昇、スキル【刺突強化Lv1】

【スキルの残滓】――AGI微上昇、スキル【追跡Lv1】

【スキルの残滓】――AGI微上昇、スキル【連携Lv1】


 どうやら、【スキルの残滓】は、ウルフの持つスキルの中から一つがランダムにあるようだ。

 上昇するステータスが固定なのは、魔物の種類的なものなのだろうか。

 そして、得られるスキルは、家の周りにいる魔物に比べて多様である。

 色々と有用そうなスキルを手に入れることができそうではあり、ゴブリン同様にこれから狙うべき相手だと思う。


「それにしても最初の拘束を避けたのは、ウルフ・リーダーとかだったんだろうな。正面からじゃ、危なかったかもな。とりあえず、ある程度の金属だけ集めて帰るか」


 だが、人の痕跡と金属、お金を見つけたのは、大きな収穫だ。

 俺は、錆びた道具などから錆を抜き、金属の塊として取り出し、麻の繊維から錬成した背負い鞄に入れ、野生化した野菜や野菜の種も手に入れた

 倒して手に入れた【スキルの残滓】は、【刺突強化】スキルを一つだけ残し、残りをその場で取り込み、家に帰る。


「ふぅ、ウルフの集団がいたけど、収穫は多かったな。それに魔物も少なそう。人の痕跡もあったのは良かったかな」


 東側は、魔物の多様さや強さなどが分からないが、きっと困難な場所だろう。

 南側は、ウルフの集団は厄介だが、人の痕跡があったために南側から人里を目指すのが確実だろう。


「いつかこの場所から旅立つとしたら、南の方から町を目指そうか。とりあえず、旅するために最低限のレベルとスキルを上げていかないと」


 俺は、撒く時期に適した野菜の種を家の傍で新たに拡張した畑に撒き、残りを家の中で大事に保管する。


「ここでも野菜が育てばいいな。そしたら、廃村まで採りに行かなくて済みそう」


 そして俺は、今日採取した野生化した野菜を使った料理を作る。

 野菜の味は、前世に比べたら甘みが少ないが、それでも久しぶりの彩り豊かな食事に、少し涙が零れそうになる。



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