7話
7話
俺のステータスがまた少し変わった。
―――――――――――――――――――――――
NAME:トール・ライド
年齢:12
JOB【錬金術師】
LV :5
HP :280/280(生命力)MP :56/56(魔力量)
STR :34(筋力) VIT :30(耐久力) DEX :30(器用) AGI :35(速度)
INT :28(知力、理解力) MGI :28(魔力) RMG :28(耐魔)
スキル
【採取Lv1】
【槍Lv2】
【跳躍Lv1】
【物理耐性Lv1】
【気配察知Lv1】
【気配遮断Lv1】
【魔力回復Lv1】
【錬金術Lv1】
【鑑定Lv1】
ユニークスキル
【錬成変化】
【成長因子】
―――――――――――――――――――――――
まず変わったことだがジョブが【見習い槍使い】から【錬金術師】に変化した。
また魔道具の作成が成功し、何度も【錬成変化】で解析を行なったためなのか、【錬金術】と【鑑定】のスキルを手に入れた。
これで通常の【付与】による魔道具作りができるようになる他、【鑑定】のスキルにより、
今まで森の中で見逃していたものを見つけられるようになった。
「おっ、これは――ジャガイモだ」
野生化したジャガイモを見つけた時は、小躍りした。
肉と森の果物だけの生活の中で、主食になり得るものを見つけたのだ。
「ジャガイモがあるなら、畑を作れるよな」
見つけたジャガイモの一部を持って、家の隣に広がる広い空き地にやってくる。
「――【錬成変化】!」
足を踏み鳴らし、生える雑草を分解し地表を空気を混ぜて柔らかくし、畑の形に錬成する。
そして、畑の畝にジャガイモを植えていく。
生活していれば、生ゴミなどが出るので、それを分解して肥料にすれば、ジャガイモ生育の助けになるだろう。
それに家の周りなら魔物も入ってこず、安全にジャガイモを栽培できるので、継続的な収穫が楽しみである。
これが【鑑定】スキルを得た大きな変化の一つだろう。
食生活の充実は、大事だ。
そして、【鑑定】のスキルを手に入れた結果、今まで俺が扱っていた素材を改めて調べると、もう少し詳しく知ることができた。
例えば、スライムから手に入った【スキルの残滓】には――
【スキルの残滓】――VIT微上昇、スキル【物理耐性Lv1】
どうやら、俺が倒した魔物から抽出して手に入れる【スキルの残滓】の詳しい情報を調べることができるようだ。
【錬成変化】による解析は、脳裏にイメージとして表示されるので確認しづらい。
簡易的な明文化した情報が欲しいなら、【鑑定】スキルの方が便利だと思う。
そして、グリーンリザードのベスト同様に生み出したアイテムに関しては――
ブーツ【防具】
AGI+5 スキル【跳躍Lv1】
フード付きコート【防具】
VIT+3 スキル【気配遮断Lv1】
先日作ったグリーンリザードのベストと同じ【スキルの残滓】を組み込んだ魔道具だ。
転生時に履いていたブーツと、森で自生する麻の繊維から布を作って仕立て上げたフード付きコートに、それぞれホーン・ラビットの【跳躍】のスキルとグレイラットの【気配遮断】を融合した。
所持スキルと装備スキルは、重複するらしく、防御力や身体能力が高まる。
ただ、【跳躍】の重複により、駆ける時の踏み込みの距離が飛躍的に増し、それに慣れるまでに時間が掛かった。
だが、今は中距離から一気に接近してその勢いで槍を突くために、近場の魔物では過剰な攻撃力を手に入れてしまった。
「是非とも、槍に融合できるスキルを持った魔物が見つかると良いな」
俺はそう呟きながら、自身の装備を点検する。
【スキルの残滓】を合成したアイテムは、【錬成変化】で再び、スキルを分離することができる。
ただ、引き剥がした【スキルの残滓】と言うか、スキルは、【スキル珠】という形のアイテムに替わり、【スキルの残滓】にあるステータス増加系の効果が消えていた。
「この点はちょっとしたデメリットかなぁ。いつか乗り換える装備にステータス上昇効果が残っちゃうのは」
それなら一度俺に融合した後で、必要分のスキルを分離すればいい、と考えるが、人間や魔物から直接スキル宝珠を抽出するのは、現時点のMP量では難しい。
そもそも、スキルのレベルを分割できるのかが、疑問である。
「さて、どっちに行くかな」
俺は、点検した装備を身に着け、森の中に空いた広間から空を見上げて方角を確かめ、地面に槍を立てる。
そして、その槍から手を離すと、ゆっくりと東側に倒れる。
「今日は、東に進むか。それで日にちを変えて時計回りに順番に周囲を探索するか」
俺は、食料やロープなどを詰め込んだバッグを背負い、東の方を目指していく。
スキルとブーツの【跳躍】の相乗効果により、移動距離が延び、行動範囲が広がる。
俺は、進む場所を選びつつ、【跳躍】で地面を蹴って進む。
時折立ち止まり、近くの木にナイフで目印のマークを付けて森を進む。
そして、見慣れた魔物が出現する森の雰囲気が変わり、見慣れぬ魔物が現れた。
「あれは……」
俺は、立ち止まり身を低くすると、ギャァギャァという耳障りな声が聞こえる。
茂みに隠れて、【気配察知】と【気配遮断】を使って接近して、声の場所を覗き込む。
「……あれは、ゴブリンか」
緑の肌に、鷲鼻の小さな角を持つ人型の魔物を鑑定した結果――ゴブリンと出た。
腰には、布やミノを巻き、手には棍棒や錆びたナイフ、木の槍など粗末な武器を持っており、俺のいた森でよく見かけるスライムを三体で囲んで叩いていた。
俺は、しばらくスライムとゴブリンとの戦いを眺めていると、ゴブリン側が数の力でスライムを倒し、ドロリと溶けた粘液の中に浮かぶ魔石を拾い上げて、その場で食べるのを見た。
「初めて見たな。魔物の捕食を」
今まで俺が狩っていた魔物は、捕食される側だったために見たことがなかった。
魔物は、ああやって魔石の魔力を取り込んで強くなるのかも知れない。
「ゴブリンの強さは、俺より弱いだろうけど、集団で行動するのは、厄介だよなぁ」
戦いは、数を揃えれば、強い相手にも勝つことがある。
群れを作るゴブリンという魔物には、慎重に対峙しないといけないと感じる。
俺は、体を低くしたまま、ゴブリンたちの背後に回り、機会を待つ。
「――【錬成変化】!」
ゴブリンたちの足元に穴を生み出し、膝下まで穴に嵌ったところで周囲の土を戻して固める。
そして、【跳躍】によって加速した突きで一体のゴブリンの体を刺し貫く。
『『ギャァギャァ――』』
突然、足を拘束され、仲間の一体が背後から貫かれたのを見て、耳障りな声を上げる。
俺は、倒したゴブリンの背中を蹴って角槍を引き抜き、次のゴブリンを背中から突き刺す。
そして、最後の一体も同様に倒した頃、辺りが静かになる。
「ふぅ、これでいいかな。さて、血の臭いで他の魔物が集まる前にこの場を処理するか」
俺は、倒したゴブリンの死体に【錬成変化】を使い、分解する。
ゴブリンの有用な部位は、魔石と【スキルの残滓】だけなので、それ以外は分解して土に混ぜる。
こんな森でのサバイバル生活でゴブリンが巻いていた布を見たがさすがにこれを利用するのは生理的に受け付けずに、それも土に戻す。
唯一ゴブリンの所持品の錆びたナイフは、鉄分を抽出して持ち帰る。
「後は、血も分解すれば、後処理完了かな」
魔石とゴブリンの【スキルの残滓】を拾い集めると、なんとなく同じ魔物なのに、色に違いが見られる。
俺は、【鑑定】スキルを使い、詳しく【スキルの残滓】を調べる。
【スキルの残滓】――HP微上昇、スキル【暗視Lv1】
【スキルの残滓】――HP微上昇、スキル【逃走Lv1】
【スキルの残滓】――AGI微上昇、スキル【短剣Lv1】
「亜人というか、人型魔物は、多様性があるのか。結構、習得できるスキル幅は大きそうだなぁ、けど、今後も取得するスキルの数が増えてくると、使い切れる気がしないなぁ」
俺は、そう呟きながら、その場を離れて、他の魔物を探す。
どうやら、俺の家から東側には、様々な魔物の巣が点在しているようだ。
ゴブリン同士が縄張り争いをして、ウルフに乗ったコボルト――コボルト・ライダーたちが森を駆けて獲物を追い詰めていた。
リザードマンがフロッグマンを倒して食べており、遠目からオークと思しきピンク色の肌の魔物が単独で森の中を闊歩しているのを見つけた。
その他にも森の奥には、獣や鳥の咆哮や鳴き声が響くために、俺にはまだ早い場所だと直感する。
「まだリザードマンやオークには、勝てないな。しばらく、地道にゴブリンとかを狩るか。とりあえず、今日は帰って、次は南側を回るか」
色々と地理的情報の収穫があったと思いながら、帰りには、自生する野菜やイモ、果物、山菜などを集め、ホーン・ラビットを一匹狩ってから家に帰るのだった。