6話
6話
魔物を積極的に倒し、【スキルの残滓】を集める日々が続く。
レベル5に上がり、近場の魔物ではレベルが上がり辛くなってきた。
最近では、グレイラットとグリーンリザードの【スキルの残滓】を取り込んで得た【気配察知】と【気配遮断】も使い慣れてきた。
もしかしたら、スキルの経験値的なものが貯まり始めているのかもしれない。
「…………そこっ!」
森を歩き、スキルの反応のあるところに槍を突くと、槍の先端には、グリーンリザードが刺さっていた。
この隠密系スキルと感知系スキルは、どちらも気配というものに反応するパッシブスキルのようだ。
この二つを習得したお陰で、今まで見過ごしていた魔物を見つけることができ、家の周囲で効率的に狩りをすることができる。
ただ、家の周囲から魔物が少しも減らないのは、不思議だ。
「そろそろ遠出を考えないとな」
俺がそう呟き、倒した魔物から素材を抽出していると、空が曇り始め、慌てて家に帰る。
そして、家に帰る頃には、この異世界に転生して二度目の雨が降り始め、雨が止むまで家の中にある錬金術の本を読むことにした。
突然だが、【錬金術】とはなんだろうか。
家の中に用意された本に寄ると、【錬金術】とは、三つの技能から成立するスキルらしい。
一つ目が【錬成】――単体、もしくは複数の物質や素材に変化を引き起こすことである。
例えば、土を粘土や石、砂などの形状や状態を変化させたり、水と薬草、魔力を混ぜてポーションなどを作ることだ。
二つ目が【抽出】――物質や混合物から特定の物質を取り出すことである。
例えば、土中から金属を取り出したり、魔物の毒液から薬効成分を取り出すなどある。
これらは、俺の【錬成変化】のユニークスキルでも再現できる。
唯一、男神からできないと言われた【付与】とは、どういう物かと言えば――
「――『【付与】とは、魔法陣や魔法文字を刻み込んだり、魔力を宿した素材や魔石、薬剤を使用して作られるスキルが付与されたアイテムのことである』――と」
アイテムに魔法文字を刻み、使用者の魔力を吸って効果を発動させる魔道具や魔物の素材や強力な魔石を使う武具などが【付与】されたアイテムである。
「本の中には、大食いトカゲの胃袋や魔石から作る道具袋には、【空間拡張】の効果があるって書いてある。欲しいなぁ」
そうした道具袋は、アイテムボックスと呼ばれ、重宝されるらしい。
そうしたものがあれば楽だろうな、と思いながら、【錬金術】に関しての勉強をする。
【付与】された魔道具の中には、再現不可能な――アーティファクトなどと呼ばれる魔道具が存在し、各国で国宝に指定されているらしい。
「いつか旅をするんだったら、こうした魔道具を集めたりするんだろうな。俺の【錬成変化】では、【付与】できないみたいだし」
俺がそう呟きながら、次のページを目にする。
【スキル】を付与された道具でも魔法陣や魔法文字で指向性を作ることで余計な魔力を削減し、威力を向上したり、特定の動作で作動させたり、複数の【スキル】を連動させるなど、魔道具の【付与】は自由度が高いようだ。
そして、その魔道具に関する内容を食い入るように読み込んでいくと――
「うん? 『魔道具には、ダンジョンや自然環境、宗教的な儀式場から産出されたものがある。そのために【錬金術】は、そうした魔道具を研究し、模倣して現在の魔道具が作られる』……へぇ、そうなのか、って」
【錬金術】が先ではなく、どこからか生まれた強力な魔道具を【錬金術】が【付与】という形で再現しているらしい。
またこうした自然発生する魔道具の共通点には、強い魔力などが関わるらしい。
例えば、優秀な鍛治師が魔物の素材から武器を作ると、その魔物の魔力の影響からスキル持ちの武具ができることがある。
また、武器に特定の魔物の素材や魔石を使うことでスキルを付与できる。
このスキル持ちの道具とは、【スキルの残滓】が影響しているのではないだろうか。
「もしかして、俺も作れないか?」
【錬金術】の【付与】はできないかもしれない。
だが、素材や魔石に【スキルの残滓】を錬成したら、同じような魔道具が作り出せるかもしれない。
「閃きと実行――それが全てだ」
俺は、倉庫となっている部屋からグリーンリザードの革と融合させた風属性の魔石。
そして、各魔物から得られる【スキルの残滓】のストックを取り出す。
「まずは、魔物の素材を使って防具を作るか。――【錬成変化】!」
無数のグリーンリザードの革を繋ぎ合わせて、リザードのベストを作り出し、森で拾った太い木の枝から木製ボタンを錬成し、植物の繊維で縫い付ける。
「ベスト作りは、難しいな。立体だし、俺の体に合わせて作るから調整が必要だ」
今までは簡単な錬成ばかりであったが、幾度となく修正を繰り返して、これまでに感じたことのない多くのMPを消費する。
「ベストの形ができた。次は、魔石の魔力を浸透させよう。――【錬成変化】!」
ベスト全体に融合魔石の魔力を浸透させていく。
俺の魔力と魔石を混ぜ込むようにベストに送り込めば、融合魔石に蓄えられた魔力の三分の二ほどを取り込み、魔力の許容限界に達する。
【錬金術】の【付与】手順を【錬成変化】でアレンジしつつ、必要な下準備を終え、最終段階に入る。
「最後にスライムの【スキルの残滓】を融合させる――【錬成変化】!」
物品に【スキルの残滓】を融合する際、俺の魔力が勢い良く消費されるのが分かる。
そして、グリーンリザードのベストとスライムの【スキルの残滓】が錬成され、付与の工程の途中で魔力が尽きる。
「はぁはぁ……おぇっ」
気持ち悪さに家の床に蹲り、吐き気に嘔吐く。
状況を把握するためにステータスを開く。
―――――――――――――――――――――――
NAME:トール・ライド
年齢:12
JOB【見習い槍使い】
LV :5
HP :280/280(生命力)MP :0/56(魔力量)
STR :34(筋力) VIT :30(耐久力) DEX :30(器用) AGI :35(速度)
INT :28(知力、理解力) MGI :28(魔力) RMG :28(耐魔)
スキル
【採取Lv1】
【槍Lv1】
【跳躍Lv1】
【物理耐性Lv1】
【気配察知Lv1】
【気配遮断Lv1】
ユニークスキル
【錬成変化】
【成長因子】
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「MPが枯渇してる……ゼロになるとこんなに、苦しいのか」
俺は、息を荒らげながら、その場でジッと耐える。
しばらくして、MPが1回復すると少しずつその症状が治まり、10ほどまで回復すると、落ち着きを取り戻す。
「はぁはぁ……【錬成変化】による融合は中断しただけで、作業を続けられるのか」
ユニークスキルの感覚的に、半分まで作業は終わった。
だが、MP全部使ってもう一度あの不快感を体験するのは、嫌だと思う。
今度は、MPが枯渇しないようにベストに魔力を送り、スライムの残滓を融合させていく。
MPを一定まで消費したら、作業を中断して、胡座を組み座禅のように一定のリズムで呼吸を繰り返して、MPの自然回復を行なう。
そして、今まで漠然と使っていた魔力というものをより深く感じることができた。
その結果――
「これが魔力か。もっと周囲から魔力を取り込む感じにすれば、回復は早まるかな」
呼吸で取り込む外部の魔力を心臓を通して全身に行き渡らせる。
深呼吸のイメージを繰り返し、MPの回復量が高まった気がして、ステータスを確認する。
「おっ、【魔力回復】のスキルがある」
こうも容易にスキルを得られるとやはり【成長因子】の影響が強くあるように感じる。
そして、作業を続けていくと――
「できた。グリーンリザードのベスト」
グリーンリザードのベスト【防具】
VIT+10 スキル【物理耐性Lv1】
現在の使い回している麻の衣服の上から羽織り、サイズ調整のために何度か錬成する。
衣類としては、出来があまり良くないのは、俺の知識不足だろう。
何度か作って慣れていくか、一度見本を【錬成変化】で解析すれば、良い物が作れそうだ。
「さて、このリザードのベストに【物理耐性】スキルが付与できたわけだけど……とりあえず、実験かな」
俺は、出来立てのベストを脱ぎ、家の外に出る。
【錬成変化】と共に地面を強く踏みならすと、少し離れた地面が隆起し、人型の土人形が錬成される。
俺は、それに作り上げたベストを着せ、角槍を構える。
「防御力は、どんな感じかな。はぁぁぁっ!」
俺は駆け出し、全力でグリーンリザードのベストに突きを放つ。
グリーンリザードを倒しているために、革の厚さや硬さは、分かっている。
スライムの【スキルの残滓】が錬成され、【物理耐性】スキルが付与されてどれだけの効果があるのか。
もしも効果が低ければ、ベストを貫き土人形を突き崩すだろう。
ベストを着込む土人形に全力の突きが放たれた結果――
「……止まった」
ベストには、角槍の先端が食い込むが貫くことなく止まる。
そっと角槍を引き抜きベストを確かめると、ベストには穴が空いており、角槍の先端が硬いものに押し付けたように潰れていた。
「これ、そんなに重くないのに結構な防御力がありそう。鎖帷子くらいの防御力あるんじゃないか?」
俺は、そんなことを呟き、土人形からベストを外す。
「スキルを装備に付与できたってことはこれ、魔道具になるんだよなぁ。それより、色合いがなぁ」
このグリーンリザードのベストは、性能が良いかもしれないが、ツヤツヤの表面では森での隠密性能に欠けると思う。
「近場の森で染色できる植物を探すかな。それで色付けするほかにも、植物の繊維から作ったコートでも上から羽織るか」
それに、より強くなるために、今の場所から遠出して強い魔物を探さなければいけない。
強くなるための探索計画を立てながら、穴の空いたベストにグリーンリザードの革を【錬成】して塞いでいく。
そして、改めてベストを着込み、森に向かって、より遠くの探索のための準備として素材を集めていくのだった。