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25話

 25話


「それで、お前は、何者なんだ? 何か石のようなものを抜き取り、そして消えたがアレはなんだ?」


 斧を手放さずにこちらを警戒するライナスさんに対して、俺は両手を挙げながら会話をする。


「何者、って言っても、普通に孤児で冒険者で、錬金術師でしょうか?」

「バジリスクを2体もソロで倒す錬金術師なんていねぇよ。それに13歳でそれだけの強さがあるって、どこの特殊部隊に居たんだよ」


 そう言われても困る。

 どこかの国のエリート部隊として小さい頃から魔物を殺す生活をしていた、と言う方が案外現実的かもしれない。


「お前さんの経歴は一切掴めていない。お前自身の話だと世間から離れたエルフの養い親に育てられたってことらしいが、町に来た時から高いレベルを隠してやがった」

「まぁ、そうですね。適当に、孤児の身分で潜入して国を内部から乱す密偵、とでも言う方が現実的でしょうね」

「そうだ。だが、レベルを隠しているくせに、やりたい放題だ。同じ新人冒険者に魔法を教えるわりに、パーティーに引き込んで徒党を組むわけでもない。【商業ギルド】には魔道具を登録して大々的に商売をしようとする。【調合ギルド】には高品質なポーションを良心的な値段で融通する」


 目立ちたいのか隠れたいのかどっちだ、と言うライナスさんの心の声が聞こえてきそうだ。


「それに、俺が出てくる前に、お前がルコの毒を完治させたらしいな。他の毒を吸い込んだ冒険者は、まだ苦しんでいるのに、だ」

「組織として恩を売るなら、Cランク冒険者を治す方が得なはず、とか考えてるんですか?」

「そうだ。だけど、お前の行動を考えると、組織なんてものはないんじゃないか、と思っている」


 そもそも組織などなく、ただ高レベルの孤児が冒険者になった。

 彼は、善良な性質を持ち、真面目で勤勉である。

 そのために、友人に教養やスキルを教え、人々の役に立つ魔道具の開発と研究を行ない、冒険者のために良心的な値段でポーションを卸す。

 今回のバジリスクの件では、友人を助けるために謎の技術でバジリスクの毒を解毒治療し、自らバジリスクの退治に乗り出した。


「だから、問うんだ。お前は、何者なんだ、トール・ライド」

「さっきも言いましたが、孤児で冒険者で、錬金術師です。まぁ、本人が何を言ったところで、全て怪しく見えますからね。気になるのなら町から去りますよ。幸い身分証明に【冒険者ギルド】と【商業ギルド】、【調合ギルド】のギルドカードがありますから」


 俺が困ったように笑ってそう言うと、ライナスさんは、深い溜息を吐き出す。


「あー、分かった。疑って悪かった、お前を信じる!」

「信じるって言っても、ライナスさんが疑うように他の人も疑うんじゃないですか?」

「まぁ、そうだが……あと、お前がバジリスクから抜き取っていたものはなんだ? 引き抜く際に苦しんでいたが、魂とかじゃないだろうな」


 お前の正体が、魂を喰らう悪魔だとしても俺は驚かないぞ、と言うライナスさんに、俺は素直に自身のことを話す。


「あれは、俺のユニークスキル【錬成変化】の効果の一つです」

「ユニークスキル持ちだったのか。お前……」


 驚くところだろうか。

 普通はどんなユニークスキルなのか、とか聞く場面だと思うが、そもそもユニークスキル持ち自体が稀少なのだと思った。


「ユニークスキル持ちですよ。どんなユニークスキルか、と言えば、そうですね。ライナスさんの魔法の適性って何がありますか?」

「はぁ? 俺は、風と土の適性があるが、それがどうしたんだ?」


 なるほど、ならちょうど良いな、と思いながら、【アイテムボックス】からダンジョン産のランタンを取り出す。

 これは【光魔法Lv1】のスキル持ちの魔道具であり、それに対して【錬成変化】を行なう。


「これは【光魔法】スキル付きのランタンです。それを――【錬成変化】!」


 俺がランタンから【光魔法】のスキル珠を抽出してみせる。

 すると、スキルの抜けたランタンはタダのガラクタとなり、ライナスさんに手渡して明かりの付かない壊れたランタンであることを確認してもらう。


「この魔道具のスキルを物質として抽出しました。そして――【錬成変化】!」


 俺は、ライナスさんの体にスキル珠を押し付ける。


「うぉっ! なにするんだ!」


 驚くが、反射的に手に持つ戦斧を振るわないライナスさんは、俺をもう信じていると思っていいだろうか。


「ステータスを確認してください」

「ホント、いきなりだな……って、おい、なんだこれは。俺のステータスに【光魔法】があるぞ」

「これが俺の錬金系ユニークスキルの【錬成変化】です」


 百聞は一見にしかず、と言うことわざの通り、ライナスさんに体験してもらい、否が応でも俺の【錬成変化】の能力を信じさせる。


「まさか、スキルを奪って、他人に与えるユニークスキルを持っているのか……」

「それはあくまでユニークスキルの一面で、本質は物質の分解と錬成、抽出、解析などの統合的なスキルですけどね」


 ライナスさんは一気に疲れた顔になるが、俺としては、まだやらなければならないことがある。


「俺のユニークスキルのことは後にして、とりあえず、バジリスクの死体どうします? 俺が倒したことにして持ち帰ると面倒なんで、ライナスさんが倒したことにしてくださいね」


 倒したまま放置されたバジリスク2体分の死体を見て、ライナスさんは、溜息を吐き出す。

 死体を拘束するために内部に食い込ませた鉄槍を元に戻し、損傷した死体を綺麗になるように【錬成変化】で整える。

 そして、ライナスさんが持つ腕輪型の【アイテムボックス】がバジリスクの死体を吸い込み、片付ける。


「本当にいいのか? 俺に譲るってことは、お前が得る称賛や報酬も全部俺が貰うことになるんだぞ」

「別にいいですよ。もう、バジリスクから欲しい物は貰いましたし……」

「ホント。スキルなんて金を払っても手に入るようなものじゃないよな。その歳でそれだけの強さはある意味納得した」


 そう言って、バジリスクが片付いたところで俺は、【察知】スキルで知ったバジリスクの住処を目指す。


「おい、どこに行くんだ?」

「バジリスクが番いなんで、巣に行って卵を潰すつもりですよ。それとも卵って高級食材だったりします?」

「いや、町に持ち込んで孵化すれば、危険な毒蛇だからな。見つけ次第、破壊する」

「了解です」


 俺は、ライナスさんを連れて、森に空いた斜めの横穴を見つけ降りていく。

 そこには、バジリスクが食べて吐き捨てたゴブリンの骨や人骨や衣服の残骸などが残されていた。


「……最近の失踪者は、バジリスクにやられてたのか」


 誰が誰の遺骨かも分からないので、形見代わりになるギルドカードだけ見つけて回収し、燃やして土に埋めることにした。


「アンデッドになって出てくるなよ。――【錬成変化】」


 俺は遺骨を【錬成変化】で分解して、更に清めの酒代わりにポーションを撒いて、祈る。


「どうか、創世神・アーライダ様のところに無事に行けますように」


 バジリスクの卵をライナスさんと手分けして潰し、火魔法を洞窟に放って燃やし、土魔法で穴を埋めて整地する。


 それだけでも大仕事である。

 その際に、ライナスさんの正体が明らかになった。


「えっ、ライナスさん、ギルドマスターだったんですか? 引退冒険者がギルドに雇われてギルド職員と宿屋の店主を兼任してたんじゃなくて?」

「俺はAランク冒険者からギルドマスターになったが、今でも現役冒険者だ。宿屋に居たのは、毎年の新人をこの目で確かめるためだ。何故か知らんが四人も長期に滞在するもんだから、今更ギルマスでもあるなんて言えなくなったんだよ。まぁ、名目上ギルドマスターとギルドの宿のオーナーは同じだから間違いはないけどな」


 そういえば、俺たちがギルドの依頼で出かける時のライナスさんの様子は知らないし、割とギルドの方に顔を出している。

 どうやら、ギルドの方での仕事がメインで、宿屋に居る時は息抜きだったようだ。


「なるほど……でも、なんで食事を俺たちと一緒に? ギルドの食堂があるじゃないですか?」

「お前らの飯の方が旨い。毎日メニューが違うから飽きがない。あと安い」

「ギルドマスターなんだから、微妙にケチ臭いこと言わないでくださいよ」


 俺がジト目をライナスさんに向けると、そっと視線を逸らされた。


「それで、結局ライナスさんがあの場に居たのは、バジリスクを討伐するためだったんですか?」

「ああ、元AランクならソロでもBランク下位のバジリスクに対抗できるからな。辺境の町でCランク以上なんて滅多に訪れないからな。バジリスクを倒せる奴らは少ないんだ」


 それに地方で育った冒険者はダンジョンなどを目指すので、Cランク以上の冒険者パーティーはあまり残らなかったりするらしい。


「なんか、お疲れ様です」


 そして、そんな話をしている間にバジリスクの巣も片付け終わり、気付けば夜明け前だった。


「ライナスさん、俺、夜のうちにこっそりと抜け出したんで、またこっそりと町中に入ります」

「おう、また後でな」


 俺は町手前で一度別れ、来る時と同じように衛兵に気付かれないようにこっそりと城壁を登って町中に入り、正面から町に入るライナスさんと途中で合流し、二人でギルドに戻っていく。


「ライナスさん、お帰りなさい。首尾はどうでしたか?」

「ああ、無事にバジリスクを討伐した」


 出迎えたギルドの副ギルド長の男性が声を掛けてきた。

 その報告に、朝早くから依頼のためにギルドに集まっていた冒険者たちが歓声を上げるが、ライナスさんの報告はまだ続く。


「それも二匹の番いが居て、穴掘って住処で産卵していた。巣の中には、今年行方不明になった冒険者のギルドカードが残されていた。討伐が遅かったらあの森で繁殖していた危険性もあったな」


 その報告に多くの冒険者が絶句し、副ギルド長の男性もそうですか、と僅かに目を伏せて了承して、ギルドの業務に戻る。

 そして、ライナスさんは、俺を連れてギルドの医務室に向かう。


「ライナスさん、バジリスクの死体を解体所に運ばなくていいんですか?」

「防毒の準備ができてない段階で解体すると危ないからな。後日、町の外で解体するんだ。それより、トール。頼めないか?」


 そう言って、ライナスさんと共にギルドの医務室に入った俺は、その一室の匂いに顔を顰める。

 カーテンで仕切られているが、明らかに腐敗や壊死したような悪臭だ。

 そこでは、多くの冒険者の呻き声が聞こえる。


「……ギルマス。来てくださったんですね」


 既にバジリスクの毒で壊死したために、片足を切除した冒険者が掠れた声でライナスさんを呼び止める。


「ああ、さっきバジリスクを討伐してきた、お前たちの仇は取った」

「へへっ、助かります。俺は、もう一眠りしますよ」


 そう言って、バジリスクが討伐されたことで安堵の笑みを浮かべる冒険者。

 他にも手の指が欠けたり、四肢のうちの一本を失い、片目が失明しているバジリスクの毒の被害を受けた冒険者たちがいる。

 なんとか生かすために、壊死した箇所を切除し、ポーションで傷を塞ぎ、流れた血を増やすために増血剤なども飲まされて生かされている。


「ライナスさん、すみませんが、少し手当をしていいですか?」

「お前を連れてきたのは、それを頼もうと思ったんだ。けど、大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ」


 俺は、バジリスクの毒で倒れた冒険者一人一人に看病のついた治癒術士や医師の立ち会いのもとで【回復魔法】を施す。


「――【イレイザー】【ヒール】【キュア】」


 まずは体内に残るバジリスクの毒の魔力を相殺する。

 ルコの体内を巡るバジリスクの毒を消した時は、魔力の増幅もなしに俺の素の魔力で相殺して苦労した。

 だが、毒を放ったバジリスクが死んだために、呪いのように毒を強めて残留させ続けていた魔力が弱まり始め、比較的楽に相殺することができた。

 続いて、回復魔法で体力の回復と傷や壊死した箇所を治し、続いて魔力の抜けたバジリスクの毒を浄化していく。


 バジリスクを2体討伐してレベルが上がったために、最大MP量も増え【回復魔法】のレベルも上がったので治療することができた。

 治療が済むと、医師と治癒術士は患者の容体の改善に驚き、問い詰めようとする。


「さっきの治療方法はなんですか! それは、どういう治療なんですか!」

「ぜひ、先程の魔法の使い方を教えてくれ!」


 そう言って詰め寄られた俺にライナスさんが、庇ってくれる。


「トールに治療を頼んだ俺が言う義理じゃないかもしれないが、別の病人の看病で三日前から寝てないらしい。今は休ませてやってほしい」

「俺は平気……じゃないですね」


 ふと、これで全員が治療できた、と考えるとフラッと足元が揺らぎそうになる。

 完全に限界超えて活動していたようだ。

 幾らレベルを上げても、魔法には集中が必要だ。

 それが三日間、極度の緊張状態に晒され続けて、よくここまで持ったと思う。


「すみません……ね、ます」


 そう言って、俺はその場で糸が切れた人形のようにぶっ倒れるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「本当にいいのか? 俺に譲るってことは、お前が得る称賛や報酬も全部俺が貰うことになるんだぞ」 どうして、報酬まですべて貰う話になるのか理解できない。報酬は、一旦ライナスが受け取って、…
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