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24話

 24話


 ルコの治療は、俺の集中力との勝負だった。

 一日目は、状態を安定させるために【回復魔法】を常時照射しつつ、アランとノーマンが【魔力保存の首飾り】に貯めてくれた魔力を利用してバジリスクの魔力を相殺していった。その結果、毒の魔力を三割ほど消すことができた。

 二日目にはアランとノーマンだけでなくライナスさんも魔力を分けてくれたために、バジリスクの魔力を七割ほど消し、解毒薬と併用することで毒をかなり排除することができた。


 そして、三日目には――


「ふぅ……【イレイザー】」


 バジリスクの毒による細胞の損傷よりも俺の回復魔法の回復速度が優勢になった。

 俺のMPの自然回復量が上回ったために、回復した余剰魔力でルコの体内から完全にバジリスクの魔力を相殺し、レベルが上がった【回復魔法】で【キュア】の魔法を唱えて、体内のバジリスクの毒を浄化する。


「すぅー、すぅー」

「あはははっ、これでようやく、手を離せるよ」


 完全にルコの体内からバジリスクの毒が消えた。

 だが、【生命力強化】と【毒耐性】スキルを得たからと言っても、バジリスクの毒に抗うためにルコは著しく体力を消耗している。

 今は、少しでも体力を回復するために深い寝息を立ててる。


「一週間は安静だろうから、ちゃんと養生しようね。その後で、少しずつ日々の生活に戻そう」


 俺がそう話しかけるようにルコの髪の毛を手で梳くと、眠っていたルコが目を覚ます。


「あ、あれ……トールさん、おはよう。酷い顔してますよ」

「あははっ、そうかな」


 目が覚めてしまったルコに俺は困ったように笑う。

 三日三晩、徹夜で【回復魔法】を掛け続けていたために、一睡もしていない。


「ルコは、体力ありそうだね。お腹は空いてる?」

「う、うん。なんかお腹空いてるのに、食欲湧かないような変な感じ」

「じゃあ、ノーマンに頼んで、食べやすいお粥とか用意してもらおうか」


 ルコの容体が安定したことで、遅れて眠気が襲ってくる。

 徹夜した酷い顔でにへらっ、と力ない笑みを浮かべるとルコは、釣られて泣きそうになる。


「わ、私、このまま、死んじゃうのかと……思ってた。手先が冷たくて、苦しくて……でも、トールさんの握ってくれた手が温かかった。トールさん、ありがとうございます」

「もう大丈夫だからね。けど、しばらくは安静にしてようか」


 俺はルコの華奢な体を抱き締めて、幼子をあやすように、軽くぽんぽんと背中を叩く。

 そして、バジリスクの毒による死の恐怖から解放されたために、緊張が途切れるように再び眠りに落ちる。


「さて、後はアランとノーマンに任せるか。医者の手配もするように言わないと」


 俺はそっとルコを寝かせ直して部屋を出ると、アランとノーマンに毒の浄化が終わったことと、ルコが起きた際の食事とギルドが用意した医師の手配を頼む。


「それじゃあ、アランたちに後は任せるよ。少し休ませてもらうね」

「本当に、ありがとう! ルコを助けてくれて!」

「……トール、ありがとう」


 ルコを蝕む毒を浄化したことで、この三日間心配し続けていた二人もやっと肩の荷が降りたような気分だろう。

 そして、後をアランたちに任せて、休むために自室に戻り一人になると、今まで抑え込んでいた気持ちが沸々と湧き出す。

 アランやノーマン、毒に侵されたルコたちを不安にさせないように平静を装っていたが、睡眠不足と合わせて少し気が立っているようだ。


「本当に……大切な友人を傷つけたバジリスクが腹立たしいが、なにより自分自身が腹立たしい」


 旅立つ前に、先生を復活させるために強くなると誓った。

 だが、町に溶け込むために強さへの渇望を忘れて、錬金術の方に傾倒していた。

 その結果が、【回復魔法】スキルのレベルが低いまま治療を迫られ、非効率な治療になってしまった。


「さて、行くか」


 スッと自分の中の感覚が切り替わり、冷えていくのを感じる。

 バジリスクは、絶対に殺して、スキルを奪い取る。

 寝不足から大分思考が短絡的になっているが、それでも構わずに、自室の窓の扉を開ける。


「行くぞ、グレイプニルの鎖」


 俺は、アイテムボックスから【錬成変化】で作り出したミスリルの鎖を取り出し、【操糸】スキルで外に放つと、鎖に引かれるように建物の屋根に移り、宿を抜け出す。

 既に時間は夜に差し掛かっており、スキルを総動員して気配を殺し、建物の屋根伝いに移動する。

 夜間の出入りが制限される門ではなく、外壁を飛び越えるようにして町の外に出る。


「さて、行くか」


 普段は薬草採取に訪れる見慣れた平原に降り立ち、ゴブリンの集落殲滅の依頼が行なわれた場所まで【跳躍】スキルなどの移動系スキルを使用して一気に駆けていく。


「……ここがその場所か。酷いな」


 冒険者の野営地は数日前の名残か、散乱したテントや鍋、焚火の跡、荒らされた物資の荷車などが残されていた。

 そして、地面には何かが這いずったような後が残っており、俺はそれを追い掛けるように森の中に入っていく。


「空気が重いな」


 俺は気配を殺し、魔物の気配を探っていく。

 そして、すぐに一匹の魔物と遭遇する。


「ゴブリン。それもバジリスクの毒を受けたのか」


 フラフラと足取りが覚束ないゴブリンを見つけた俺は、【錬成変化】で地面を操作して拘束する。

 鑑定した結果、【毒耐性Lv1】を取得していた。


「都合が良い。そのスキル貰うぞ。――【錬成変化】」


 俺はゴブリンから【毒耐性】のスキル珠を抽出し、自身に取り込む。

 ルコに与えたために失ったスキルだが、バジリスクと戦う前に再度取得できて良かった。

 そして、スキル抽出の際の苦痛でゴブリンが断末魔の叫びを上げて、絶命する。

 その声に合わせて、森の奥から巨大な魔物の気配が近づいてくる。


「ああ、本命の登場か」


 俺は、プラチナの腕輪の【アイテムボックス】から【刺突の猪鉄槍】を取り出し、左腕にミスリルの捕縛鎖である【グレイプニルの鎖】を巻き付けて、構える。

 そして、森の木々をなぎ倒しながら現れた一匹の大蛇・バジリスクを見詰める。


「さぁ、ルコや他の冒険者たちの仇討ちと行くか。――【錬成変化】!」


 地面を踏み鳴らし、地表を鋭利なトゲ状に変化させて、バジリスクに攻撃する。

 だが、バジリスクの蛇の鱗と弾力のある体によって弾かれ、逆に体重によって土を押し固めたトゲが崩される。


「さすがにBランク下位の魔物だ。傷一つないんだな」

『シャララッ――』


 喉を鳴らしながら大口を開けて飛び掛かってくるバジリスクを、跳躍して木の枝に飛び移って躱す。

 そして、地面を這って木に巻き付くようにしてこちらを追い掛けてくるので、更に跳躍して距離を取る。


「反応速度は、まぁまぁ。それじゃあ、これは――【裂空穿】!」


 全力で加速した俺が放つ武技がバジリスクの体を捉えると、鱗の一部を弾き飛ばし、皮を穿ち、肉が覗く。

 そして、痛みから反射的に尻尾を振るうバジリスクの一撃をバックステップで回避する。

 振り抜かれた尻尾が近くの木に当たり、メキメキと音を立てて倒れる。


「一撃は危ないか。けどまぁ、ちまちまやれば、倒せないことも……」


 そう言って分析している間に、槍の突きで抉ったバジリスクの傷口が盛り上がり、塞がっていく。

 そこで【鑑定】スキルを発動させて、相手の所持スキルを確認する。


「――【再生】スキル持ちか。それに【生命力強化】や【耐久力強化】、【蛇鱗強化】のスキル。総合力ならB-ってところかなぁ。確かに、Cランクの冒険者パーティーがいたけど、これじゃ勝てないだろうな。それに、守るべきDやEランクも居た」


 そう状況を分析しながら、バジリスクの攻撃を避けていく。


「ふぅ、同じ【再生】持ちのオーガのように内部破壊するにしても、この体の大きさだと難しいなぁ」


 単に体の端に槍を突き刺して内部を破壊したぐらいでは、その部分を自分で切り落として再生してしまいそうだ。

 どうやって倒そうか、と寝不足で疲れた頭で考える。

 そして、考えた結果――


「……面倒臭いなぁ。どうせ【再生】スキル持ちなら簡単に死なないよな」


 俺はそう呟き、全力でバジリスクの胴体目掛けて突きを放つ。

 先程は魔力を込めた遠距離の突きの武技であるが、今度は全力を込めた岩をも砕く一撃だ。

 その結果、バジリスクの胴体の半分以上が抉れて、肉が見える。


『シャァ、シャァァッ――』


 突きに【痛覚増加】のスキルを乗せたために、痛みに金切り声のような叫びを上げるが、肉の断面は再生を始める。


「寝不足の頭に響く。うるさい! ――【真空斬】【フレイム】!」


 続けて、魔力を込めた槍先を振り抜き、未だに繋がる残りの胴体も両断し、その断面を火魔法で焼いて、傷口の再生を妨害する。


『シャァ、シャァァッ――』

「よし、処理しやすい長さになったな」


 長さが三分の一になったバジリスクが口から毒霧を吐き出し、俺はそれを吸い込む。

 だが、俺の体内に入り込む異物の魔力を【魔力相殺】スキルで消して、【毒耐性】と【回復速度強化】【自己回復】スキルで少しずつ解毒していく。


「ああ、気持ち悪いし、熱っぽい。スキルやレベルで能力底上げされているのに風邪っぽいってことは、ルコはもっと苦しかっただろうな。――【グレイプニル】! 初めての仕事だ!」


 俺は、独り言を呟きながら【操糸】スキルを使い、2メートルほどのミスリルの鎖が、【伸縮自在】のスキルにより伸びて、バジリスクの頭部を拘束し始める。

 鎖を引き剥がそうとのたうち回るバジリスクの体に、アイテムボックスから取り出した鉄製の槍を突き刺す。

 僅かに食い込んだ槍先を【錬成変化】で形状を変化させて、肉を裂く。

 バジリスクの体内を裂いて進む鉄は、内側から突き破り、地面に杭のような形で深々と刺さる。

 頭部はミスリルの鎖で完全に固定され、

 短くなった体だけがうねうねと動いている。


「さて、まず欲しいスキルはルコにあげちゃった【生命力強化】と【毒耐性】のスキルだけど、他に何を頂くかなぁ」


 俺は完全に拘束したバジリスクに対して、鑑定しつつ、手に入れられそうなスキルを選定する。


「うーん。とりあえず、渡したスキルを取り戻すかな。――【錬成変化】」


 俺は、バジリスクから【生命力強化】と【毒耐性】スキルを順番に抽出していき、自身の中に取り込んでいく。

【再生】持ちのオーガとの反省で、なるべく生かすために【再生】スキルは最後に抽出する。

 そして、【錬成変化】の三度目のスキル抽出の苦痛に耐えきれずにバジリスクが絶命し、その経験値が俺の中に流れ込む。


「ふぅ、これでバジリスク討伐完了かな。他にも色々と欲しいスキルがあったんだけど…………」


 俺がそう呟く間に、感知範囲に新たな魔物の気配を捉えた。

 どうやらバジリスクは一体だけではなく、二体の番いだったようだ。

 更に、よくよく感知範囲を広げると、近くの洞窟に無数の小さなバジリスクの卵がある。


「番いだったのか。子どもに程よい餌としてゴブリンの群れや人を求めて移動したのかな?」


 バジリスク一匹なら森の奥で細々と暮していればいいが、番いの二匹と大量に生まれる子どもに必要な餌を探してここまで来のだろう。

 そして、二匹目のバジリスクが居ると知り俺は――歓喜した。


「さっきのバジリスクから【蛇鱗】スキルを得られなかった。それに【熱源探知】や【潜伏】などのスキルが高レベルで揃っている」


 先程倒したのはメスのバジリスクで、今度現れるのはオスのバジリスクのようだ。

 どうやら、オスが狩り重視のスキル。メスは、生命力に溢れているようだ。

 そしてしばらくして現れたバジリスクを先程倒したバジリスクと同じように三分の一に斬り落として、頭部を抑えて、スキルを抽出して絶命させた。


 オスのバジリスクからは、【蛇鱗Lv5】【熱源探知Lv5】【潜伏Lv5】のスキルを取り込み、【蛇鱗】は、【硬化】スキルに統合された。


 ―――――――――――――――――――――


【ステータス】


 NAME:トール・ライド

 年齢:13

 JOB【錬金術師】

 LV 50

 HP :2120/3050(生命力)MP :230/820(魔力量)

 STR :401(筋力) VIT :372(耐久力) DEX :405(器用さ) AGI :436(速度)

 INT :341(知力、理解力) MGI :344(魔力) RMG :303(耐魔)


 武器スキル

【槍Lv7】

【剣Lv3】

【短剣Lv3】

【棍棒Lv3】

【斧Lv3】

【投擲Lv5】

【盾Lv3】

【弓Lv2】

【体術Lv4】


 魔法スキル

【魔力回復Lv7】

【魔力制御Lv2】

【火魔法Lv2】

【水魔法Lv4】

【土魔法Lv3】

【光魔法Lv1】

【生活魔法Lv8】

【魔力譲渡Lv8】

【回復魔法Lv3】

【空間魔法Lv3】

【結界魔法Lv1】

【魔力相殺Lv1】


 強化スキル

【刺突強化Lv7】

【斬撃強化Lv5】

【打撃強化Lv4】

【生命力強化Lv5】

【魔力量強化Lv4】

【筋力強化Lv7】

【耐久力強化Lv5】

【器用強化Lv6】

【速度強化Lv5】

【知力強化Lv4】

【魔力強化Lv3】

【耐魔強化Lv3】

【自己強化:身体Lv3】

【五感強化Lv1】

【消化Lv3】

【回復速度強化Lv4】

【身体強化Lv2】

【並列思考Lv2】

【硬化Lv5】

【再生Lv3】

【痛覚増加Lv3】


 耐性スキル

【物理耐性Lv5】

【魔法耐性Lv2】

【毒耐性Lv4】

【睡眠耐性Lv2】

【威圧耐性Lv2】

【病気耐性Lv1】

【呪い耐性Lv1】

【火耐性Lv2】

【水耐性Lv2】

【闇耐性Lv1】


 生産スキル

【錬金術Lv6】

【料理Lv5】

【調合Lv6】

【建築Lv4】

【栽培Lv4】

【裁縫Lv3】

【彫刻Lv1】

【陶芸Lv1】


 技能スキル

【鑑定Lv7】

【採取Lv6】

【跳躍Lv5】

【暗視Lv6】

【騎乗Lv1】

【調教Lv1】

【罠師Lv3】

【狩猟Lv4】

【伐採Lv3】

【水泳Lv3】

【登攀Lv2】

【解体Lv2】

【教導Lv1】

【速読記Lv2】


 戦術スキル

【連携Lv4】

【追跡Lv3】

【逃走Lv3】

【指揮Lv4】

【威圧Lv4】

【挑発Lv1】

【潜伏Lv5】

【奇襲Lv2】


 感知・隠密系スキル

【気配察知Lv5】

【気配遮断Lv5】

【罠感知Lv3】

【魔力感知Lv6】

【危機察知Lv3】

【魔力隠蔽Lv4】

【霊視Lv4】

【空間把握Lv3】

【偽装Lv8】

【熱源探知Lv5】


 操作スキル

【操糸Lv4】

【操水Lv3】

【血流操作Lv2】


 特攻スキル

【対人特攻Lv2】


その他スキル

【仮死Lv2】

【礼儀作法Lv3】


 ユニークスキル

【錬成変化】

【成長因子】


 ―――――――――――――――――――――


 俺は、倒したバジリスクをどうしようか考える。

 二体分のバジリスクを持ち帰っても不審がられるし、だからと言って放置するわけにもいかない。


 平穏に過ごすとしたら、知らんふりなんだろうが……と悩んでいると、俺の各種察知スキルを抜けて、突然背後から一人の人間の気配が現れた。


「……トール。お前、何者だ? そのバジリスクから何を抜き取った」

「……ライナスさん」


 俺が驚き振り返ると、ギルドに併設した宿屋の主人であるライナスさんが戦斧を片手にこちらを警戒している。

 見知った相手から警戒されるのは少し心に来るものがあるな、と思いながら、武器をアイテムボックスに仕舞って両手を挙げる。

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