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23話

 23話


 そして、俺たちは宿の一室にルコを寝かせ、汚れた衣服を着替えさせる。


「これから二人にはやってもらいたいことがある。ルコを治療するのに必要なんだ」

「なんだ! できることがあるなら、言ってくれ!」

「……俺も手伝う!」


 アランとノーマンは力強く答える。


「アランは、このアクセサリーに魔力を込めてくれ」


 俺が取り出したのは、祭りの時に悪徳商人が売っていた呪われたアクセサリーを浄化して手に入れた【魔力保存の首飾り】だ。

 これには、MP500分の魔力を蓄えることができる。


「アランとノーマンは、交互にこのアクセサリーに魔力を込めてくれ。その魔力を使って俺がルコに回復魔法を掛け続ける」

「わかった。トール、任せろ!」

「……俺の使い道の少ない魔力、使ってくれ!」

「ああ、頼んだ。それとルコのための着替え、水と塩と柑橘類の果汁を搾って混ぜた飲料を用意してくれ! 大量の汗を掻いてるから脱水症状にならないように、頼む」


 俺は、着替えや買い物に必要なお金をアランたちに押し付けて送り出す。

 そして、二人がいなくなったところで俺は、ルコの髪を梳きながら長い溜息を吐き出す。


「二人は危なっかしいからな。こっちで指示出してコントロールしないと」


 ルコが治療されずに、自暴自棄になってバジリスクに挑みに行くなどという行動をアランたちがするかもしれない、と思った。

 だから次々に仕事を与え、俺の手伝いをさせることで傍に居させる。


「これで、継続して魔法を掛け続けることができる」


 それに、俺の低レベルな【回復魔法】でルコの体力を維持するが、それでも結局はジリ貧だ。

 そのために魔力を回復できるマナポーションや【魔力保存の首飾り】があると心強い。


「――【錬成変化】!」


 俺はルコの体内を解析し、壊死毒によって死んだ細胞を分解すると共に、【回復魔法】で死んだ細胞を再生する。

 そして、【錬成変化】で分解した体組織や毒素が体外に排出されていくのを確認する。


「とりあえず体力維持の段取りはついたけど、まだ毒の勢いの方が強い」


 ルコの免疫力が毒を消すまで、一週間以上かかる見立てだ。

 いくら回復魔法で体力を維持しているからと言っても、激しい熱消耗にルコの体の方が耐えられないと感じる。


「はぁ、もっとレベルや【回復魔法】スキルを高めておけば良かったなぁ。まぁ、そんなこと言っても仕方がないし――【錬成変化】! ぐっ!」


 俺は、ルコの回復のために差し出した手とは反対の手を自分の胸に当てる。

 ズブリと体に入り込む手の平が俺の魂に触れ、目当てのスキルを魂の表面から引き剥がしていく。


「がぁぁっ! ふぅー、ふぅー。これがスキルを抽出する苦痛か」


 三つ以上のスキルを短時間で抽出すると、対象はショック死する。

 俺も自分が死ぬリスクは冒したくないので、【生命力強化Lv7】と【毒耐性Lv3】の二つのスキル珠を抽出し、ルコの胸元に埋め込むように【錬成変化】で移植する。


「ふぅ、これで多少は分の良い賭けになるな」


 俺の【生命力強化】と【毒耐性】スキルを取り込んだことでルコの顔色が少し良くなる。

 また【錬成変化】による体内の解析の結果、バジリスクの毒がルコの細胞を破壊する速度が遅くなっている。

 後は、ルコ自身の免疫力でバジリスクの毒に打ち勝つか、俺の【成長因子】がこの状況で必要なスキルを習得するか、だ。


「トール、首飾りに魔力を込めてきた。あと、ノーマンが飲み物を作ってくれたから持ってきた。俺は、これからルコの着替えや食材を買ってくる。あと、解毒薬も貰えたから持ってきた……効くかどうか分からないけど」

「ありがとう。助かる」


 俺は、アランから受け取った【魔力保存の首飾り】を手に取る。

 中に込められた魔力は二人合わせて300と言ったところだが、俺の魔力はルコの状態を維持するために使っているため、それ以外のことに使える魔力が手に入るのはありがたい。


 今は、ルコの体力維持のために【回復魔法】を常時使い、【錬成変化】で体内の壊死組織と毒素の分解の多重スキルを使っている。

 そこに更にもう一つ――


「アランとノーマンの魔力を使って、バジリスクの毒の魔力に干渉する」

「トール、そんなことができるのか?」

「毒を強める魔力さえ消えれば、アランが貰ってきた解毒薬も効きがよくなるはずだ」

「じゃあ、なんでみんなはその方法をやらないんだ?」


 アランの疑問はもっともだ。

 だが、それには相応の理由がある。


「ルコの体内を巡る毒に的確に魔力を当てるのが難しい。次に、アランたちが貯めてくれた魔力を使ってもバジリスクの毒の1割程度しか消せない」


 魔物の魔力を打ち消すのはあの場にいた治癒術士が使う魔法より一段上のものだし、バジリスクの毒に効く解毒薬も魔力で解毒成分を増強しているから効くのである。

 そんな強力な毒に、素の人間の魔力を増幅せずに当てて相殺しようとしても効率が悪く、大した効果は得られない。

 また、それだけの魔力があるなら【回復魔法】を習得して【アンチドーテ】の魔法を唱えた方が遙かに効率的だ。

 効率的、なのだが――


「時間も金も、スキルもない。だから、非効率的な方法でも、やるんだよ」

「トール……」

「とりあえず、アランとノーマンは、また魔力を補充できるように休んでおいて。他に頼みたいことがあったらお願いするから」

「わ、わかった」


 そして、俺は首飾りの魔力を使い、ルコの体を巡るバジリスクの魔力の一部を排除する。

 一々体内を巡るバジリスクの魔力を追うのではなく、ルコの心臓付近に待ち伏せするようにして体内を巡る魔力に対極の魔力をぶつけて相殺する。


 その際、【魔力相殺】というスキルを得た。

 どうやら対象の魔力と対極の魔力をぶつけることで魔法や身体強化を無効化するスキルらしいが、確認は後にして、ルコの体内の毒の排除を目指す。

 とりあえず、300のMPで体内を巡るバジリスクの魔力の1割を消せたが、毒自体は消えたわけじゃない。


「……ルコ、起きられる?」


 俺は、ゆっくりとルコを起こすように語り掛けると、熱っぽい様子のルコが目を覚ます。


「あれ……確か、ポーション飲んで、吐いて……」

「宿の方に戻ってきたんだよ。解毒薬を貰ったからそれを飲んで、また寝ようか」


 俺は、背中に手を回してルコの上体を起こして、解毒薬と水分補給の飲み物を飲ませる。

 最初はバジリスクの毒で青い顔をしていたルコだが、【生命力強化】と【毒耐性】のスキルで毒に抗うことができており、少しだけ顔に血の気が戻っている。


「……トールさん、私は、大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。みんな助けてくれるから、今はゆっくりお休み」


 俺は、【回復魔法】を発動するために手を握っている。

 握る掌がほんのりと温かいのか、ルコは小さく頷き、そのまま再び眠りに就く。


「……調合師の解毒薬はさすがだ。早速、魔力を相殺した部分の毒を解毒し始めた」


 ルコの体内の毒の量が減ったことで、更に体内組織の壊死の速度が遅くなる。

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