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21話

 21話


 9月の始めの頃、この町にある陶芸や煉瓦などの工房4つに断られる中、俺はポーション販売でコツコツとお金を貯めていく。


「はぁ、本当に、連続で断られると応えるなぁ……」

「トールくん、諦める必要も卑屈になる必要もありませんよ。ダメなら、別の町の可能性もありますから……とはいえ」


 定期的に商業ギルドの一室でゼファーさんと打ち合わせをするが、互いに表情は暗い。

 年齢が若いから、実績がないから、貴族の子どもだと邪推され、子どもだから研究費がないだろうなどと思われて断られ続けた。


「とりあえず、一つでも付け入る隙を潰さなくちゃ。今回の魔道具や魔法陣の確認をお願いします」

「はい。とは言え、私の役割ってトールくんの欲しい資料を取り寄せてできた魔道具を登録するだけですけどね」


 冒険者として稼いだお金で、商業ギルドのゼファーさんに頼み、取り寄せた魔道具の本や一般的な魔道具のサンプルを解析し、極限まで効率化している。

 これまで、着火棒や湧き水の水筒、ランタンなどの効率化が成功し、改良魔道具を【商業ギルド】に登録して、閲覧費や利用料を安く設定して公開した。


「既存の魔道具職人は、作る商品は変わらず、製作物の難易度が下がったり、効率化できた。それに安く公開したことで魔法文字や魔法陣の隠蔽に使った素材などの分、安くなる。どの魔道具もありふれた物ですけど、実績としては十分以上ですよ!」


 ゼファーさんが絶賛した改良魔道具は、閲覧費と利用料が安いために登録してから商業ギルドの口座にお金が貯まっていく。

 どうやら新規参入の魔道具職人が一番安いからとレシピを閲覧して、販売。

 他の魔道具よりも質が良く、昔からの魔道具職人もそのレシピや実物を購入して解析するなどの流れが少しずつ広まっているようだ。

 改良魔道具が俺の実績として完全に定着するまでには、あと数年の時間が必要そうだ。


「ゼファーさん。俺、もう別に【熱量交換の魔道具】を売りに出さなくてもいいような気がするんですよね。なんて言うか、先生の名前を登録して残すことができたし、もう満足かな、って」

「トールくん! 私の頭の中には、アレが売れるビジョンがあるんです! 諦めないでください! それに商業ギルドが金の卵を産む鶏を逃がすとお思いですか!?」


 もはや、ゼファーさんに取り繕う必要無く、一人称を俺に戻しているし、ゼファーさんも俺を金の卵を産む鶏扱いしている。

 確か、童話だと金の卵を産む鶏は、腹を割かれて死ぬんだったか、などと冗談を口にするほど、一つの逆境で協力関係が強固になった気がする。


 そして、今日も魔道具や魔法陣の相談をしているが、暗い雰囲気のままではあまりいいアイディアは湧かない。


「今日は、これくらいにしましょうか。最後の工房の訪問は、またいつものように連絡します」

「わかりました」


 そうして、その日の打ち合わせを終えて宿屋に帰り、夕食の準備をしていると、アランたちも帰ってくる。


「トール、ただいま! やったぜ!」

「アラン、ルコ、ノーマン、おかえり。なにか良いことあったの?」


 いつも通り、今日の狩りのホーン・ラビットを手に持って帰ってきたアランたちだが、三人の表情はとても嬉しそうだ。

「俺たち、Eランクに上がったんだ!」

「おめでとう。毎日、午前と午後に、食肉用の魔物を狩ってたからね」

「ああ、それに三人ともレベルが10に上がったんだよ!」

「……それに戦闘スキルだって上がってる」


 三人とも嬉しそうに報告してくる。

 だが、EランクからDランクに上がるまでが冒険者としての一つの分水嶺だ。

 Eランクまでは、狩人の延長線上であるが、Dランクからは本格的に魔物の相手をしなくてはならず、レベルやスキルも相応に要求される。

 とはいえ、久しぶりに俺の周りにある景気のいい話題に、今は三人のEランク昇格を喜ぶ。


 夜になり、ライナスさんも食事に現れたことでいつもの食事の風景になる。

 そして、夕食の時、ライナスさんもアランたちのEランク昇格を聞き及んでいたのか、年長者からの忠告が入る。


「それで、Eランクになったからってお前らだけで、森に入ってゴブリン討伐に行こうって無茶はするなよ」

「俺たちだってそんなの無茶だって分かってるさ。どうせ15歳までDランクには上がれないんだから、慌てる必要なんか無いし。ただ、ちょっと森寄りの場所で今後狩りをしてたまに森から出てくるはぐれゴブリンを倒す程度にしよう、って決めてるんだ」

「まぁ、それくらい考えているなら大丈夫だろう。それに先輩冒険者に稽古を付けてもらっているから焦らなければ、成長するだろうな」


 アランの方針を聞いたライナスさんは、納得する。

 そして、そんなアランたちにライナスさんが一つの依頼を勧める。


「そろそろ、時期だからな。今、【ゴブリン集落の壊滅】の依頼があるから受けてみないか?」

「あー、そういえば、そういう時期ですね」


 ライナスさんの勧める依頼に、秋であることを実感して、俺が呟く。


「ライナスさん、さっき、無茶をしないように言うのに、なんでゴブリン退治の依頼を勧めるの? それに、集落なんて無理……」


 不安そうなルコの言葉に、ライナスさんは、三人に勧めた理由を説明する。


「なにもお前たちにゴブリン退治を任せるつもりじゃない。【ゴブリン集落の壊滅】の依頼は、冒険者を大勢集めて近くの森からゴブリンたちを殲滅するのが目的なんだ」

「ゴブリンは、冬の寒さと飢えで簡単に死ぬんだ。だけど、集落があると生き延びる可能性が高まるし、何より、ゴブリン同士が共食いして生き延びてまた、集落の中で新たなゴブリンが生まれて春まで生き延びるんだ」

「そうした異常な状況だと、上位種や変異種が生まれやすい。だから、そうなる前に冬の前にゴブリンの集落を潰すのが冒険者ギルドとしての通例になっているんだ」


 この依頼は、どこのギルドでも秋に行なわれる風物詩のようなものだ。

 ギルドとしては利益はあまり出ないが、欠かせない仕事の一つだ。


「この依頼は、Eランク以上の冒険者が受けることができ、報酬の旨味は多くないが、地域の魔物被害の抑制って意味で評価される。それに新人には、是非とも受けてもらいたいんだ」

「受けてもらいたい?」

「Cランクの冒険者パーティーを中心に討伐するから、Eランクは基本、後方支援の雑用だ。参加人数が多いから食事の準備やギルドが用意した荷物の運搬とかな。それに依頼は、三日ほど掛けた泊まり掛けになる」

「つまり、報酬は安いけど、先輩冒険者からの指導や野営の訓練を受けることができるってことだね」


 毎年行なわれるゴブリン狩りを利用したギルドの新人講習のようなものだ。

 お金のあるギルドだったら、定期的に講習が行えるが、地方のギルドだと何らかの依頼に組み込んで後輩を育てていくしかないのが世知辛いところだ。


「まぁ、そんな依頼があるってことだ。毎年、飯が不味いって不満が出てるんだ。だから、考えてくれ」

「わかった。それじゃあ、トールは?」

「トールは、まだEランクに間に合いそうもないな。ギルドとしては、薬草採取と雑務依頼を消化して有りがたいが、やっぱり冒険者としての貢献度は、討伐関係の方が大きいからな」


 その分、俺の冒険者ランクの上がりが遅いために、俺は苦笑を浮かべる。


「俺は行けないけど、三人とも行くんだったら気をつけて行くんだよ」


 俺がそう言うと、アランは不満そうな表情を作るが、すぐに何かを思い至る。


「じゃあ、Eランクになったら、トールも野営訓練必要だろ! 全員で一度、野営訓練しねぇか!」

「トールさんは、採取とか得意だから、実地で教えてもらえると嬉しいな」

「……野営での料理のコツとか、知りたい」


 アランだけではなく、ルコとノーマンも俺と一緒に野営をしたいと言うようだ。


「わかった。俺がEランクになったら、宿裏の空き地でテントを張って、野営の訓練しようか」

「おいおい、あんまり目立つことするなよな。俺が管理責任を問われるんだぞ」


 俺がそう言って三人に約束すると呆れた様子のライナスの苦言に、みんながクスクスと笑い、その日も変わらぬ食事となる。


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