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20話

 20話


 夏の建国祭が終わったので、日常が戻ってくる。

 とは言っても、祭りで汚れた町を綺麗にするために、依頼掲示板に町の清掃関係の雑務依頼が大量に来る。

 俺は誰かに言われたわけでもなく、午前中は西の平原に向かって薬草採取。午後は町中の清掃依頼を受ける日々を過ごしていた。

 そして、町中の清掃が一段落着いたところで、俺の【熱量交換の魔道具】についての話し合いのために、ライナスさんに付き添ってもらい【商業ギルド】に赴く。


「ようこそ、トールくん。それにライナスさん。こちらへ」


 以前俺の話を聞いてくれた商業ギルドの事務員のゼファーさんが、応接室のソファーを勧めてくれる。

 また、呼び掛ける順番が俺からであることから前回と違い、今回は俺主体の話し合いなのだろう、と感じた。


「さて、以前申請して頂いた【熱量交換の魔道具及び、その魔法陣】に関しては、商業ギルド本部で検証した結果、類似品はなく、安全性や再現性も高いことから商業ギルドへの登録が認められました」

「ありがとうございます」

「つきましては、制作者のトールくんがいるこの町で作り上げて売り出してみたいと思います」


 やる気に満ちた表情のゼファーさんの言葉に俺は戸惑う。


「えっと……それはどういうことですか?」

「町の工房に相談して、小規模から【熱量交換の魔道具】の商品化を目指します。【商業ギルド】は、【熱量交換の魔道具】の製造をバックアップする代わりに、優先的に買い取りたいと思います」


【熱量交換の魔道具】の需要と有用性が認められれば、製造を任せた工房を拡大させるか、第二、第三の工房に製造を依頼して供給を上げていく計画らしい。

 または、【商業ギルド】が入札制度を利用して製造と販売の権利を売り、世に広く送り出すなど考えているようだ。


「なるほど……」

「本来は石材や建材関係の商会に話を持っていくのが一番なのですが、制作者のトールくんがまだ13歳のために、段階的に認知させようと思います」

「わかりました。それで引き受けてくれる工房というのは……」

「南地区にある煉瓦工房や陶芸工房が5軒ほどあります。彼らに相談して、引き受けてくださる工房にお願いしたいと思います」


 俺としては、とても好条件なことに喜ぶ。

 一度生産するシステムさえ構築してしまえば、登録された魔道具の製造で利用料が発生し、不労所得を継続的に得ることができる。


「わかりました。それで私は、何を協力すればいいんですか?」

「私が先方に面会を取り付けます。その時に同席して、魔道具のコンセプトや将来的な展望なども伝えて、意見交換をしてほしいのです」

「わかりました。事前の連絡は冒険者ギルドにお願いします」


 俺とゼファーさんのやり取りに、ライナスさんが口を挟む。


「なぁ、ゼファー。おまえさん、このトールの魔道具で商売できると思っているのか?」

「思っていますよ。特に魔法陣が地面と接する面の裏側なので、表面に陶器工房の色付けや絵付けで装飾してやれば、貴族向けの庭園の装飾建材として十分売りに出せます」

「それに、色合いが多彩なら、それで道に模様を描けますからね」


 チェック柄だったり、少しズラした丸い模様だったり、前世で見たことがある道路の装飾を伝えると、ライナスさんが呆れる。


「ほんと、よくそんなのをすぐに思い浮かぶな」

「さすがは【冒険者ギルド】と【調合ギルド】【商業ギルド】の三つを掛け持ちする天才少年ですね」

「……はぁ? 天才少年、って誰ですか?」


 俺が首を傾げると、更にライナスさんの目元が厳しくなる。


「全属性の魔法の才能があり、更に【調合】と【錬金術】でポーションを作れて、新しい魔道具を発明する13歳の子どもを天才と言わずに何と言う」

「あ、あはははっ……大げさだなぁ。俺はただの『のろま』な『弱腰』ですよ。本当に有望なのは、アランたちですよ」

「……お前、知らないだろ」


 呆れた様子で溜息を吐くライナスさんに俺が首を傾げる。


「アランたちは、確かにギルドで有望な新人だ。いや、有望な新人になった、だ」


 そう言うライナスさんは、一度言葉を句切って、俺を見つめる。


「アランたちだって、ギルドに来た時は毎年来る新人と同じだった。それが最初から異才を放っていたお前さんに触発されて、色々と学んでいい成長をしている。いわゆる、秀才だ」

「はぁ……」

「わかってなさそうだな。アランたちが有望な秀才ならお前は、有望な変人ってことだ」


 それは褒められているのだろうか、とまた逆の方向に首を傾げる。


「大抵、若い冒険者は早くランクを上げて金を稼ぐために討伐を優先する傾向があるが、それを真っ向から正反対に行くお前は周囲から見れば有望だがやっぱり変人だぞ」

「そうなんですか? でもどうせ15歳にならないとDランクに上がれずにEランクで足踏みするなら、慌てる必要ないじゃないですか」

「お前、そういう発想が出てくるから普通じゃないんだぞ」


 ライナスさんに苦言を言われ、ゼファーさんも苦笑いを浮かべている。


「まぁ、トールくんのことは置いておくとして、早速一つ目の工房に挨拶に向かいたいと思いますが、お時間よろしいでしょうか?」

「大丈夫ですけど、先方は……」

「ギルドと最も関わりが深いので、いつでも構わないということです」


 それなら、と話し合いを終える中、ライナスさんは俺をゼファーさんに預けて帰るようだ。


「あれ? ライナスさん、帰るんですか?」

「さすがに、最初はお前にも付き添いは必要だったからな。けど、本格的な商談になるんだ。そんな場所に冒険者ギルドの怖面の男がいたんじゃ、相手も話し辛いだろ」

「そうですよね。なんせ、冒険者ギルドの――『ン、ンッ!』――」


 ゼファーさんが何か言おうとライナスさんが咳払いする。

 俺は、冒険者ギルドの何だろうか、と首を傾げるが、困ったように笑うゼファーさんとジロリと睨み付けるライナスさんに、これ以上の話は聞けそうにない。

 とりあえず納得した俺は、ここまで付き添いの時間を割いてくれたライナスさんにお礼を言う。


「ライナスさん、ありがとうございます。いい話し合いができるように頑張ってきます」

「おう、行ってこい!」


 そう言って先に帰るライナスさんを見送った俺は、ゼファーさんと共に、このナボルの町の南側に位置する職人街にある最大の陶芸工房に訪れる。

 一般向けのツボや陶器の皿などを作り、陶器製の魔道具なんかも手がける工房の事務所に訪れると、受付の人が工房長を呼んでくれた。

 そして現れたのは、二の腕がガッシリと逞しい中年男性である。


「先日お願いした【熱量交換の魔道具】の件で、開発者である錬金術師のトール氏と共に伺いました。本日はよろしくお願いします」

「初めまして、トール・ライドと言います。本日はよろしくお願いします」


 俺とゼファーさんが丁寧に挨拶するが、目の前の工房長の男性は、表情を顰めてこちらを見ている。


「……ゼファーさん。わしは商業ギルドに世話になっている。だから、今回の話に興味を持ったが、正直ガッカリだよ」

「はぁ……?」


 俺の小さな呟き、ゼファーさんの横顔を見れば、失敗したという表情が見て取れる。


「そんな子どもが開発者で錬金術師……結構なことだが、どこの貴族の子どもが箔を付けるためにやっている? 貴族の子どもが商売を起こすために工房の助けを借りた結果、工房内がガタガタになることだってある。いくら貴族から金を積まれても今の生活を守らなきゃならねぇ。だから、帰ってくれ」

「ちょ、ちょっとお待ちを!」


 ゼファーさんが慌てて工房長の男性に手を伸ばすが、それより先に事務員の人が用意したお茶を一気に飲み干した工房長が、立ち去ってしまう。

 残された俺とゼファーさんは、唖然としつつ、互いに顔を見合わせる。


「……とりあえず、帰りましょうか」

「その、トールくん。すみません」

「気にしないでください。実績もない子どもがいきなり関係者として現れたんです」


 転生したために今が13歳の少年という自覚が薄かったかもしれない。

 年齢で侮られることもゼファーさんと最初に対面した時のことでよく分かっているはずだった。


「それにまだ工房がありますよね。ここがダメでも他のところの可能性がありますから」

「はい……」


 努めて明るく言う俺とは対照的に、ゼファーさんの声は沈んでいた。

 その日は宿に帰ると、思ったよりも早く戻ってきた俺をライナスさんが迎えて、事情を説明したら、まぁ気を落とすなと不器用に慰められた。


 なんとなく嫌な予感がしつつ、日々の薬草採取の依頼とポーションの作成、錬金術の資料の解読などをする。

 そして、工房に面会の約束が取れる度に、ゼファーさんと訪問する。

 その結果――他の三つの工房も全て断られ、気付けば9月に入っていた。



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