17話
17話
「石臼の魔道具を見たところ、回転速度に制限が掛かっていなかったようです。なので、想定よりも多くの魔力を込めたから馬の駆け足くらいの速さで暴走したんだと思います」
「あー、馬と同程度の速さで転がる石臼かぁ。そりゃ、危ないよな。その露店の店主と魔力を注いだ魔法使いに関しても事情を聞いているが、話の要領を得ないんだ」
俺は、迷子の男の子と共に衛兵の詰め所に来ていた。
男の子は大分落ち着いたのか、俺の隣に並んで座っており、衛兵の一人が買ってきてくれたジュースと俺が料理用に作った水飴を舐めて落ち着いている。
小さな甕に入った水飴を木製スプーンで空気を含ませつつ伸ばし、目の前で練れば、男の子は、キラキラとした表情で水飴を眺め、そして舐めて幸せそうな顔をする。
その一方俺は、衛兵のミグロ隊長と話をしていた。
「本来はとても有用な魔道具だと思いますよ。川辺の水車小屋や小高い丘の風車小屋などの場所的な制約が無くなりますし、重い石臼を回す労力を軽減してくれます。一定速度で混ぜる薬の攪拌にも使えます」
「なるほど、確かにそう聞くと、一概に危険物とは言えないよな。だが、君はなんでそんなことを知って……いや、確か【調合ギルド】に所属ってことは……」
「はい。少しだけ【錬金術】を嗜んでいるので、魔道具作りの【付与】は、少しだけ分かるんです」
そのために、錬金術師としての見解を伝える。
「多分、あの石臼の魔道具は、一般人の魔力量を想定して作られたんだと思います。そのために、今まで暴走を起こさずに普通に稼働できた。ただ、本職の魔法使いはその何倍もの魔力があるので、込める魔力量に比例して回転速度が増したんじゃないでしょうか?」
「なるほど、意図的ではないから両者とも要領を得なかったのか」
「はい。それに魔法使いの使う魔道具には、魔力を溜めておくための魔石などがあります。なので、普段の扱いから溜められると思って多めに魔力を注いだのも原因かも知れません」
俺がそう説明すると、ミグロ隊長が困ったように溜息を吐き出す。
「露天商人は、他の町の魔道具職人から仕入れた商品を持ってきたと言うし、魔法使いの女性も善意で魔力を補充していた。怪我人が出ているし、向かい側の露店の商品や民家の一部を破壊している」
「そこは、石臼の魔道具を持ち込んだ商人の賠償じゃないでしょうか?」
「そうだな。まぁ魔法使いに対しては厳重注意。露店商人は、被害の弁済だな」
ミグロ隊長は、そう呟くと書類に何かを書き込み、他の衛兵に指示を出す。
きっと、事態の後始末をしているのだろう。
「さて、トールくんだったか? 随分付き合わせてしまったね。この後は、どうする?」
ミグロ隊長に尋ねられて俺が帰る雰囲気を見せると、男の子は、服を掴んで引き留めようとする。
「えっと……とりあえず男の子が親御さんと合流するまで待ってます」
「悪いな。けど、そろそろ保護者を見つけられると思う」
軽く謝ってくるミグロ隊長の言う通り、しばらくすると一組の夫婦が衛兵の詰め所にやってくる。
「テリー! 勝手に行くなって言っただろ!」
「もう、心配したんだから!」
「パパ、ママ!」
子どもを迎えに来た夫婦が男の子・テリーくんを抱き留め、ミグロ隊長に頭を下げている。
「うちの息子がご迷惑をお掛けしました」
「いえ、こちらの少年が保護して、一緒に見てくれていたので、お礼は彼に」
そう言ってミグロ隊長が俺のことを説明するので、夫婦が俺にも頭を下げる。
「……お兄ちゃん、バイバイ」
「テリーくん、バイバイ。今度は迷子にならないように、お父さんとお母さんの言うこと聞くんだよ」
俺は、そう言って夫婦と迷子の子どもを見送る。
「悪いな。せっかくの祭りなのに、時間を取らせちまって」
「別にいいですよ。では、私は帰りますね」
「また何かあったら、衛兵に頼ってくれよな」
俺は、ミグロ隊長に挨拶をして宿屋に帰る。
昨日は帰ってそのまま悪徳商人から買ったガラクタの整理をしていたので、今日は宿に帰ると風呂を入れて、さっぱりとしてから宿の自室に戻る。
帰りに屋台で買い込んだ料理を食べながら、まだ未確認の道具を整理する。
「とりあえず、【マジックバッグ】からスキルを引き剥がすか――【錬成変化】!」
露店で見つけた使用者制限の付いた【マジックバッグ】からスキルを抽出する。
【マジックバッグ】に付けられた使用者制限の付与が引っ掛かりのように邪魔をしてスキルの抽出にMPを多く使う。
そして、スキルを抽出した直後、バッグが裂けて、その裂け目からバッグに収納されていた物が溢れ出す。
「うわっ!? これは!」
【マジックバッグ】が破損すると中の収納物が放出されるのか、と思いながら、押し出されるように溢れ始める道具を俺の手首のアイテムボックスに移し替えていく。
「あー、半分以上は、【マジックバッグ】内でダメになってるな」
生前の所有者は、冒険者だったのだろう。
収納物の食べ物や討伐した魔物の死体は、マジックバッグ内で時間経過して、腐るどころか水分が抜けてミイラ化していた。
これは後日、平原にでも運んで【錬成変化】で分解して土に返そうと心に決める。
だが、高価なマジックバッグ持ちだったためか、金貨80枚近くのお金が残っており、他にもダンジョン産らしき魔道具や鍛治師が作り出したスキル付きの武具などが入っていた。
「これは掘り出し物だな。とりあえず、使わないものは分解するか。――【錬成変化】!」
アイテムボックス内や露店で見つけた掘り出し物の魔道具、スキル付きの道具などからスキルを抽出する。
スキル珠――【耐久力強化Lv2】【短剣Lv1】【器用強化Lv2】【危機察知Lv1】【回復速度強化Lv1】【アイテムボックスLv1】【空間拡張Lv5】【感覚強化:視覚Lv1】【鑑定Lv1】【自己回復Lv1】【魔法耐性Lv2】【火耐性Lv2】【水耐性Lv2】
既存のスキルが多くある中、新規スキルのスキル珠が幾つか手に入った。
「【アイテムボックス】は、普段使っている背負い鞄に融合し直そう。【空間拡張】は、プラチナの腕輪の方かな?」
普段の背負い鞄がアイテムバッグとなり、見た目よりも多くの物が入るようになった。
左腕に付けられたプラチナの腕輪は【アイテムボックスLv2】のために100個の容量だったが、【空間拡張Lv5】のお陰で500個まで容量が拡大された。
続いて、【鑑定のメガネ】という片眼鏡の魔導具から手に入れた【感覚強化:視覚】のスキルは、そのまま俺の中に取り込んだ。
それにより、五感系スキルが全て揃ったことで【感覚強化】系スキルが統合され、【五感強化Lv1】に変わった。
「【自己回復】スキルはまぁ、取り込むかな」
以前、男神が用意したダンジョン最奥のオーガから【再生】スキルを抽出したことがあるが、それは大事な道具に融合したので、それより下位スキルであるが、こちらも自身に取り込む。
「あとは、耐性系も嬉しいな。基本、ダメージを負わない戦い方だから、習得する要素が無かったんだよなぁ」
一人ぼやきながら、三種の耐性スキルを取り込みながら、スキル珠を整理をする。
そして、ダブりのスキル珠に関しては、考えがある。
「えっと、露店で見つけた質のいいショートソードでいいよな。――【錬成変化】!」
【錬成変化】で鍛造で作られた武器を解析して、その造りを理解し、模倣品を作る。
そしてできあがったショートソードには、【耐久力強化Lv2】のスキル珠を融合して、露店で見つけた剣の鞘に挿す。
【身体強化】や武器スキルなどが付いていたら、アランたちが急に強くなりすぎて、自分の力を過信しそうだ。
だから、剣が頑丈になるように【耐久力強化】に止める。
「これでアラン用の武器は完成かな?」
続いて、調理や解体として使えるようにナイフを【錬成変化】で作り上げ、そこに【器用強化Lv2】を融合する。
「これはノーマンの分でいいな。最後に、ルコだけど……何がいいかな」
男の子っぽい装いをしているが、ルコは女の子だ。
ルコが好きそうで、それでいて有用そうな道具を考えたが、結局はいいアイディアが浮かばず、一人苦笑いを浮かべる。
「まぁ、ルコは、アランより魔力が多そうだから、魔法使いとしての道もあるよな」
ノーマンと同じナイフに、【危機察知Lv1】と【回復速度強化Lv1】を融合する。
身に着けていればなんとなく危ないと感じられるだろうし、体力や魔力の回復も少し早まるはずだ。
ショートソード1本とナイフ2本を作り上げた後、アイテムボックスに仕舞い込み、【錬成変化】でスキルを抽出した道具を金属素材に分解して収納する。
「さて、本命の呪いの装備といきますか」
俺は、悪徳商人から手に入れた呪いの装備に対して【光魔法】の浄化を試す。
俺のステータスには、【光魔法】スキルはないが、【生活魔法】でライトを使えるのでその素質がある。
負の情念を払うように、清浄な光を生み出し、呪いの装備に照射すると、【霊視】スキルで捉える黒い情念が俺に手を伸ばしてくる。
「くっ、ちょっとキツイかな」
浄化しようとする俺に対して、呪いが消されまいと呪いを振りまいてくる。
その結果、【呪い耐性】と【闇耐性】のスキルに経験値が入っているように感じる。
「ぐっ……これは、楽にはならないな」
【調合】で聖水を作ってそこに漬け込んだ方が良かっただろうか、と思いながら、呪いの装備を少しずつ浄化していく。
途中で何度も休憩を挟み、解呪の際に降りかかる呪いによる不調を自身の浄化で消し去る。
最初の一個の装飾品を浄化するのに、総MP量3000が必要だったが、二個目の途中から【光魔法】のスキルや【呪い耐性】のスキルが生えたので、浄化が楽になった。