5話
5話
異世界転生して、一週間が経った。
魔物を見つけては、積極的に狩り、経験値や【スキルの残滓】を集めていく。
そして、今日は――
「雨か。これじゃあ外に出れないな」
異世界での初めての雨である。
結構な勢いで降る雨を見上げて、小さく呟く。
「今日の狩りは、休みにして、家の整理や本でも読んで過ごすかな」
家の空き部屋には、森の中で拾った木の枝や石、魔物の素材などが置かれている。
他にも魔物討伐の際に解体して手に入れた肉を【錬成変化】で急速乾燥させた干し肉状態にしてあるので、それをしゃぶり、森の果実を齧って空腹と喉の乾きを癒やす。
「どうするかな。武器は、あるけど……やっぱり防具が貧弱だよなぁ」
家の壁に立てかけられたホーン・ラビットの角槍と調理用になっている鉄のナイフが俺の武器である。
「さて、地道にやるとするかな」
俺は立ち上がり、家の素材置き場で森で集めた石ころの前に座る。
石は、よく見ると薄らと茶色い層のようなものが見え、多分鉄分が混じっているのだと思う。
「こいつ、だよな。――【錬成変化】!」
俺は、【錬成変化】で石を分解し、それぞれの物質に再構成していく。
「うへっ、鉄は、本当に砂粒程度しか採れない。残ったやつは――スラグってやつかな」
鉄を溶かした際に残る鉄以外の鉱石成分の塊だったかな、と記憶を思い返す。
このスラグからケイ素などを抽出して、灰などを加えて再構成すれば、ガラスなどができるだろうか、などと考える。
そのうち、錬金術師としてポーションを作成するなら、ガラスは必要かもしれない。
「まぁ、現状は、ガラス製品は要らないかな。それより鉄だよ、鉄」
森で拾った石に【錬成変化】を使って鉄分を抽出していく。
「ふぅ、拾った石を全部使って、ピンポン球よりちょっと大きいくらいの鉄球か」
元々鉄の含有率が低いのか、砂粒ほどの鉄をかき集めて合体して大きくしていった。
「まぁ、地道に集めて、いつか剣や槍の穂先を作ろう。いや、それより先に刃毀れした調理用ナイフの補修用か、木材の伐採用に斧か鉈かな」
こんな異世界サバイバル生活では、鉄とは貴重なのだ。
手元に用意した紙に欲しい鉄製品をメモしながら、【錬成変化】で消費したMPの回復を待つ。
「まぁ、地道に鉄を集めていくかな。そういえば――魔石も合成できないかな」
使い道がなく倉庫に置かれている小さな魔石は、属性ごとに分けている。
だが正直、小さすぎて邪魔なそれらを合成して大きくすれば、管理がしやすいし、売るときに高く売れるんじゃないか、と考える。
「とりあえず、やってみるか」
種類毎に分けられた魔石の中から最も数が多いスライムの水属性の魔石を取り出す。
「――【錬成変化】!」
二つの小さな魔石を一つの魔石に作り替えるように錬成する。
だが、それは単純な融合ではなく、一方の魔石がもう一方の魔石を吸収し、僅かに成長する形で錬成された。
「……質量保存の法則は、どうなる? まぁ、魔石ってそういうものなんだろう。とりあえず、倉庫を整理するか」
同属性の魔石同士を錬成した後、鉄分を抜いた石は、使いやすいようにレンガ状に成形して保管する。
森で拾った木の枝から薪や木炭を錬成して、暖炉にくべて、雨で寒い家の中を温める。
雨が止むまでこの世界の常識を身に着けるために本を読んで過ごした。
そして、雨が降った日から数日後――
「……足元の地面を錬成して固めれば、水路ができないかな」
濡れた地面を見つめながら、そう呟く。
【錬成変化】で水を生み出す時、空気中の水分から抽出する。
だが、近くに多くの水が流れていれば、より扱い易くなる。
魔法や錬金術は、無から有を産むより、有から何かを作る方が楽なのだ
「風呂に入りたいな。そうなると、風呂釜も必要だし、排水用の水路とかも作らないと」
今はまだ構想段階だが、いつかは作ることを決意し、今日も魔物を倒し、【錬成変化】で得た【スキルの残滓】を取り込んでいく。
そして、今日の終わりにステータスを確認したところ、新たな変化が生まれていた。
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NAME:トール・ライド
年齢:12
JOB【見習い槍使い】
LV :2
HP :220/220(生命力)MP :39/44(魔力量)
STR :23(筋力) VIT :23(耐久力) DEX :22(器用) AGI :24(速度)
INT :22(知力、理解力) MGI :22(魔力) RMG :22(耐魔)
スキル
【採取Lv1】
【槍Lv1】
【跳躍Lv1】
【物理耐性Lv1】
【気配察知Lv1】
【気配遮断Lv1】
ユニークスキル
【錬成変化】
【成長因子】
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「あっ、ジョブが変わって、新しくスキルが増えてる」
ステータスのジョブ欄が【見習い槍使い】に変わっていた。
空いた時間に角槍を振り回していたために、【槍】スキルを手に入れ、ジョブが変わったようだ。
「とりあえず、一つずつ見るか」
ジョブのところを意識すると――【異邦人】【見習い槍使い】のジョブが表示される。
【異邦人】……異世界からの来訪者に贈られる称号。
【見習い槍使い】……槍を学び始めたばかりの人に贈られる称号。
ジョブとは、その人を表す称号や偉業を称えるもので、物によっては社会的な地位を保証してくれるものがあるらしい。
「えっと、次に取得した槍は、そのまんま槍の熟練度を表すのか」
スキルのレベルは、1から10まであるらしく、またスキルには、下級、中級、上位や派生、特殊など分かれている。
なので、【槍Lv1】は、本当に見習いと言えるだろう。
「それにしても今、戦ってる魔物たちから新しい【スキルの残滓】を取り入れてるのに、スキルレベルが上がらないのは、やっぱり、スキル経験値とかがたくさん必要なんだろうな。もっと頑張ろう」
コツコツと自身に取り込み、ステータスを上げれば、いいなぁ、と思っていた。