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12話

 12話


 Fランクになった俺は、午前は西門から出て薬草採取し、午後からは不人気な雑務依頼を受けに行ったりしている。

 最近では、アランたちに読み書き、計算を教える必要がなくなり、魔力を感じて、生活魔法を扱えたりしている。

 なのでアランたち三人は、今後は誰かにより本格的、専門的なことを教わっていく段階にいる。

 その話を聞いて、ライナスさんからギルドの教官の人たちに武器の扱いやサバイバル講習などを受けられることを聞いて、三人はそちらを受けるようになった。


 そして、俺は空いた時間に、町の色々な場所を見て回り、ついに古本屋を見つけた。


「ここが本屋。すみません、本を見させてもらってもいいですか?」

「いいけど、子どもが本を買えるのか? ここは古本でも高いぞ」


 本とは貴重な情報媒体である。

 一冊銀貨10枚以上もして知識によっては更に高くなる。

 他にも装丁や劣化防止の魔法陣などが刻まれている場合には更に高くなる。


「ありがとうございます。とりあえず、これだけあれば大丈夫ですか?」


 俺は、手元からダンジョン攻略時に見つけた金貨の入った革袋を見せると、店主は納得する。

 小綺麗にしており、お金も持っているとなると、どこかのお金持ちの子どもだと思われたのかもしれない。

 そして俺は、本の背表紙を確かめ、調合や錬金術などの技術書を手に取る。

 羊皮紙や魔物革で作られた本であるために、一ページが分厚く、ページ数の割に内容は薄い。

 一冊ずつ内容を【速読】スキルで流し読みしていけば、調合ギルドで買える教本と同じであるが、古い本であるために傷みがあるが、内容的に問題ない。

 ただ実際に使っていた調合師の書き殴りのメモなどが残されているので、実地的な価値があるように思える。

 また【錬金術】の本は、錬金術とはなんたるか、という内容で特に得られる物はないが、最後のページに使用頻度の高い魔法文字の対比表と数種類の魔法陣のサンプルの【付与】が描かれていた。

 また魔道具作りの本も見つけ、それも購入するほか、背表紙やページが欠落した本、意味の分からない研究の走り書きなどの紙束が纏められた場所も確認した。

 その中には――


「これは……」

「うん? その紙束かい? 何かの研究の暗号だと思うんだけど、誰も解読できないんだ。だけど裏は綺麗な紙だから、メモ帳代わりの紙の値段さ」


 所々に紙の欠落はあり、男神様から貰った翻訳能力で読んでも支離滅裂な内容だ。

 暗号化されている内容には、男神の翻訳能力は役に立たないようだ。

 だが、もう一方の研究対象である魔法陣や魔法文字なら解読できる。

 魔法陣を分解して単語として抜き出した魔法文字こそが俺にとっては大きな価値がある。


「この調合の教本と錬金術の本、魔道具の本と、この紙束をください」

「なら、金貨5枚だな。お前さん、これは技術書だけど、ホントに必要なのかい?」

「私は、錬金術を学びたいんです。将来的にはその技能を使っていきたいと思います」

「はぁ、そうかい。それなら、こいつはどうだい?」


 本の代金を支払いながら話す俺に古本やの店主は、奥から一冊の鍵付きの本を取り出す。


「だいたい、何かを研究する奴は、それを書き残す白紙の本が必要だ。こいつもオマケでやるよ」

「いいんですか?」

「いいもなにも、売れ残りだよ。貴族や商人が使う日記にしては装丁が悪いし、研究に使うには保護の魔法陣もないし、子どもの学習用には重すぎる」

「ありがとうございます! また来ます!」

「期待しないで待ってるよ」


 そう言って、俺は本を手に取り、宿屋の自室に引き籠もり、先程購入した紙束の資料に目を通す。


 俺が教わったことがある魔法文字は、ティエリア先生が知っている基本的な魔法文字だが、この紙束の資料の持ち主は、未確認の魔法文字の研究していたのではないかと思う。

 未確認の魔法文字を既存の魔道具に使われる魔法文字の一部と置き換えることで発揮した効果から単語の意味を類推するという手法で研究していたようだ。

 だが、魔道具作りとしては、単語を置き換えた後に、魔力を定着させるための溶液の種類や質によっても結果が変わる。

 本来適さない属性で魔力を定着させたり、魔法文字の意味が通じなければ、不発に終わる。


 またよしんば単語の置き換えに成功して意味が類推できても、それで魔道具が効率的にならない場合が多いために、完全に趣味のような研究だったんだろう。


「けど、単語だけ見れば、かなり良い資料だ」


 俺は、錬金術や魔道具作りの本や紙束の魔法文字を抜き出し、森から持ち出した白紙の本に単語の対比表を作る。

 そして、それらを書き出しているうちに、研究資料の単語の中で『地下』を表す単語を見つけた。


「あっ、この単語。【熱量交換の粘土板】の改良に使えるかも」


 俺は、その資料の前後の単語を確かめると、どうやら地中を揺らして限定的に地震を引き起こすような魔法や魔道具に使われたのではないか、と思う。


「とりあえず、今はこの対比表を作るかな」


 俺は、本にそれらの文字を書き写しながら魔道具の教本に描かれている魔道具の改良点も幾つか見つける。


「ふぅ……結構、文字が多いな。けど、これでできることが増えるかな」


 俺は、自作の魔法文字の対比表をみながら、今後も魔法文字の対比表を増やしていき、いつかはティエリア先生の蘇生の足掛かりとなる魔道具を作ることを夢想する。


「これがその第一歩ですね。先生」


 俺は、首に掛かる世界樹を模したネックレスを掴み呟く。

 そして気がつくと既に夕方になっており、食事の時間が惜しいと思い【ライト】の魔法で部屋に明かりを付けて、そのまま先生と作り上げた【熱量交換の粘土板】を改良する。


 古本屋の店主から貰った鍵付きの本の方に、改良やその設計図を描き出し、改良点などを書き、実際に作り上げる。


「確か、フォレストアントの粘土は残ってたよな。それに土属性の魔石を混ぜて改めて粘土板に魔法陣を刻まないと。いや、その前に、より高性能かつ、持続する魔道具にしないと」


 そうして俺は、【熱量交換の粘土板】に刻む魔法陣を何度も紙に書き直して、必要な機能を描き入れる。

 以前使った文字をより効率的かつ適切な文字に置き換え、【錬成変化】でその魔法陣を解析する。

 最近では、【錬成変化】のユニークスキルの使用頻度に応じて、能力が拡張されている。

 現在では、解析した結果からのシミュレーションなどもできるようになった。

 試行錯誤による試作品を作ることなく、トライ&エラーを繰り返す。


「よし、この魔法陣で完璧だ。前の熱量交換と魔力の循環の他に【耐久度向上】と【余剰魔力吸収】の魔法陣を組み込んだから、魔道具としての寿命が飛躍的に延びた!」


 そして、一晩掛けて修正した魔法陣を完成させた俺は、できあがった魔法陣を粘土板に刻み、【錬成変化】で乾燥させた後、魔石を砕いて溶かした溶液を流し込んで、魔力を照射して定着させる。


「とりあえず、試作1号ができたな。【錬成変化】のシミュレーションのカタログスペックだけじゃ、実際の継続時間や使用感とか分からないな。馬車が通った程度じゃ壊れないと思うけど、大丈夫か?」


 俺が、コツコツと粘土板を叩いて問題ないか確かめる。

【魔力感知】で確かめても余計な魔力放出もなく、内部に魔力を循環させており、俺の微弱な魔力も吸っている。


「まぁ、こんなものかな? ただ、やっぱり野暮ったい外見かな」


 とりあえず、地面に設置した時、どのように作動するのか、宿屋の裏手に出て確かめる。

 粘土板を宿屋の裏手に設置しようと、宿の自室を出て一階に向かうと、ライナスさんと遭遇する。


「……トール。お前、そんな汚れた格好で何をやってるんだ?」

「あっ、ライナスさん、おはようございます?」


 俺が首を傾げながら挨拶をして、自分の姿を確かめる。

 手や服は、粘土板を作るために、汚れていた。


「昨日、夕飯にも顔を出さずに部屋に籠ってたからアランたちが心配していたぞ。それでその変なのはなんだ?」


 呆れたように溜息を吐き出すライナスさんに、夢中になっていたことに気付き、困ったように笑う。


「前から欲しかった【錬金術】の本を買って色々とやってたんです」

「やった成果がそれか?」

「はい。俺と先生が作った粘土板の改良をしてたんですよ」


 そう言って俺は、子どもが成果を報告するように粘土板を掲げると、胡乱げな目をしたライナスさんが見てくる。


「それじゃあ、俺はちょっと実験に――」

「おい待て、トール。何がどうなのか説明しろ。そして、そんな汚れた格好のまま宿を歩くな。せめて着替えろ」


 俺は、粘土板を持って宿の裏手に回ろうとするが、その前に服の襟をライナスさんに掴まれる。


「……わかりました」

「お前、普段は落ち着きのある大人びた子どもだと思ったら、変なところで子どもっぽいな」


 俺は指摘されて、粘土板を持って、宿の裏手の風呂を準備する。

 そして、風呂が入るまで庭に粘土板を設置して、その周囲の熱量の変化を観察しながら、徹夜明けの頭で気がつく。

 ライナスさんに心配されたんだろうな、と思いながら、遅れて押し寄せる眠気に抗いながら風呂に入って身を綺麗にする。


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