11話
11話
一日休んだ翌々日も朝から薬草採取の依頼を受けて、前回と同じ120株のキィール草を納品すると共に、5本ほどポーション瓶を買い足す。
そして、宿屋に帰ってきた俺は、自分の部屋に戻り、余分に取ってきた薬草を取り出す。
「久しぶりにやるか。――【錬成変化】!」
普段は、【調合】スキルによりじっくりと時間を掛けるが、【錬成変化】によって薬草から抽出した薬効成分と魔力と結合させ、水に溶かし込む。
そして、魔力で薬効成分を増強した最高品質のライフポーションを作り、瓶に詰める。
ライフポーション【回復薬】
体力回復の高品質なポーション。体力は、HP1000回復する。
「これがライフポーションの理論値か。それにしてもMPを一度に使うから疲れるな」
700を超えるMPを持つ俺でも、全ての作業工程を【錬成変化】に任せると、5本分作るだけでMPのほとんどを消費する。
【錬成変化】で作るポーションは、【錬金術】スキルでも同じように作れるので、実質【錬金術】で作ったと言える。
そして俺は、しばらくベッドで横になり、MPの自然回復を待つ。
MPが十分に回復したところで、背負い鞄に【調合】と【錬金術】で作ったライフポーションを5本ずつ持ち、宿屋を出て、ギルドに向かう。
ギルドの買い取りカウンターで先程納品した時に顔合わせしたリグルードさんを見つけて駆け寄る。
「すみません。リグルードさんは、今時間ありますか?」
「トールくん、どうしたんだい? もしかして前に言ったポーションのことかい?」
「はい。これがこの前言っていたポーションです。確かめてください」
俺は、【調合】と【錬金術】で作ったライフポーションを5本ずつ取り出し、リグルードさんが一つずつ手に取って確かめる。
「……なるほど。ライナスさんが余ったポーションを貰って飲んだら質がいいと言っていたが、予想以上に優秀だね」
そう微笑むリグルードさんは、10本のポーションのうち5本を分けておく。
その全てが【錬成変化】で作ったポーションである。
「ライナスさんから君が【錬金術】のスキルを生かしたいと言っていたことも聞いた。これは君の持つ【錬金術】スキルで作ったものかい?」
「はい。分かりましたか?」
「もちろん。ギルドで素材を扱うから【鑑定】スキルは鍛えられるんだよ。ただ、【調合】スキルによるポーション作りには理解はあるが、【錬金術】にはあまり詳しくないけど、どうして10本全部を【錬金術】で作った物を出さなかったんだい?」
リグルードさんは、微笑みながらもそう尋ねてくるので、それぞれのメリットとデメリットについて自分なりの考えを説明する。
【調合】スキルは、時間を掛けてゆっくりと作るのでMP消費量が緩やかであり、負担が少ない。
俺の場合だと、一度の調合でライフポーションを20~30本ほど作れる。
対する【錬金術】スキルは、作業工程をスキルによって短縮するので、早く作られ、劣化などが起きづらく高品質なものを作りやすいが、MPを多く消費するので、一度に作れる数が少ない、ことを伝える。
「だから、私の実力を知ってもらうために、通常の【調合】と高品質な小数生産の【錬金術】のポーションを出したんです」
「なるほどね。【調合】と【錬金術】の両方を扱える調合師が【調合ギルド】にも籍を置いてくれるのは、こちらとしてもありがたい。紹介状を書いてあげるよ」
そう言って、リグルードさんが奥に行って【調合ギルド】への紹介状を書いてくれる。
「はい。【調合ギルド】の受付に持っていけば、登録してくれるはずだよ。くれぐれも渡すまで封を開けちゃダメだからね」
俺が紹介状の表と裏を確認すると封筒に蝋封がされており、蝋に押された印は、調合ギルドの紋章らしい。
「あと相談なんだけど、登録した後に定期的に【錬金術】の高品質なライフポーションを売ってくれないかい?」
「構いませんけど、どうしてですか?」
「冒険者は、大怪我を負いやすい職業だからね。ギルドの方でも質の良いポーションは確保したいんだよ」
町中で暮らす一般人は、HP500回復する中品質のポーションを二、三回に分けて使うか、薄めて使えば十分である。
だが、レベルが上がりやすく、怪我のリスクが大きい冒険者には、高品質なポーションが求められる。
「この町の腕の良い調合師は、高品質なライフポーションよりハイライフポーションを作る方が利益になる。だが、ハイライフポーションはあるけど、過剰回復の怪我人もいる。私が欲しいのは、適正な回復を提供できるポーションだと思っている」
そのために、俺の【錬金術】による高品質なライフポーションは、都合が良いらしい。
それにハイライフポーションの値段は確か、銀貨30枚前後だと考えると、10倍の値段だ。
命の危機にあってハイポーションでの過剰治療が原因で多額の借金を負って、奴隷落ちする冒険者も珍しくない。
「なんと言うか、色々と大変ですね」
「君、それは子どもらしくない発言だよ。まぁ、気が向いた時でいいから頼むよ」
そう言って俺は、手渡された【調合ギルド】への紹介状を持って、冒険者ギルドを後にする。
【調合ギルド】は、町中の雑務依頼で配達などで立ち寄ったことがあるので、場所は知っており、カウンターの受付に話しかける。
「こんにちは」
「あら、よく配達しに来る子よね。今日も配達依頼かしら?」
また配達かと思われ、小首を傾げる受付の人に俺は、ギルドカードとリグルードさんからの紹介状を出す。
「冒険者ギルドにいるリグルードさんからの紹介状です。お願いします」
そういって俺が渡した紹介状を受付の女性が受け取り、少し待つように言われて紹介状を調合ギルド長に渡しに行く。
そして、しばらくして受付の女性がギルドカードを持って、戻ってきた。
「お待たせしました。おめでとうございます。調合ギルドの調合師として登録することができました」
「よかったです」
「【冒険者】ギルドとの掛け持ちとのことですが、【調合ギルド】の方の依頼は、どうされますか?」
「基本は、受けないですね。ただ、リグルードさんに【冒険者ギルド】の方でも売ってほしいと言われているので作ったポーションはそちらに卸すと思います」
「分かりました。調合ギルドには調合師のための薬草類や調合の教本、調合道具などが販売していますので、入り用の際には活用してくださいね」
「それじゃあ、早速拝見させてもらいますね」
そう言って俺は、ギルドに併設されている薬草の販売所を見る。
俺が森に居た頃に使っていた乾燥ハーブ類が並んでおり、それらを購入した。
そして、帰りに無事に調合ギルドの調合師として登録できたことをリグルードさんに伝え、【錬成変化】で作ったポーション5本を約束通りに売った。
1本銀貨5枚で販売する最高品質のライフポーションの買い取り価格は、銀貨3枚。
結果5本で銀貨15枚になり、劣化防止のポーション瓶の費用を一度で回収することができた。
財布代わりの革袋に詰めてギルドを出て、すぐにギルドに併設された宿に帰り、買った乾燥ハーブと塩を混ぜた調味料を作るのだった。