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7話

 7話


 アランに【生活魔法】を教えることになり、その第一回で俺は、こう宣言する。


「アランたちは、空いた時間に文字の勉強しようか」

「ううっ、分かった……」

「お願いします」

「……頼む」


 アランたち三人にスキルを教える日、それぞれの能力の習熟度などを尋ねた結果――アランたちは文字が読めず、書けるのは自分の名前だけだった。

 まず何かを覚えるには、読む、書く、計算の三つが基本だと思っている。

 なので、読み、書き、計算の三つの勉強をした後は、ご褒美として【生活魔法】を少しだけ教える。


 そうしてギルドの資料室にある語学習得の本の写しで三人に読み、書き、計算を教えた後、そう尋ねる。


「アランたちは、呪文を詠唱することで威力が安定する詠唱法と早く発動させる無詠唱や詠唱破棄の方法。どっちを学ぶ?」


 俺の場合には、ティエリア先生から教わったイメージ発動による詠唱破棄を主体として使っている。

 それぞれのメリット、デメリットを提示し、詠唱による魔法は、教えられないことを伝えた。


「その詠唱ってやつか? 村に居た頃、害獣の討伐に来た魔法使いがやってたやつだ。こう、火の精よ、我に力を貸したまえ――【ファイア・ボール】ってのを聞いて、子どもたちの間で流行ってたな」


 子どものごっこ遊びであったのか、と俺は、納得しつつ頷く。


「そんな感じの奴だね。俺は、その辺の呪文とか教わらずに、イメージが明確なら現象を起こせるし、自作もできるんだ。例えば――【ウォーター】」


 俺は、【水魔法】で空中に水球を作り上げ、【操水】スキルと併用して水の形を変形させていく。

 水球が、長く伸びて剣の形になり、次は盾、今度は矢、針などに変えてまた水球に戻す。


「イメージさえしっかりしていれば、形状も自由自在なんだって」

「はぁ、トールの先生って凄い人なんだな。そんな風に教えるなんて、お伽話の魔法使いみたい」


 まぁ、500年以上前のエルフの英雄だからあながち間違いではないかな、と苦笑いを浮かべる。

 その後、三人は、詠唱を使わない魔法の使用方法を教わることを選んだ。


「じゃあ、私たちもトールさんみたいに魔法が使えるの?」

「練習すれば使えると思うけど、まずは魔力を自覚しないとダメかな」


 自身の体内にある魔力を自覚し、それを【魔力操作】することができれば、理想的だ。


「……俺は、犬獣人だから魔法が苦手なんだ。俺もやる必要あるのか?」

「魔法は、魔力を自分の外に出して現象を起こすものだけど、逆に体内で効率良く動かすことができれば、【身体強化】になるんだよ」


 ティエリア先生から学んだ種族的な特徴としては、獣人族の中で魔法が苦手という人は、外部に魔力を放出するのが難しい体質なのだ。

 だが逆に、そうした人たちは体内に作用する魔法である【身体強化】を上手く扱える可能性がある。


「ノーマンの周りに、頑丈な人や怪我の治りが早い人、走るのが速い人って居なかった?」

「……うちの村の大人は大体、獣人族で身体に優れていた」

「それはね。その人たちが無意識に魔力を使って体を強化したり、怪我の治りを早めていたりするんだ。そして、それを上手く自覚して使うことができれば、もっと効率的に扱えるはずだよ」


 俺の言葉に神妙な表情で頷くノーマン。


「それじゃあ、魔力を感じるところから始めてみようか!」


 そう言って、俺たちは宿屋の縁側に座って深呼吸を繰り返し、腹の底の魔力を感じ取ることから始める。

 俺は、【魔力制御】スキルを習得するほど魔力の扱いに慣れているために、腹の底から心臓、手足の末端に魔力を巡らせ、循環させる。


 それに対して、アランたちは、目を瞑って表情を険しくしている。


「なぁ、トール。お前、俺たちを騙してないよな」

「騙してないよ。魔力を感じるまで時間が掛かるから頑張って」


 そう言って応援するが、三人は、魔力を感じようと無駄に力を入れる。

 アランは、無駄に力んでいるのか【鑑定】すると少ない魔力が見る見るうちに体外に放出されるのを見て笑ってしまう。

 逆に、放出が難しいノーマンの方が何かを感じ取れそう、というような雰囲気だ。


「だー! わかんねぇぇぇっ!」

「おっ、お前ら四人集まって何やってんだ? 今日は温かいから日向ぼっこでもしてんのか?」


 アランの声に顔を出したライナスさんにそう言われて、アランがふて腐れたように唇を尖らせる。


「違う! トールに魔法を教わってたんだよ!」

「魔法って、まぁ生活魔法程度なら数ヶ月やってればできるようになるかもな」


 そう言って子どもの戯れを見るように宿の方に戻っていく。


「クッソ! すぐに魔法を使えるようにして自慢してやる!」


 やる気になるアランだが、残念だが今は魔力が半分くらいまで減っている。


「はい。アランは、少し休憩。文字の勉強しようか」

「マジか……」


 がっくりと肩を落とすアランだが、簡単なメモ帳を渡す。

 依頼でよく使う単語とイラストを対比するメモ用紙と【錬成変化】で作った木の箱に砂を詰め文字を書く砂板を用意していた。


「はい。じゃあ、俺がここに文字を書くからそこに使われる単語を覚えようか」


 砂板に『荷物の運搬、場所、商業ギルド倉庫、報酬、銅貨50枚』とアランたちが頻繁に受ける依頼の一つを書き起こす。

 それぞれの単語と意味を説明し、実際に砂板に同じように書かせてみる。

 それから、冒険者ギルドの依頼で頻出する単語として『採取』『討伐』『護衛』『報酬』『期日』『手伝い』『○○本・個』『○○通り』などの単語を教え、俺が幾つかのパターンを組み替えてクイズ形式で出していく。


「えっと……その『キィール草』の『採取』の依頼だな。採取する数は『10本』依頼は、銅貨50枚? つまり、キィール草って薬草を10本集める依頼だな!」

「うん、正解。この依頼の対象の部分が固有の名前だったりするから分からない時は、メモしてギルドの資料室で調べると図鑑があるよ」

「そっか! 分かる単語があるとなんとなくでも意味が分かる!」


 嬉しそうにするアランだが、ここまでは学びの入口だ。

 次からは実際に自分で依頼を選び、その内容を受付のメリーさんに聞いて確認して少しずつ文字に慣れていけばいいと思う。

 それに分からない単語があれば、ギルドの資料室で自分で調べたりすることができるので、今後はもっと多くのことを自然と取り込むことができるだろう。


 それと内心、異世界転生の時に翻訳能力や言語能力を付与してくれた男神に感謝する。


 そして、一日目は、基礎学習をした合間に、【魔力制御】スキルを練習して魔力が自覚できなかった三人は、夕方に俺から料理を教わる。

 最初は、包丁の扱い方を教える。

 三人に俺が事前に錬金術で作ったナイフを渡し、包丁で指を切らないように少し指を丸める猫の手だと教える。

 野菜の皮を剥く時は、包丁を動かすのではなく野菜の方を動かして切ることを伝える。


 ノーマンは、元々【料理】スキルの習得を目指していたので、かなり真剣で皮を剥くが、厚切りになってしまっている。

 これは、回数をこなせばできるようになりそうだ。

 アランは、せっかちな性格のためか、すぐに皮がプチプチと短く切れてしまう。

 そしてルコは――


「あっ、痛っ!」

「大丈夫? ほら、手を貸して」


 焦って皮を剥こうと包丁の方を動かしたためにルコは、野菜の上を滑った包丁に自分の指を切ってしまう。

 俺は、すぐさま空中に水球を生み出し、ルコの指を綺麗に洗浄し、そのまま【回復魔法】を使う。


「あれ……痛くない。治った?」

「水属性の魔法が使えるから、合わせて簡単な【回復魔法】も使えるんだ。もしかしたら、水か光属性の適性があれば、使えるかもね」


 そう言って、妹のルコが指を怪我したのを心配して覗き込んだアランは、ルコと共に傷が塞がった指を不思議そうに眺めている。


「ほら、ルコは落ち着いて。もう一度慎重にやろうか。今度は俺が手を添えてあげるから」

「う、うん。やってみる」


 俺はルコの後ろに回り込み、ルコの手を添えて、ゆっくりと皮むきの見本を見せる。

 小柄で華奢なルコだから俺が後ろから腕を伸ばして手伝えるが、同じような体格のアランや大柄なノーマンではできなかったな、と小さく笑う。


「どう、感覚的にわかった?」

「う、うん。ありがとう……」


 俺が手を添えるとルコは、少し耳先が赤く俯き気味になりながらジャガイモの皮を剥く。

 最終的に、三人ともジャガイモを剥き、俺は、それをお湯で茹でて、火が通ったら、麺棒で潰して、水に浸けた生タマネギや茹でた角切りニンジンを混ぜて塩やハーブで味付けしたポテトサラダの一品になる。

 自分たちが皮剥きを手伝った料理は、いつもより美味しく感じたようだ。


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