5話
5話
そして食後――
「ふぅ、食った食った……これで銅貨3枚は安すぎる」
「私、もうあの食事に戻れないよ」
「……ありがとう」
「お粗末様です」
最終的に、少し余分に作ったスープもお替わりし、隣に建っている冒険者ギルドからお替わりの据えた堅焼きパンを持ってきて食べていた。
表情が明るいアランとルコ、服から外に出ている獣人の尻尾が揺れるノーマンを見て、俺も嬉しくなる。
「はぁ、さて、これからまた依頼に行くか。午後からは、町の外でFランクの採取を取りに行くんだよ。じゃないといつまで経ってもランクが上がりそうも無いからな」
そう言ってアランは、立ち上がるがルコとノーマンは、俺の方を真剣な表情で見つめている。
「あ、あの! 魔法、使えるんだよね!」
「あーうん。スキルとしては【生活魔法】と【火魔法】、【水魔法】【土魔法】があるよ。一応、全属性適性がある、って養い親の先生に言われたけどね」
俺は、そう答えると、俺が魔法が使えるのは魔法が得意なエルフから教わったのか、と納得している。
「じゃ、じゃあ! ……私にも魔法と料理を教えてください!」
「おい! ルコ、それはいくら何でも図々しいぞ!」
アランがルコを諫めるが、口数の少ないノーマンも言葉を出す。
「……俺は、トールに料理を教わりたい。獣人だから、魔力が少なくて魔法は見込みがない。だから、お腹いっぱい食べられるほど稼げないかもしれないけど、自分が美味しいものを作れれば、お腹いっぱい食べられる」
「ノーマンまで!」
若干悲鳴にも似たアランの叫びだが、俺としては一つの実験をしてみたい。
男神が俺に与えた【成長因子】は、俺に関わる人間に拡散して、人類の能力を底上げする。
なら、この三人と関わることで、他の冒険者とどのような差が生まれるか観察してみたい。
「いいよ。【生活魔法】や【料理】くらいなら教えてもいいよ。覚えれば便利だからね」
「トール、いいのか?」
「まぁ、最初の友達ってことでね。ただ、他の寒村の子たちまでは教えないから。俺が教えるのは、アランたち三人だけだぞ。何か教えるなら、アランたちが教えてあげてね」
そう言うと、アランは、何か考え込む。
「それなら、俺も【生活魔法】を教えてくれ。できることを多くして、こいつらを守れるようになりたい! 頼む!」
「了解。教えられることは教えるけど、今すぐには無理かな。今日は、普通に依頼を受けて、互いに予定を合わせよう」
「わ、わかった」
アランは、そう頷き、一週間の予定を話し合う。
Gランクの報酬だと1日1個か2個の依頼を受けないと生活が厳しい。
なので俺たちは、月、水、金曜日に一日中依頼を受けて、火、木、土曜日に午前中だけ依頼を受けて、午後に色々なスキルに関して学び、日曜日は完全に休みとした。
見習い冒険者でもちゃんと休む必要があると考えて、こうした日程になった。
そして、アランたちは三人で依頼を受け、俺は一人個別で雑務依頼を受ける。
各ギルドでスキル習得させやすいような常時依頼には、目星が付いた。
それらをやる意味は薄いために除外して、他に面白そうな依頼を探していくと何度も人の手に取られたり、貼り直されたのかボロボロの依頼書があった。
「これは、庭の草取りかぁ。確かに、人によっては敬遠されるかなぁ」
報酬の値段が銅貨30枚と他と比べて低めであるが妙に気になり、その依頼を受ける。
「メリーさん。この依頼をお願いします」
「はい、って、トールくん。この依頼を受けるの?」
「えっと、何か問題がありますか?」
「うーん。問題ってわけじゃないけど、この家の草むしりは一人だと一日掛かりだから、割が合わないことで有名なのよ」
この依頼は、一人当たりではなく決まった範囲の草取りの達成に掛かる報酬が銅貨30枚である。
一人なら報酬は総取りだが、二人だと依頼の報酬も半分になるから、不人気なのかと納得する。
「一応、草むしりする土魔法あるんですけど、ダメですか?」
「ダメじゃないわよ。でも、受けてやっぱりダメだった。ってなると困るから実際に実力を見せてくれる?」
そう言って俺は、メリーさんにギルド裏手の訓練場の端に案内された。
広い空き地で冒険者たちが走り込みや素振り、打ち合いをする場所には、雑草は疎らなのだが、端となると手入れがされていないために草が生えている。
「トールくん、お願い」
「わかりました。――【サンドムーブ】!」
普段は【錬成変化】で土自体を操作するが、今回は【土魔法】で土を小刻みに揺すり、草を浮き上がらせるという方法を取る。
それにより地表が揺れて草が押し出されていく。
「これでどうですか?」
「トールくん、魔力は大丈夫?」
「大丈夫ですよ。【土魔法】がレベル1で発動できる程度の魔法ですから」
俺はメリーさんに確認してもらった後、草取りの依頼を受け、依頼主の家まで行く。
依頼主は、町の外壁近くの一軒家に住んでいる歳を取った一人暮らしのお婆さんだった。
足腰が弱くなって草取りができず、子どもからの仕送りの中から依頼の報酬を払っているが、報酬が少なく大変らしい。
たまに、冒険者が受けに来たり、あまりに長く受ける人が居ないと、ギルドの職員が依頼を消化しに来るらしい。
「ここに草取り向きの魔法を使っていいですか?」
「そんな便利な魔法があるの? ぜひ使って見せてほしいわ」
お婆さんは魔法が使えないのか、少しキラキラとした目をしていた。
俺は、草の生え放題の地面に対して、【サンドムーブ】を使い草を浮かび上がらせると、とても喜んでいた。
「あっ、集めた草はどうしますか?」
「一箇所に纏めてくれれば、私が乾いた時に燃やしちゃうわ」
「なら、魔法で乾燥させて燃やしちゃってもいいですか?」
「そこまでしてくれるの? 助かるわ」
そうして俺はお婆さんの家の箒を借りて、サンドムーブで浮き上がった雑草を掃いて集め、【錬金術】で水分を抽出して乾燥させ、【生活魔法】のトーチで着火して燃やす。
最後の後始末で焚火に水を掛けて鎮火し、時間としては1時間で終わった。
「まぁ終わったのね、ありがとう。他の人よりも凄く綺麗になったから次からはまた頼もうかしら」
「その時はよろしくお願いします」
そして俺は、依頼主のサインを貰い、ギルドに戻る。
その際、メリーさんに事前に【サンドムーブ】の魔法を見せていたので短時間で依頼が終わったことに納得してくれた。
依頼は銅貨30枚と安いが、俺にとっては楽に終わる割のいい仕事だった。
「案外、草取り依頼が向いているのかな」
「そう言えるのは、トールくんだけじゃないかしら?」
困ったように笑い、報酬を受け取り、まだ日が高いので、ギルドの資料室で色々な本を読ませてもらった。
魔物の本や解体の手引き書、生活魔法の教本、薬草事典などがとても重要な内容だった。
俺は肉などを全て【錬成変化】で分解していたが、こうした町で一般冒険者になるなら、【解体】スキルを持っているだけではなく、使えるようになる必要がありそうだ、と考える。
また、俺がティエリア先生に教わった【生活魔法】と本の内容だとかなり内容が乖離しており、呪文が重要であるように書かれていたのには少し納得がいかなかった。
「資料室は、あんまり本ないなぁ。錬金術についてのことは、調べられないか」
できれば死者蘇生やホムンクルスの製造法、オートマタのような自動人形の作り方が書かれた本に期待していたが、やはり無かったか、と落胆する。
そして、俺は宿に帰り、アイテムボックスや【空間魔法】の収納空間の食材が傷む前に放出し、夕食の準備をする。
夕食前の時間に宿の裏手で風呂を用意して身綺麗にしていると、依頼から疲れて帰ってきたアランたちに見つかり、交代で風呂に入ることになる。
そして、アランたち3人とライナスさんと共に、一食銅貨3枚で食事を振る舞い、その日は眠りに就く。
この世界に転生して、多分初めての友達ができたと思う。
前世では30代後半だったのに、何故かアランたちとテンションがあったのは、精神が肉体に引き摺られているのか、少し子どもっぽくなっているのかもしれない。
そう思いながら、眠りに就く。