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4話

 4話


 俺が商業ギルドの荷物運びを終え、依頼書に達成のサインを貰う。


「トールの坊主のスキル鍛錬にはならねぇけど、真面目だからまた依頼があったら来てくれよな!」


 ジョージさんにそう言われて、感謝されたことを嬉しく思いながら、ギルドに戻ろうとすると後ろから声を掛けられる。


「おい、お前、ちょっと待て!」

「うん? なんですか?」


 俺が振り返ると、リーダーっぽい少年と自信が無さそうな小柄な少年、体格は良いが無表情な獣人の少年の三人組が声を掛けてきた。


「えっと、一緒に荷物運びを受けてた……」

「俺は、アラン。この小さいのが妹のルコ。後ろの背が高い奴がノーマンだ。よろしく」


 自信の無さそうな小柄な少年は、見た目が背が低く小さいために性別が分かりづらかったが、女の子らしい。

 そして、表情が乏しい獣人の少年は、犬獣人らしい。


「私は、トールです。よろしく」

「そんな、他人行儀な言い方じゃなくていいさ。見たところ、同期だろ!」


 そう言って、馴れ馴れしく俺の背中を叩くアランだが、子どもの力なのでレベル上昇で鍛えられた体では痛くない。


「わかった。改めて、俺はトール。よろしくな」

「おう! 俺とルコは、カラの村の出身。ノーマンが隣村の出身なんだよ」


 俺は、大通りを歩きながらアランたちの話を聞いた。

 俺とアランとノーマンは、同じ13歳でアランの妹のルコが11歳と年下だ。

 ルコは年齢よりも小柄なように感じる。

 無口で大柄なノーマンは、獣人の性質からか年齢よりも少し高く見える。


「ところでトールは、どの辺の村の出身なんだ?」

「えっと……」


 俺は、自分が町に来て冒険者になった設定を話す。

 両親は居らず、森の中で一人で暮らすエルフの先生に育てられ、その人が亡くなったのでこの町まで出てきたことを話す。


「そっか。それでどうするんだ?」

「どうするって?」

「まだまだ駆け出しのGランクの俺たちだとできることは少ないし、一人だと何かと不安なことも多いんじゃないのか? なら、一緒に行動しないか!」

「ああ、パーティーのお誘いね」

「まぁ、そんなところだ。トールは、年上に対して丁寧な喋り方を分けて使えるから交渉役とか向いてそうだよな」


 そう言って笑うアランに、俺は感心する。

 アランは、少し馴れ馴れしいように感じるが、それで居て人をよく観察して、自分たちのパーティーに何が必要か考えているのかもしれない。

 それに俺がもし転生した直後だったら、アランの誘いに乗って、パーティーを組んでいたかもしれない。

 だけど、俺には、俺の目的がある。


「うーん、ごめんね。俺は冒険者として町に来たんじゃなくて、お金稼ぎの手段として冒険者になったからなぁ?」

「うん? それのどこが違うんだ?」

「例えば、冒険者として魔物を倒して、人々に感謝されたい、いい暮らしをしたい。ってアランたちは思ってない?」


 俺の言葉にアランが頷く一方、自信なさげなルコは少し不安そうにアランを見ている。


「俺の場合は、冒険者の依頼でお金を稼いで、やりたいことがあるんだ」

「やりたいこと?」

「うん。俺には、幸い【錬金術】のスキルがあるから錬金術師として色々な物を作りたい、って気持ち」


 俺の説明によく分からないアランに苦笑いを浮かべるが、大柄なノーマンは、ずっと相槌を打っていたが、彼なりに自分の考えがあったようだ。


「……俺は、お腹一杯ご飯が食べられるようになりたい」

「それは、大事だね」


 俺の話を聞いて、頷いていたノーマンの一言に、アランの腹がググッと鳴り、はっとお腹を押さえている。


「お、おい、ノーマンが飯の話したから腹の虫が鳴っただろ!」

「……ご、ごめん」

「くっそぅ……ギルドで一番安い飯しか食ってねぇからやっぱり腹が減る」


 そう言って今朝食べた食事を思い出すと確かに、あれだけだとお腹が空く。

 荷物運びの依頼は午前中に終わり、少し昼飯前だ。


「早く帰って飯を食おうぜ」

「うーん。その前に寄りたいところがあるけどいいかな?」

「なんだ?」

「この辺りで野菜とか売っている場所を知らない?」


 俺が聞くと、アランは首を傾げるが、ルコは覚えているのか、自信なさげに場所を教えてくれる。


「あの、あっちの通りに八百屋があったよ」

「ありがとう」

「なんだ、何しに行くんだ?」

「とりあえず野菜の値段を調査かな。俺もギルドの安い食事は食べたけど、アレにお金を掛けるくらいなら自炊した方がマシだと思ってね」


 そう言うとアランたちは、驚いているようだ。

 俺は、苦笑を浮かべながら八百屋に行き、何種類か野菜を買う。

 そのついでに通りで売っている屋台の串焼きやスープの値段を確かめれば、銅貨5枚から7枚前後、魔物の肉などを使う場合には銅貨10枚を超える場合があるのを確認する。


「なるほど。屋台は、ちょっと割高なのか」


 ギルドがギリギリまで販売価格を抑えているのか、屋台が手早く食べられることを売りにして割高にしているのか。前世のコンビニ価格というものを思い出す。

 そして四人でギルドに帰ってくると、受付のメリーさんに報告する。


「メリーさん。依頼が終わったので報告しに来ました」

「あら、トールくん、お帰りなさい。それにアランくんたちも一緒だったのね」


 そう言って、俺たちから一人ずつ依頼の達成を報告する。

 その際に、アランの耳がほんの少し赤く、緊張しているように言葉がつっかえているところを見る。

 そして、そんなアランに対して妹のルコが不機嫌そうに小突く。

 もしかしたらアランは、年上のメリーさんに憧れというか淡い恋心でも抱いているのかもしれない。


「はい、四人ともお疲れ様でした。報酬の銅貨50枚です。この調子で頑張ってFランクを目指してくださいね」

「「「はい!」」」


 俺たちが返事をすると、俺はそのまま宿屋に戻り、厨房を使おうと歩き出すと、何故かアランたちは、ギルドの食堂の方に行こうとする。


「あれ、アランたち、どうしてそっちに行くの?」

「はぁ? だって、お前は自分で料理作るんだろ? それで俺たちは、あの安くて不味い飯を食う」

「いや、俺が作って一緒に食べるものかと思ってた」

「そりゃ悪いだろ。せっかく金が手に入ったんだし、もう一段階いい飯食うよ」


 そう言って、遠慮するアランだが、ルコとノーマンは、安い食事がどんなのか想像してげんなり顔になっている。

 なんと言うか、お腹いっぱい食べたいというノーマンの言葉を思い出し、ひもじい思いをするのは寂しくと思ってしまう。


「じゃあ、こうするか。アランたちは、一人一食銅貨3枚を俺に払う。その代わり俺が一緒に四人分の飯を作る、ってのは」

「いいのか?」

「一人分作ると逆に割高になるんだよ。大勢分作れば、その分安くなる。あっ、でも主食ないからパンだけ買っていこうか」


 そう言って俺は、ギルドの保存食の堅焼きパンを頼むと、ライナスさんからの伝言があるのか、パンをタダで貰え、そのパンを抱えて宿屋に戻る。


「おう、トール。初めての依頼は、どうだった?」

「ライナスさん、ただいま。ちゃんと達成できたよ。それと、アランたちと食事するからまた厨房を借りるよ」

「友達ができたみたいだな。俺は、これから他の仕事があって別の奴がここに座ってるけど、悪さしなけりゃ自由にしていいぞ」


 俺は、宿屋のライナスさんに挨拶して、厨房に入る。

 買った野菜をテーブルに置いて、アイテムボックスから保存食として作ったフォレストボアの干し肉や調味料、調理器具なども取り出す。


「おい、それどこから取り出したんだよ」

「うん? さっき言ったエルフの先生の遺産かな? これがあるからちょっと楽かな」


 そう言って、腕輪を見せて軽く叩くと、へぇ、と感心される。

 そして【生活魔法】で竈に火を熾し、鍋に水を入れて、簡単な干し肉の塩気で作る野菜炒めと八百屋で買った沢山の野菜スープを作る。

 塩と森のハーブ類を使ったので香りが良く、野菜スープは、キャベツやニンジン、ジャガイモ、タマネギなどを細かく刻んで軽く炒め、味出しの干し肉を細かく入れて、森のハーブで味を整えた。

 固形コンソメの素やバターがあれば、もっと美味しくなるのになぁ、と思いながら、スープの灰汁を捨てて、コトコトと煮込んでいく。


「うー、この匂いだけで腹が減る~、トール、まだか~」

「そうだね。お腹が空いてくる匂いだね。でも、この匂いだけで黒パンを食べるのは」

「……美味しい物のために待つ」


 成長期の子どもには少し辛いな、と思いながら苦笑いを浮かべる。

 それと無表情のノーマンだが、鼻をヒクヒクとさせ、頭頂部に生える三角形の犬耳がピクピクと忙しなく動いている

 今度は、もっと手軽にスープを作れるように野菜を煮込んだブイヨンを【錬金術】で粉末状に加工して持ち歩こうか、などと考えながら、料理を続ける。


「はい。パンに野菜炒め、スープだよ」

「「「いただきます!」」」


 俺が用意した料理を配ると、早速齧りつく三人を見て、本当にお腹が空いてたんだなぁ、と少し驚く。

 そして、俺も自分の分を食べつつ、勢いよく食べる三人が喉をつっかえないようにコップに生活魔法で水を注ぐ。


「うめー! うめーよ! 久しぶりに美味いもの食べた! それに肉も入ってるぞ!」

「本当に、美味しいね。塩だよ、しょっぱい! でも甘くて、美味しい!」

「…………」


 喜んでくれて良かった、と思いながら俺もパンをスープに浸して食べる。

 三人に食べさせるために手早く作ったけど、もう少し弱火で煮詰めて旨味を出したいなぁ、とか、自分の満足する水準まで料理を作るのは大変だなぁ、と考えてしまう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「おい、お前、ちょっと待て!」「うん? なんですか?」 パーティーに誘うのに、この呼びかけは、とても横柄に感じるね。村育ちで言葉遣いが、まだまだにしても、村の年配者に、こんな風には呼びかけ…
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