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1話

 1話


 俺は、異世界に転生された森を抜けて、南の方向に旅立つ。

 廃村の脇を流れる川に沿って、町を目指していく。

 廃村は、50年前まで冒険者が入植した開拓村だったらしいので、冒険者ギルドがある大きな町との距離は、大きく離れていないと思う。

 昼間は、川に沿って進み、夜は川辺を整地した場所で、【土魔法】と【錬成変化】を使って四方を土壁で囲まれた小屋を建て、その中で寝泊まりした。


「大きな都市は、まだ見えないのかよ」


 川に沿って進めば、小さな村が近くにあり、人々が生活している様子が窺えた。

 そんな川沿いの旅は、川辺の魚や魔物を狩って、食料としてする日々が1週間ほど続いていた。

 幾つかの川が合流し、太くなり始めた頃、川に掛かる橋と大きな街道を見つけた。


「おっ、橋と大きな街道があるな!」


 俺は、橋に駆け寄ると、目の前には左右に続く街道が広がっていた。


「ここからじゃあ、町は見えないか」


 右に進むか、左に進むか、俺は腕を組んで悩み、アイテムボックスの中から短槍を取り出す。


「神様頼りで決めるか」


 道の真ん中に槍を立てて、手を離す。

 ゆっくりと倒れる槍先は――右に倒れる。


「よし、右に進むか」


 今度は川ではなく右の街道に沿って進むと徐々に西から西南寄りに街道がカーブしていく。

 一人徒歩で歩いていると、街道を逸れた小さな道から商人の荷馬車らしき物が現れて、進んでいく。


「街道に繋がる農村から来た行商人かな」


 そうした行商人たちの様子を何度か目にしながら進んでいくと俺は、一つの都市に辿り着く。


「やっと町に辿り着いた。けど――」


 町の城壁を見上げ、その前に並ぶ人の列を目にする。

 人の列と荷馬車などの商人の列などに分かれており、俺と似たような背格好の子供が人の列に並んでいるのを見る。

 なので俺もそちらの列の最後尾に並び、人の話に耳を傾ける。


『俺たち、ちゃんとやっていけるかな?』

『大丈夫だろ! 冒険者になれば、食っていけるだろ! いっぱい稼いで、村の親父たちを楽させようぜ!』

『そ、そうだな!』


 冒険者志望の子供たちの話を耳にすることができた。

 どうやら、この地域は寒村が多く、村の畑を継げない子どもの一部は、口減らしも兼ねて、この町に冒険者としてやってくるようだ。

 ただ、ここに来るまで街道で俺と同じような子どもを見なかったな、と思えば、後方から新たに来る行商人の荷馬車から新しい子どもが降りてくるのを見る。

 どうやら、行商人の荷馬車に乗せてもらって来たようだ。

 俺は、周囲の話と状況を観察していると、どんどんと人の列が消化されていき、そして俺の順番が回ってくる。


「次、身分証明するものは?」

「ありません。冒険者ギルドで発行してもらう予定です」

「また、寒村の口減らしか。世知辛くはあるけど、頑張ってね。通行料は、銅貨10枚は規則だからね」

「これでお願いします」


 前の子どもたちのやり取りを見ていたために、ポケットに腕を突っ込み、先に手首のアイテムボックスから廃村で見つけた銅貨を取り出して渡す。

 一応綺麗に磨いたが、傷んだ銅貨を興味無さそうに受け取る門番が俺を町に通してくれる。


「ラウハルス王国の辺境・ナボルの町にようこそ。そこの大通りを進むと右手に冒険者ギルドがあるから。そこに行ってね」


 慣れたように助言を付け加える門番に見送られて、町中に入る。


「ここはラウハルス王国って場所か。ティエリア先生の授業では、500年前で国とかが変わってるだろうからって教わってなかったなぁ」


 それに、寒村の子どもたちは、精々、村と町くらいしか認識していないために、どこの国に所属しているか知らないかもしれない。

 そんな子どもたちに教えるために告げているのかなと思いながら、大通りを進む。


 俺は、門番の助言の通りに町中を進んでいくと、右手に冒険者ギルドの看板を見つけ、その中に入る。

 俺より先に町に入った子どもたちが受付カウンターのところに並んでいるので、俺もそこに大人しく並ぶ。

 酒場と併設されたような場所のために何人か冒険者が新人冒険者の子どもたちを観察するように見つめている。


「次の子、用件をお願いします」

「はい、冒険者になりに来ました。よろしくお願いします」


 俺の順番が回り、受付の女性にそう答えると、少し不思議そうに俺を見つめ返してくる。


「普通は、村の村長が紹介状を書いて持たせるものだけど、さっきの子たちと違う村なの?」

「あ、はい。えっと……私は……」


 俺は、そんなものがあるのか、と思いながら内心焦るが、受付の女性は、ふと微笑む。


「そんなに慌てなくていいわよ。確かに村長からの紹介状があれば、スムーズに冒険者登録できるけど、ない場合は幾つかの質問をするだけだから」

「はい、ありがとうございます」


 俺は、頭を下げて、受付の女性に勧められるまま座る。

 受付の女性は、亜麻色の髪と目をした優しそうな普通に美人な女性だ。


「まずは、何故冒険者になろうとするのか、その経緯を教えてください」

「えっと、先生に……私の養い親の人に冒険者になるように勧められたからです」


 それから事前に用意してた経歴を説明する。

 自分は、一人で森の中に隠居したエルフに拾われた子どもであること。

 そして、その養い親のエルフが亡くなり、こうして町に出てきたことを伝える。


「なので、エルフの先生の言い付けで、こうして冒険者になりに来ました」

「なるほど、隠居したエルフってことは、かなり高齢なのかしら?」

「昔話には、数百年前の話が出たりしました。ですけど、正確な年齢は分かりません」


 通常のエルフは、300年ほどの寿命を持ち、緩やかに歳を取る。

 長寿のエルフだと、500年ほど生きるが、上位種のハイエルフであるティエリア先生の場合は、寿命1000年以上あり、死ぬまで老いることはないらしい。


「数百年と言うと、かなり高齢のエルフなのね。事情は分かったわ。それでは、あなたの――えっとお名前は」

「トールです。トール・ライドと言います」

「ありがとうございます。私は、受付のメリーと申します。トールくんは、何か目的や目標はありますか?」


 そう聞かれると、少し困る。

 先程見た子どもたちは自分の村に仕送りしたいとか楽な生活をしたい、と答えるだろう。

 だが、俺には、故郷もないしサバイバル生活すれば、お金が無くても暮らせる。

 なら、男神に勧められて、ハーレムを作りたいなどと言えるはずもない。

 だから――


「養い親の先生から【錬金術】を学んだので、そうした技能を生かしたいです」

「そう、素敵な願いね。それが叶うように応援します。それじゃあ、ギルドの説明をするけどいいかしら?」

「メリーさん、よろしくお願いします」

「まずは、冒険者ギルドは、SからA、B、C、D、E、F、Gランクの8段階にランク分けされており、依頼も同じく8段階に分けられています」


 ここまでいいですか? と尋ねられるので、俺は頷く。

 事前にティエリア先生から聞いていたが、500年経ってもその部分は変わっていないようだ。


「冒険者は、全員Gランクから始まり、依頼は自身のランクの一つ上までしか受けることができません。最初は、Fランクの依頼を受けることができますが、オススメはしません」

「それは何故ですか?」

「大抵の新人は、冒険者ギルドに慣れていないので、まずGランクの雑務依頼で冒険者ギルドのシステムを学んでいただきます。そこで得た報酬で装備などを整えたりします」


 確かに、村から出てきた新人冒険者には、武器や防具などの持ち物がほとんどない。

 他にも技能職などに興味がある子どもがいた場合には、その段階で冒険者を辞めて、どこかの職人に弟子入りするなどといった猶予期間が設けられているようだ。


「なるほど、理由はわかりました」

「それでは、続きを。そうして依頼をこなして一定数の依頼を達成するとランクが上がっていき、より上の段階の依頼も受けられるようになります」


 他にもパーティーを組むとパーティーランクなどが別に設定されることや魔物を討伐した際の討伐証明部位以外にも有用部位を持ち帰れば、買い取りカウンターなどで買い取ってくれるらしい。


「それから、子どもはEランクまでしか上げられません。15歳からランク制限が解除され、ランクを上げられるようになっております」

「えっ? ランクって年齢制限があるんですか?」


 ティエリア先生から教えてもらった内容と今までほぼ違いは無かったが、ここに来て、初めてのことを聞いたので、戸惑う。


「はい。200年ほど前に登録したての冒険者が短期間の活躍でCランク、Bランクと駆け上がりました。また、それに夢見た若者が自身のレベルよりも格上の依頼を受けたりして、新人冒険者の死亡率が跳ね上がったので未成年者に対する制限を設けたのです」

「うわ……」


 俺は、その話を聞いて、少し引く。

 だが、冷静に考えると、短時間で活躍した冒険者は、俺と同じようなレベルやスキルの習得速度を上昇させる【成長因子】を持った転生者なのかもしれない。

 俺の現在のレベルは40あり、1年掛けてCランク相当の魔物のオーガをソロで倒した。

 俺の場合は、スローペースだと考えると、半年、1年でBランクまで活躍するのは、不可能ではない。


「その、元凶の冒険者は、どうなったんですか?」

「確か、たくさんの魔物の群れを撃退するために仲間と共に挑み、人々を守りましたが、その戦いで亡くなったはずです。現在では、英雄の地として聖地扱いされています」

「そう、ですか」


 ほぼ確定だと思いながら、受付のメリーさんに話の続きをお願いする。

 依頼の失敗にはペナルティーがあるとか、ギルドに不利益な行動をしないこと、とか冒険者ギルドカードを紛失した場合、再発行に銀貨が5枚必要などと教えてもらった。


「最後に、この魔道具に手を乗せてください。これでその人のステータスを読み取ります」


 俺は、勧められるまま魔道具に手を乗せると魔力が吸われる感覚を覚える。

 そして、一枚のカードが出てくる。


「それが冒険者のギルドカードです。ステータスが表示されるから隠したいスキルとかを非表示にできます。また、ギルドカードにスキルを表示しておけば、依頼を受ける際に優位に働く場合があります」


 俺は、ギルドカードを確認し、【偽装】スキルで本来のステータスを隠す。


 ―――――――――――――――――――


【ステータス】


 NAME:トール・ライド

 年齢:13

 JOB【錬金術師】

 LV 10

 HP :500/500(生命力)MP :100/100(魔力量)

 STR :80(筋力) VIT :70(耐久力) DEX :60(器用さ) AGI :90(速度)

 INT :70(知力、理解力) MGI :70(魔力) RMG :70(耐魔)


 武器スキル

【槍Lv3】

【体術Lv3】


 魔法スキル

【生活魔法Lv4】

【火魔法Lv1】

【水魔法Lv1】

【土魔法Lv1】

【回復魔法Lv1】

【魔力回復Lv2】

【魔力操作Lv2】


 強化スキル

【生命力強化Lv2】

【筋力強化Lv3】

【耐久力強化Lv1】

【器用強化Lv2】

【速度強化Lv3】


 耐性スキル

【病気耐性Lv1】


 生産スキル

【錬金術Lv3】

【料理Lv4】

【調合Lv3】


 技能スキル

【採取Lv3】

【狩猟Lv3】

【解体Lv1】

【罠師Lv1】

【鑑定Lv1】


 戦術スキル

【追跡Lv1】

【逃走Lv1】

【潜伏Lv1】

【奇襲Lv1】


 感知・隠密系スキル

【気配察知Lv2】

【気配遮断Lv2】

【危機察知Lv1】


その他スキル

【礼儀作法Lv2】


 ―――――――――――――――――――――


 ステータスは、比較的平均だが、森育ちの子どもで狩人生活をしていた感じにスキルを揃えてみた。

 また、エルフの先生から【生活魔法】や【錬金術】、【調合】を学んでいるという設定だ。

 俺は、その偽装したステータスを受付のメリーさんに驚かれる。


「あら? 色々とスキルを持っているのね。それにこのステータスなら、もうEランクの依頼もパーティーを組めば、簡単にこなせそうね」

「はい。先生と一緒なので自給自足の生活で、色々と狩りとか教えてもらい、その時レベルも上がりました」

「そう、いい先生ね。これだけのレベルとスキルがあるなら、依頼選びさえ間違えなければ、問題ないわね。期待の新人ね」


 そうニッコリと微笑まれた俺は、無事に冒険者になることができた。


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