33話
33話
『久しぶりだね。僕のこと覚えてる?』
「男神……いえ、創世神・アーライダ様、で合ってますよね。お久しぶりです」
俺がそう答えると、男神は、にっこりと微笑み頷く。
『君のことは時々見ていたよ。けど、まさか地縛霊となっていた僕の神霊を解放してくれるとは思わなかった。ありがとう』
「俺は……いえ、私は、やりたいことをやっただけです。それに、先生には色々お世話になっています」
『他人行儀に私じゃなくて、俺でいいよ。でも本当に、ティエリアのこと、ありがとうね』
互いに、そう挨拶をしたところで、男神が本題に入る。
『トールくんは気付いていると思うけど、このダンジョンは、君。いや、転生者たちを鍛えるために用意したものなんだ』
「まぁ、ドロップするアイテムとかが露骨でしたからね。けど、それだったら、ダンジョンから魔物が溢れ出るのは? 不要なんじゃ?」
『それは自然発生した元々のダンジョンに僕が干渉して作ったものだから、ダンジョンの魔物の放出機能は、そのままなんだよ』
ほら、無から作るより有る物を利用する方が神様的に楽だから、と茶目っ気を見せる。
「それじゃあ、ティエリア先生があの場所にいたのは、偶然ですか?」
『偶然だね。転生者を鍛える修練場の候補は幾つかあって、その一つが神霊・ティエリアが縛られた土地だった。君があの場所に転生し、【霊視】スキルを手に入れて、ティエリアを解放してくれた。全部偶然だけど、ここまで来ると必然だと思うよ』
そう言って、困ったように笑う男神に俺も困ったように笑う。
『まぁ、その話は置いておいて、君はこのダンジョンを攻略したことで世界に旅立っても生き残れるだろう一定の強さが認められた。その証として簡単な願いを一つだけ聞き届けようと思う』
男神は、もちろん、このダンジョンを無視して旅立ってもよかったんだよ、と言う。
つまり、このダンジョンはボーナスステージのようなものだったんだろう。
「その願いってのは、どんなものでも?」
『無茶苦茶な物じゃなければいいよ。僕が送り込んだ転生者へのちょっとした支援として、欲しいアイテムだったり、新しいユニークスキルくらいかな』
そう言われて、俺はしばしの間考える。
そして、答えが決まる。
「なら――――」
俺は、男神に願いを告げたところ驚かれ、そして大きく笑われた。
『あははははっ、まさか、欲しいのは、それかい!?』
「ええ、本気ですよ。だって、神様が直々にハーレム推奨してるんです。だから、欲しいんですよ」
『なるほどね。僕は、自由恋愛推奨派だから、トールくん自身がその道を切り開いて。でも、トールくんが欲しいものは、用意してあげるよ。はい――』
男神が掌に銀の粒を生み出しそれを力強く握ると、一つの銀細工が生まれていた。
太い幹の木と大きな葉っぱ、そして色のない雫型の宝珠が収まった銀細工のネックレスを俺に手渡してくる。
「エルフを象徴とする世界樹をモチーフとしつつ、宝珠は、イチジクの実をデザインしたよ」
俺は、男神から受け取ったネックレスを首に掛ける。
「ありがとうございます」
『うん。頑張ってね。ただ、失恋しても一生独り身でいいや、とか思わずにいい人見つけてね』
「縁起でもないこと言わないでください」
俺が男神にジト目を向けると、アハハハッと大きな声で笑う。
そして、徐々に男神の姿がぼやけ、俺は気付いたらダンジョンの入口に転移していた。
『トールくん、お帰りなさい』
「ティエリア先生、ただいま。今日、ダンジョンを攻略したよ」
『ええ、たった今、ダンジョンが崩壊していくのを見ているわ』
ダンジョンの入口が閉じ、そこには北側の山岳と同じ岩肌が現れている。
もうここには、ダンジョンは存在しない。
「それじゃあ、帰りましょうか?」
『ええ、そうね』
俺がこのダンジョンを攻略した時、男神――創世神アーライダと出会い、ティエリア先生を解放したことのお礼を言われたことなどを話した。
『そう。アーライダ様は、怒っていらっしゃらなかったのね』
「ううん。逆に、気に掛けていたよ」
『よかった……』
そう微笑むティエリア先生は、ダンジョンを攻略を喜んでくれたが、その日から互いの言葉数が少なくなる。
ダンジョンを攻略して男神に一定の強さを認められたために、春になったら旅立つ予定だ。
そして、ティエリア先生も俺を見届けた後、500年遅れて男神のところに向かうだろう。
互いに寂しくないわけがないが、表面上は普段通りに接して、最後の時を過ごす。
ダンジョンで見つけた劣化防止のポーション瓶に俺の作った高品質ポーションを詰め替えたり、森の家の【無限の塩瓶】から錬成した土甕に塩を移し替えたりした。
多分、俺一人なら一生使うには困らない塩の量を移し替えただろう。
他にも、五右衛門風呂の風呂釜を外したり、家にあった本やティエリア先生が書いてくれた本、俺が冬の間に書いていた魔道具のアイディアノート、【熱量交換の粘土板】などを収納空間に仕舞う。
そして、【空間魔法】の収納空間と【アイテムボックス】の腕輪に家の中の大事なものを移し、この一年で成長した俺は、装備などを一新していく。
特に、渾身の一品は、これである。
グレイプニルの鎖
VIT+300、RMG+300 スキル【地縛霊の鎖】【虚弱】【伸縮自在Lv1】【自己修復Lv3】
神霊すら縛り付けるユニークスキルを融合したミスリルの鎖だ。
【虚弱】というステータスを半減させるデメリットスキルを付与したことで、強固な捕縛力と対象を弱体化させるミスリルの鎖ができた。
また融合した【再生】スキルは、【自己修復】スキルに変化し、破壊されても少しずつ直る準アーティファクト級の捕縛具を錬成した。
ただ、感覚的に【再生】のスキル珠を融合した時、融合時のイメージが『道具が壊れても勝手に修復する』か『装着した人を再生する』で道具のスキルが変化したのかもしれない。
そして、旅立ちの日がやってきた。
「この一年、色々ありましたけど、無事に旅立つことができます。ありがとうございました」
『私こそ、お礼を言わなきゃいけないわ。地縛霊から解放してくれてありがとう。そして、トールくんの旅立ちを見送れて嬉しいわ』
互いに向かい合い、言葉を交わすのが照れくさい。
そんな中、ティエリア先生が先に口を開く。
『本当に、最初に見かけた時は、小さかったのに、一年もしないうちに大分背が伸びたんじゃないかしら?』
「そう、かな? 確かに12歳で転生して、そろそろ13歳かな?」
成長期の子どもの身長の伸びを考えると、7、8センチほど伸びたかもしれない。
『人間の成長がこれだけ早いのかと思って驚いたりもしたわ。もう、10年くらい成長を見守っていた気分よ』
確かに、エルフの子どもの成長を見守ることを考えたら、それくらいの成長密度だったかもしれない、と一人苦笑いを浮かべる。
『トールくんのお陰で大分魔力を補充してもらった。これでアーライダ様のもとに行けるわ』
俺は、旅立ちの前に、最後にティエリア先生に尋ねる。
「……先生、やっぱり一緒に旅立ちませんか?」
『ありがとう、でも、創世神の神霊なのに500年も遅刻してしまったわ』
「なら、今更遅れても大して変わらない! もう100年、人間の俺と一緒に居ませんか。俺が死んだら、一緒に謝りに行きますから」
困ったように微笑むティエリア先生に俺は告げる。
「先生。俺は、先生が好きです。先生と直接触れ合いたい!」
『私もトールくんが好きよ。でも、無理よ。私はもう、肉体のない神霊だもの』
「無理じゃない! 先生に【実体化】スキルを付与できれば、一時的に触れ合える! 神霊が憑依する依代にオートマタを作ってもいいし、ホムンクルスを作ってそこで受肉してもいい、錬金術を極めて肉体の蘇生を求めてもいい! だから、俺と一緒に生きてください!」
『ごめんなさいね。500年という長い時間を地縛霊として過ごした私を助けてくれたトールくんに惹かれているわ。でもそれと同じく、疲れたの。だから、一休みしたいの』
だから、アーライダ様の御許で休ませて、とぽつりと漏らすティリア先生の一言に俺は、首に掛けたネックレスを引っ張り出す。
「一休みできるなら、俺と一緒に居てくれるんですね」
『トールくん?』
「これは、ダンジョンを攻略した時、男神から褒美に貰ったアーティファクト――【微睡みの封印具】です。この中に入っていれば、ティエリア先生は、眠ることができます」
『えっ?』
この【微睡みの封印具】は、ティエリア先生のためのアーティファクトだ。
身に着けている俺が死ぬまでティエリア先生を封印し、創世神・アーライダ様の神域と同じ休息を与える封印のアーティファクトだ。
俺の余剰魔力を吸ってティエリア先生を回復させ、そして俺が封印を解くか死ぬまで封印を保持し続ける。
「俺が死ぬまで、俺の近くでゴロゴロ寝ませんか? この冬、全然休んでなかったじゃないですか」
『……トールくん』
「俺が死ぬまでか、それとも俺が先生を復活させるまで、ちょっと長めのお昼寝しませんか? 今度こそ、本当の休憩です」
『わかったわ。でも、もしトールくんが殺されちゃったりしたら、私また呪いを振りまいて地縛霊になってしまいそう』
「なら、死なないように強くなります。もし死んだら、【成長因子】がその場に残って聖域化するので、そこで一緒に楽しく幽霊ライフを送りましょう」
俺が冗談めかして言うと、先生の目から涙が流れる。
本当にティエリア先生は、よく泣く可愛い人だと思う。
『そうね、楽しそう。でもね、創世神様のお願いをちゃんとできないトールくんを私は、受け入れませんよ。ちゃんとパートナーを作って【成長因子】を広げること。もし封印から目覚めた時、トールくんが独り身だったら、私は怒りますからね』
「むぅ、そう言われると、ちょっと自信ないけど……善処します」
俺が困り顔を作るとティエリア先生は、目尻の涙を掬い、笑う。
『ふふっ、よろしい。でもおかしいわね、700年世界を見続けているのに、まだ生きようとするなんて』
「ティエリア先生は、地縛霊の500年は、ただ存在していただけですよ。エルフの200歳は、まだ若いじゃないですか。だから、生前の人生の続きをするだけです」
俺がそう言うティエリア先生は、確かにまだ世界を見足りないと呟き、再び旅することを想像する。
『それじゃあ、トールくん。少しの間、お休みなさい』
「先生、お疲れ様です。ゆっくりと休んで下さい」
ティエリア先生は、俺の胸元の封印具に吸い込まれ、徐々に封印具の空の宝珠がティエリア先生の髪の色である金色に色付く。
もう、ティエリア先生に声は届かず、声も聞こえないが、俺の胸元に確かにいることに安心感を覚える。
「さぁ、行こうか! 先生と再会するために」
なんで俺が男神に選ばれたのか分からなかった。
自分は、ハーレムなどハードルが高く、作ることのできない平凡な男だと。
だが、今なら分かる。俺は、欲深い男なんだと。
絶対に触れられないティエリア・シルヴァルウィという女性を自分の物にしたいと。
そして、彼女に嫌われないために、約束を守るために、強くなってハーレムを作る。
その目標を胸に、俺はこの異世界に旅立っていくのだった。
【ステータス】
NAME:トール・ライド
年齢:13
JOB【錬金術師】
LV 40
HP :2550/2550(生命力)MP :710/710(魔力量)
STR :358(筋力) VIT :310(耐久力) DEX :325(器用さ) AGI :388(速度)
INT :268(知力、理解力) MGI :301(魔力) RMG :249(耐魔)
武器スキル
【槍Lv7】
【剣Lv3】
【短剣Lv3】
【棍棒Lv3】
【斧Lv3】
【投擲Lv5】
【盾Lv3】
【弓Lv2】
【体術Lv4】
魔法スキル
【魔力回復Lv6】
【魔力制御Lv1】
【火魔法Lv2】
【水魔法Lv4】
【土魔法Lv2】
【生活魔法Lv7】
【魔力譲渡Lv8】
【回復魔法Lv1】
【空間魔法Lv3】
強化スキル
【刺突強化Lv7】
【斬撃強化Lv5】
【打撃強化Lv4】
【生命力強化Lv7】
【魔力量強化Lv4】
【筋力強化Lv7】
【耐久力強化Lv5】
【器用強化Lv5】
【速度強化Lv5】
【知力強化Lv3】
【魔力強化Lv3】
【耐魔強化Lv3】
【自己強化:身体Lv3】
【感覚強化:嗅覚Lv5】
【感覚強化:触覚Lv3】
【感覚強化:聴覚Lv3】
【消化Lv3】
【回復速度強化Lv4】
【身体強化Lv2】
【並列思考Lv2】
【硬化Lv3】
耐性スキル
【物理耐性Lv5】
【毒耐性Lv3】
【睡眠耐性Lv1】
【威圧耐性Lv2】
【病気耐性Lv1】
生産スキル
【錬金術Lv6】
【料理Lv4】
【調合Lv6】
【建築Lv4】
【栽培Lv4】
【裁縫Lv3】
【彫刻Lv1】
【陶芸Lv1】
技能スキル
【鑑定Lv7】
【採取Lv6】
【跳躍Lv5】
【暗視Lv6】
【騎乗Lv1】
【調教Lv1】
【罠師Lv3】
【狩猟Lv4】
【伐採Lv3】
【水泳Lv3】
【登攀Lv2】
【解体Lv1】
戦術スキル
【連携Lv4】
【追跡Lv3】
【逃走Lv3】
【指揮Lv4】
【威圧Lv4】
【挑発Lv1】
【潜伏Lv2】
【奇襲Lv2】
感知・隠密系スキル
【気配察知Lv5】
【気配遮断Lv5】
【罠感知Lv3】
【魔力感知Lv6】
【危機察知Lv3】
【魔力隠蔽Lv4】
【霊視Lv4】
【空間把握Lv3】
【偽装Lv8】
操作スキル
【操糸Lv4】
【操水Lv3】
【血流操作Lv2】
その他スキル
【仮死Lv2】
【礼儀作法Lv2】
ユニークスキル
【錬成変化】
【成長因子】
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【装備】
・刺突の猪鉄槍――スキル【刺突強化Lv4】【斬撃強化Lv2】
・グレイプニルの鎖――スキル【地縛霊の鎖】【虚弱】【伸縮自在Lv1】【自己修復Lv3】
・微睡みの封印具――スキル【神霊封印:ティエリア】【不壊】【安息地】
・アイテムボックス――スキル【アイテムボックスLv2】
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
これにて第1章が終了となり、次話から第2章となります。
引き続き第2章も1日2話更新の予定です。
その後は、とりあえず未定ですが、これからも応援よろしくお願いします。