32話
32話
【空間魔法】を手に入れたことでダンジョン探索が捗るようになった。
ダンジョンを進んでいけば魔物も強くなるが、森の中に出現する魔物ほど強くない。
そして、4階層までが通常の階層で、5階層目はボスの魔物だけが存在した終点であった。
ボスの魔物を倒すと何かが起こりそうなので、ボスとの戦闘は止めて、ダンジョンの魔物で経験値を稼ぐ。
魔物から新規に得られたスキルは――猿型魔物が持っていた【登攀Lv2】のスキル。つまり、木登りが得意になるスキルだ。
そして、魔物を倒した時100分の1の確率で出現する宝箱の方には、様々な魔道具やポーションが入っていた。
――【火魔法】スキルを持つランタンや【水魔法】スキルを持った短剣、【空間魔法】を持ったテントなど野営に必要な道具。
――【斬撃強化】の長剣や【速度強化】の短剣など、有用なスキル持ちの武器。
――劣化防止効果の付いたポーション瓶に入ったライフポーション、などをドロップした。
『ねぇ、トールくんは、こうしたダンジョン産の魔道具のスキルは抽出しないの?』
「うーん。する必要は特にないですかね。野営道具の魔道具は、スキルレベル1だから、抽出して吸収しても旨味ありませんし」
スキルは、使っていれば、そのうち経験値が溜まるだろうと考えている。
【空間魔法】スキルがレベル4になれば、収納空間の時間が遅くなるが、それまでに何十個、何百の【空間魔法】スキルが必要になるのか分からない。
「とりあえず、2、3個は持っておいて、それ以降はスキル経験値か売却用ですかね。劣化防止のポーション瓶は少し解析掛けましたけど、手持ちの素材で【錬成】するのは難しいので使い回しましょうか」
武器に関しても複数は残しておいて、後はスキル経験値と金属的な素材に変換している。
どうやらこのダンジョンは旅立ちのための道具や武器などが得られるらしく、そこに作為的なものを感じる。
そして、ダンジョンにミミックは、滅多に出現しないのか、その後、一度だけ見つけて捕縛した。
「よし、今度も【アイテムボックス】のスキルを貰うぞ!」
俺はミミックから【アイテムボックスLv2】のスキルを抽出して、そのスキルを前回のミミックが持っていたプラチナの腕輪と融合する。
アイテムは100個までしか入らないが、腕輪型なので武器やロープを収納しとけば、すぐさま取り出すことができる。
また【空間魔法】と違って収納と取り出しにMPを消費しないのも利点だ。
その腕輪型のアイテムボックスをティエリア先生に見せたところ――
『おめでとう。でも、ブカブカね。その腕輪の内側に【サイズ調整】の魔法文字を刻んだ方が良いわ。腕輪とかは、リング状だから、ちょっとかわった魔法陣の書き方を教えてあげる』
そう言って、ティエリア先生に【サイズ調整】の付与を教えてもらい、ピッタリと腕に嵌るプラチナ腕輪のアイテムボックスに、俺はニヤニヤしてしまう。
その他、ダンジョンの第四層では、採掘できる場所を見つけた。
全てが黄色っぽいレンガ造りのダンジョンの中で、一部だけレンガが剥がれて岩壁が見えた時には驚いた。
何かの罠か魔物か、と思い鑑定した結果――
【ダンジョンの採掘場】――ダンジョン内で鉱石が手に入る場所。ここでは様々な鉱石がランダムで手に入る。
俺は、ダンジョン攻略そっちのけで延々とその採掘場に【錬成変化】を使い、金属を抽出した。
岩壁が大きく抉れてもダンジョンの修復力で元に戻るので――採掘場で金属を抽出し、第四階層の魔物を倒して回り、採掘場が修復されたら、また抽出を繰り返した。
鉄や銅などのありふれた鉱石から、金や銀などの貴金属。そして、数は少ないが、ミスリルなどの魔法金属が手に入る。
鉄と銅は、無駄に【空間魔法】の収納容量を圧迫するので、インゴット化した一部を残し、全てダンジョンに捨てる。
金や銀もある程度確保し、最優先でミスリルを地道に抽出して集めていく。
軽くて、丈夫、更に魔法との親和性が高い魔法金属なので、総ミスリル製は、非常に有用な武器となるだろう。
なので、ミスリルの槍も憧れるが、それよりも俺に必要なのは、スキル抽出する相手を捕縛する手段だ。
現在は、蜘蛛糸のロープを使っているが、耐熱性が極端に低く万能ではない。
そのために俺は、ミスリルの鎖を作ることにした。
O字のミスリルの金具を【錬成変化】で錬成し、それを繋げて長さ2メートルほどの鎖ができると、両端に分銅を付ける。
暗器扱いなので【操糸】スキルで操作でき、魔力の通りもいいので、打撃武器としても中々だった。
また、ダンジョンの採掘場を掘り返した後に、ダンジョンの魔物を倒している間にも幾つものスキル付きの武器などのドロップアイテムを見つけた。
その一つがこれ――屈伸の鉄剣、という短剣サイズの刀身の剣である。
剣なのか短剣なのか分からない武器が持っていたスキルが、【伸縮自在Lv1】というスキルだ。
これは、対象の本来の長さ×Lv数の10倍まで長くするスキルである。
なので刃渡り10数センチの短剣は1メートル超えの長剣にもなり得るのだ。
武器は暗器向けでありティエリア先生には見せられないため、スキル珠だけ抽出してミスリルの捕縛鎖に融合する。
「こんなものかな。あとは――」
この鎖を作るためだけにこの1ヶ月ダンジョンの攻略を後回しにしていた。
そして、ダンジョンでやることは、残すところ第五階層のボスを倒すだけとなる。
この作為的なダンジョンは、男神が旅立ちのために用意したダンジョンだろう。
あまり大きくては、ダンジョンに集中して旅立たないかもしれない。
けど、浅すぎたら旨味がない。
そのいい塩梅として、第五層まで用意し、そのボスにはオーガを配置したのだろう。
「さて、いくか」
そして今、俺は自分の倍以上の大きさのオーガに挑む。
『ガァァァァァァァッ!』
手には黒い金属の棍棒を持ち、激しく吠えている。
俺は、手に愛用の刺突の猪鉄槍を持って挑む。
オーガは、ボスの間に踏み入った俺に真っ直ぐに棍棒を振り下ろしてくる。
俺は横に跳び棍棒を避けるが、ダンジョンの床の一部が抉れているのを見る。
「おー、当たったら死ぬだろ。まぁ、当たらないように動くかな」
そんな避けた俺に対して、追撃するように棍棒を横に振るので、オーガに向かって駆け出す。
【身体強化】と【跳躍】が合わさり、一気に駆け抜け、その足元を槍で斬り付けて、オーガの後方に駆け抜ける。
だが――
『ガァァァァァッ!』
「ちっ、再生持ちって分かってるんだけどなぁ」
ボスのオーガには、事前に広間の外から【鑑定】している。
所持スキルには、各種の身体強化系のスキルの他にも傷を回復する【再生】スキルを持っている。
そのために非常に厄介な相手であり、正攻法では長期戦になりそうである。
「あー面倒だなぁ。まずは、武器をなんとかするか」
振り向くと共に振り回される棍棒を避け、オーガの死角に入り込む。
俺は、左手首の【アイテムボックス】から量産した総鉄製の短槍を取り出し、足に突き刺す。
「――【錬成変化】!」
僅かに表皮を貫いた短槍は、【錬成変化】によりその形状を大きく変え、オーガの体内で金属の樹木が生長するように枝分かれして、片足を内側から貫き破る。
『ガァァァァァァァッ!』
俺はすぐさま、鉄の短槍を手放し、オーガから離れる。
オーガは、俺を振り払うように棍棒を振り回し、足に刺さる槍を引き抜こうとするが、引き抜けずに血だけが垂れ流されている。
「いくら、再生持ちでも傷を塞がなければ、常時出血によるダメージはある。それに――【錬成変化】!」
痛みで攻撃の手を緩めるオーガの黒い棍棒に触れて【錬成変化】を発動させる。
細かな金属片に分解された棍棒は、持ち手付近までバラバラになり、オーガはそれに気付き持ち手を捨てて素手で殴り掛かってくる。
『はぁぁぁっ――』
すれ違い様に槍で腕を大きく斬り裂くと共に、【魔力制御】で操った炎が傷を焼く。
『ガァァァァァァッ!』
「傷を焼かれても、再生に時間が掛かるか、まぁ邪魔だし、破壊するか――【裂空穿】!」
遠距離からの渾身の突きの武技を放つ。
魔力の籠った貫通力のある衝撃波がオーガの肩口に当たり大きく風穴を開けると、後ろに倒れていく。
「さて、死なないように拘束するか」
邪魔な右腕を切り落として傷口を焼いて止血する。
残ったオーガの四肢も総鉄製の槍で突き刺し、内部から腱や筋肉をズタズタに引き裂き、破壊する。
最後にミスリルの鎖を【操糸】スキルで操り、オーガの首を押さえ込む。
「さて、選べるスキルは、三つまで。どれを選ぶか」
鑑定した結果、オーガの所持スキルは――【怪力Lv4】【身体強化Lv3】【再生Lv3】【状態異常耐性Lv2】【棍棒Lv6】【体術Lv4】【性欲増強Lv3】【生命力強化LV5】【筋力強化Lv5】【耐久力強化Lv4】【物理耐性LV4】【威圧Lv3】など
様々な有用スキルを持っていたが、短時間で抽出できるスキルは、三つまでだ。
三つ目のスキルを抽出した苦痛で、相手は死ぬ。
「うーん。状態異常耐性は複数の耐性スキルを持ってれば複合しそうだし、【怪力】はちょっと要らないかなぁ」
薬や魔道具作りには、繊細な力加減が必要なので【怪力】スキルで力加減ができなくなるのは、ちょっと困る。
【怪力】スキルを魔道具にして運用すれば良いが、優先して欲しいとは思わない。
「やっぱり一番は、これかな――【錬成変化】!」
『ガァァァァァァァァッ――!』
スキルを抽出される苦痛にオーガが吠える。
そして【再生Lv3】のスキル珠を抽出したことでオーガの傷口の再生が止まり、出血の量が増えた。
早く選ばないと、他のスキルを得る前に絶命する。
「とりあえず、【体術】と【物理耐性】でいいな。――【錬成変化】!」
『グガァァァァァァァァァッ!』
オーガの断末魔の叫びが響く中、俺は、残りのスキルを抜き取り、オーガを倒す。
そして、絶命したオーガの死体が黒い煙となって消えた瞬間、俺は真っ白な空間にいることに気付く。