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30話

 30話


 俺とティエリア先生は、ダンジョン前まで来ていた。


『ここが、トールくんの言っていたダンジョンね』

「はい。このダンジョンを攻略して、中の魔道具を探してきますね」

『ええ、行ってらっしゃい。私は、ここで待っているわ』


 そう言って俺を見送るティエリア先生を見つめ返す。


「えっ? 先生は、一緒に来ないんですか?」

『トールくん。ダンジョンは、その内部に入り込んだ生物の魔力を吸って生きるの。例えば、人間が何気なく発している余剰分の魔力や魔法や武技を使って拡散する魔力、そして死んだ時に放出される一際強い魔力……』

「それじゃあ、殆どが魔力の塊みたいな先生は――」

『そう、ダンジョンに入るだけで魔力を吸われて、激しく消耗するわ。最悪、消滅する。だから、私は入れないの』


 いつもティエリア先生が一緒にいるが、このダンジョンでは先生は付いて来れない。

 そしてダンジョンを構成する壁などは、ダンジョンの支配下にあるために、【錬成変化】を十全に使えない。

 まさに、俺の素の状態で挑む試練のようなダンジョンである。


「それじゃあ、先生。行ってきます」

『トールくん、気をつけて帰ってきてね』


 そう言って俺は槍を持ち、蜘蛛の糸袋から作った強靱なロープを肩に掛け、背中には背負い鞄、ポケットには折り畳んだ紙と鉛筆を入れてダンジョンの中に入る。


「ここに来るのも久しぶりだなぁ」


 俺は、歩幅を数えながら、ダンジョン内部の距離を測る。

 最初の入口から二手に分かれるまでの歩数から大凡の距離を導き出し、前回と同じ左方向に向かう。


「こうもダンジョンの壁が同じだとやっぱり迷いそうだよなぁ」


【錬成変化】で壁を変化させようとする。

 以前は、【魔力操作】スキルが未熟で床や壁などを変化させられなかったが、今回は少し多めに魔力を籠め、ダンジョンの支配権を奪ってバツ印を壁に付ける。

 だが、【錬成変化】の処理が終わると再びダンジョンの支配に戻り、ジワジワと壁に付けた印が元に戻っていく。


「これがダンジョンかぁ。しっかりとマッピングしとかないと本当に迷うなぁ」


 改めてそう呟き、最初の部屋に到着する。

 前回と同じ配置のゴブリンの部屋に飛び込み、即座に槍を振り抜き、斬り捨てていく。

 瞬く間に三匹のゴブリンを倒し、床に倒れた死体が黒い煙となって消えるのを見届ける。


「ダンジョンは、狭い通路だと槍を十分に扱えないから部屋に飛び込んで戦った方がいいかもな。それに【錬成変化】の拘束が難しいからこれが頼りだ」


 俺は、肩に掛けたロープを握り、ダンジョンを進んでいく。

 1階層目は、森でよく見かける下級の魔物が多い。

 また、ダンジョン内で生まれた魔物のために、森での生存競争で鍛えられていないのか、全体的に能力が低い。

 いや、能力が低いと言うより、個性のないデフォルト設定の敵を相手にしているようだ。

 鑑定して確認した保有スキルなどは、ダンジョン外の魔物に比べて低く、種類も乏しい。

 そんなダンジョンをマッピングしていくと、初見の魔物と遭遇した。

 通路に逆さまにぶら下がっている魔物を鑑定した結果、コウモリ型の魔物のようだ。


「あれは――ケイブバット」


 ダンジョンから抜け出した後、森には住み着いていないところを見ると、ケイブバットにとって住みやすい場所が別の場所にあるのかもしれない。


「保有スキルは――【吸血】【超音波】【空間把握】か」


 ただ、天井に何十とぶら下がったコウモリ相手に一々攻撃するのは、面倒だと感じる。


「仕方がない。押し流す――【ウォーター・ボール】!」


 無数の水球を生み出し、通路の天井付近にぶつける。

 勢いの付いた水が放たれてパニックになるコウモリが通路を飛び交うが、勢いの付いた水が弾け、その飛沫が小石のような勢いで周囲に広がり、コウモリが通路に落ちていく。

 何匹か、俺の方に飛んでくるので槍で串刺しにして、倒す。


「さてと、生き残りはいるかな」


 串刺しになったコウモリの死体は、しばらくして黒い煙になって消え、通路の各所でも同様に死体が消える。

 煙が立つ通路の中で、水に濡れて藻掻くコウモリの生き残りを何匹が見つけた。


「よし、いけ、ロープ!」


 蜘蛛の糸で錬成したロープを【操糸】スキルを使い、次々とコウモリを絡め取って捕獲する。

 ロープの長さの関係上、コウモリは三匹しか捕縛できなかったので、残りは槍で突き刺し、その三匹に対して手を差し向ける。


「ダンジョンじゃあ、死体からスキルの残滓が手に入らないからな。――【錬成変化】!」


 ケイブバットから直接スキルを抽出して【吸血】【超音波】【空間把握】のスキル珠を手に入れ、自身に取り込む。

【吸血】スキルは【消化】スキルと統合された。

【超音波】は【感覚強化:聴覚】に変わる。これで後は、味覚と視覚の感覚強化スキルがあれば五感が揃う。

【空間把握】スキルは、そのまま取得でき、ダンジョン内の距離の感覚などが分かりやすく、マップを見るだけで内部構造を鮮明に想像できるようになった。


「そういえば、ティエリア先生が【空間魔法】は、理解や認識で躓いたりするって言ってたけど、みんな【空間把握】のスキルがなかったのかな?」


 俺は一人ぼやきながら、ダンジョンを進んでいく。

 遭遇する魔物は三体一組が多いので、最初に二体を倒し、残った一体を槍の柄の方で殴って弱らせ、ロープで捕縛してスキル抽出を繰り返す。

 本当は、出会う魔物全てからスキルを抽出して取り込めれば良いのだが、安全性とMP消費量、スキル確保のバランスを考えてその方法になる。


「ここは、罠か。その種類は――壁から槍と」


 時折、【罠感知】スキルが反応する場所で足を止めて、槍先で罠の場所を叩いて起動し、罠の種類などを確かめて地図に記す。

 そして、下の階層に進む階段を見つけたが、現在の階層を全て確認していないために一度引き返し、マッピングを続ける。


「おっ、魔物の素材が結構貯まったし、帰るか。正直、アイテムボックスとかが欲しい」


 俺は、背負い鞄に詰まった倒した魔物の素材や魔石などを持って、ダンジョンの出口に向かう。

 そして、ダンジョンの外に出ると既に夕暮れ間近であり、思った以上にダンジョン内では時間の感覚が分からないことに気付いた。


『トールくん、おかえりなさい』

「先生、ただいま。もしかしてずっと待ってたの?」


 ダンジョンの入口では、俺が入る時と同じ場所でティエリア先生が待っていた。


『そうよ。私にとっては長い時間じゃないわ』


 確かに神霊のティエリア先生は寒さを感じないだろうし、それほど長い時間を待ったように感じないのかもしれないが――


「だからって、ずっと待ってたら暇でしょ? 適当に森の魔物を狩ってても良かったんですよ」

『それだと、トールくんが帰ってきた時、すぐにお迎えできないじゃない』


 大人な美女なのにぷくっと子どもっぽく膨れる姿に、小さく笑う。


「ありがとうございます。それじゃあ、帰りましょうか」

『ええ、今晩は冷え込みそうだから、暖かく過ごしましょう』


 俺とティエリア先生は設置した粘土板の上を歩き、森の家まで帰る。

 その時、空からパラリと細かな雪が舞い降り、そしてその数日後、本格的な冬が到来した。



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