3話
3話
家に帰ってきた俺は、今回の探索で見つけた採取物を広げる。
「【鑑定】とかのスキルがあれば、安全なのに。とりあえず、【錬成変化】で毒物を抽出して無毒化するか。――【錬成変化】!」
リンゴのような果実から毒物抽出のイメージで【抽出】を行なうが、何も起こらない。
ただ、このリンゴがどのようなもので構成され、毒などの成分が含まれていないことが脳裏に浮かぶ。
「【錬成変化】には、解析能力みたいなものが付随してるんだな」
何も起こらないなら安全だと思い、果実を食べれば、シャキッとした食感と甘さが口の中に広がる。
「――リンゴ、そのまんまって感じ」
舌が痺れるような感じがないので、安心である。
「MPには、まだ余裕がある。次は、このトカゲだ。――【錬成変化】!」
トカゲの死体から【錬成】するのは、それぞれの部位を解体した後のイメージだ。
その結果、トカゲの死体は、肉や革、心臓付近にあった謎の石、そして、小さな玉に解体される。
内蔵や骨などの不要部位は、全て土に分解された。
「やっぱり、魔物だったんだな」
【錬成変化】の解析能力によって、緑色の大きなトカゲが魔物だとわかる。
「【錬成変化】の解析能力は便利だけど、事前に知りたい時には、使いづらいなぁ」
そういう時には、【鑑定】のような表面上の情報を表示してくれるスキルが欲しい、と思う。
だが、解体した魔物がグリーンリザードという弱い魔物であり、肉質は鶏のササミに似たあっさりとした味らしい、などのコラム的な解析情報が脳裏に浮かぶので愉快な(ユニーク)スキルである。
そして、残った謎の石と小さな玉は、【錬成変化】の解析能力が有用なものであると教えてくれる。
「グリーンリザードの魔石とこれが【スキルの残滓】か」
小指の先ほどの小さな石は、グリーンリザードと同じ薄緑色をしており、冒険者たちは、魔石を集めて換金するらしい。
そしてもう一つの魔石と同じ緑色をした玉は、【錬成変化】を行なったために生まれた固有の素材だ。
この【スキルの残滓】という玉は、いわばステータスアップアイテムやスキル習得アイテムである。
【錬成変化】で俺の体に取り込むことで、生前の【スキルの残滓】に残る強さの一端を引き継ぐことができるらしい。
けれど、この残滓を手に入れるためには、条件が必要なようだ。
「死んでから時間が経ちすぎると、【スキルの残滓】を抽出できなくなるのか。次からは、倒してすぐに【錬成変化】をする必要があるのか」
今回は、【錬成】を使って素材を丸ごと手に入れたが、素材が要らない場合は、【抽出】だけ使い、魔石や【スキルの残滓】だけを抜き取った方が早いかもしれない。
または、生きたまま【錬成変化】でスキルを抽出できるだろう。
男神が魔力次第と言っていたが、魔物にスキル抽出を抵抗された場合、どれくらいMPを消費するのか見当が付かない。
「いつかは、魔物に触れた瞬間にスキルを抽出できるようになるかな。正直、塵にできるほどにまでなる必要はないよなぁ」
俺はそう呟き、グリーンリザードの【スキルの残滓】を取り込むために【錬成変化】を使った。
分解するよりも多くの魔力を使ったのを感じ、魔力の減った虚脱感と腹の底に貯まる充足感とで不思議な感覚を覚える。
「魔物を倒した時とは、また違うな。それにスキルも【気配察知Lv1】がある」
強くなるためには、【スキルの残滓】をもっと集めることを誓う。
その後、リザードの肉や革、森で見つけたリンゴを家の中に運び、家の前で土に返した不要部位を足で散らしてその場に撒く。
「便利だなぁ。使い道のない魔物の死体は、肥料になりそう」
俺はそう呟いた後、家の周囲にある森から枝を拾い集め、家に運ぶ。
木の枝は、水分を抽出して薪に、炭素以外を抜き取り炭に、繊維を錬成して背負い籠を作るなど、様々なものに【錬成変化】で作り替えることができる。
「こうして使ってみると、イメージさえ固まれば、【錬成変化】は、凄い便利だな」
少しずつ異世界での生活基盤を整え、いつか旅立つ日を夢見て準備しようと思う。