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26話

 26話


「ティエリア先生、一つ試したいことがあります」

『どうしたの、トールくん?』

「先生のスキルを一つ、抽出させてください」


 俺の申し出にティエリア先生は、嬉しそうにする。


「やっと、受け取ってくれる気になったのね。それでどのスキル? やっぱり冬を便利に過ごすスキルかしら? それともまた別のスキル?」


 以前からティエリア先生は、俺に【魔力譲渡】以外のスキルも【錬成変化】で抽出するように勧めてきたが、俺は頑なに受け取らなかった。

 だが、それが俺からの申し出に本当に嬉しそうにしている。


「成功するか分かりません。今日は、マナポーションを持って挑みたいと思います」

『ええ、どうぞ。好きなスキルをとって』


 俺のMPは、現在520。

【魔力操作】の上達で【調合】で1本400MPまで回復するマナポーションを作れるようになり、それを5本用意した。

 俺のMPは、マナポーションと合わせると約2500MP分でスキル抽出に挑むことになる。

 そして、俺の前で両手を広げて浮遊するティエリア先生を見つめる。


「それじゃあ、行きます!」

『ええ、どうぞ』


 前回のスキル抽出の苦痛を思い出すティエリア先生の表情が強張るが、俺は構わずに手を伸ばす。


「――【錬成変化】!」

『えっ、そっちは!』


 俺は、ティエリア先生の足首に絡まる【地縛霊の鎖】を【錬成変化】によって掴み取る。


「硬い! でも、負けるかぁぁぁっ!」


【魔力操作】でスキル抽出時の魔力のロスを減らした、それでもティエリア先生を縛る鎖の形をした概念は、強固な抵抗を感じる。

 瞬く間に俺のMPが減る中で、すぐにMPポーションを飲み、手に力を込める。


『何をしているの! 今すぐ、止めなさい!』

「先生、ごめんなさい! 最初からこの方法を考えてたんだ」

『トールくん、何を……』

「この鎖が無ければ、自由なのにと思った。でも、この鎖がなかったらどこかに行ってしまうと思った。だから、この鎖を今まで放置していた! ズルい俺で、ごめんなさい!」

『違うわ。ズルいのは私の方よ! 寂しくて、苦しくて、それがトールくんが来て世界に色付いた。私の魔力を回復してくれた! そんな貰った魔力であなたをこの地に縛り付けようと考えてた!』


 俺は、2本目のマナポーションを飲み、力を込めて鎖を引っ張る。

 少しだけ、地縛霊の鎖が軋むのを感じたが、同時に俺の右手が裂け、勢いよく血が噴き出す。


『もういい、無茶しないで! それ以上無茶をするとトールくんが倒れちゃう』


 ポロポロと綺麗な涙を零して俺の右手にティエリア先生の手が乗せられ、温かな光が灯り、【錬成変化】の反動で裂けた傷が塞がる。

 きっと今まで蓄えたMPを使って俺の腕を治癒してくれているのだろう。

 だが、それを嘲笑うかのように別の箇所が裂けて出血する。


「先生。実は俺、めんどくさがりだし、寝るのが好きなんですよ」


【錬成変化】を発動させる右手に意識を集中させたまま、にへら、と緊張感のない表情でティエリア先生に告白する。


「先生と一緒にいるために、この廃村を立て直して引っ越そうかと考えたけど、北のダンジョンまで通うの面倒なんですよ」

『わかった。私が数ヶ月我慢すればいいから、こんな無茶はしないで!』


 裂けて出血しては治癒されるのを繰り返し、徐々に血が足りなくなってくるので、頭がボーっとしてくる。

 こんなことならライフポーションも持ってくれば良かったかな、と思いながら、【錬成変化】で減る魔力の速さを見ると、飲む暇もないか、と思いながら3本目、4本目のマナポーションを飲み干す。


「俺が毎日廃村を訪問する理由は、大人なのに可愛いティエリア先生に会いたいからなんですよ。もちろん、授業も楽しいです。だから、この冬は、一緒に家でゴロゴロ過ごしませんか?」

『わかった。でも、今年の冬は諦めましょう。来年の冬は、一緒に過ごしてあげるから、だから、これ以上私のために、傷つかないで……』


 もう、かなり地縛霊の鎖が軋みを上げて、限界に近づいているのが分かる。

 俺もかなり出血して、限界が来ているために、最後のマナポーションを飲み干し、一気に引っ張る力を強める。


「はぁぁぁぁぁぁぁっ――抽出!」


 掴んでいた地縛霊の鎖が引き千切れ、俺の掌に収束を始める。

 それは、スキル珠が錬成される光景だ。

 膨大な概念の塊であるユニークスキルが物質化する光景に、俺とティエリア先生が呆然と見つめる。

 そして――


【ユニークスキル珠】――RMG+200上昇、スキル【地縛霊の鎖】


「やった。やったぞ――」


【地縛霊の鎖】のスキル珠を握ったまま、後ろに倒れる。

 ティエリア先生は、慌てて俺に近寄り、無茶した反動で裂けた腕の傷を治してくれる。

 俺の右腕は、血塗れなのに傷がなく、HPも徐々に回復傾向にあるが、貧血状態で各種ステータスにマイナス補正が掛けられていた。

 だが俺の中には、大きな達成感があった。


「先生、やりました。これで来年と言わずに、今年の冬は一緒に寝て過ごせますね」

『ありがとう。トールくん、本当に、ありがとう』


 ボロボロに泣いて、こんな時は背中を擦って宥めたいのに、霊体の先生に触れられないのがもどかしい。

 そっとティエリア先生のステータスを鑑定すると、きちんとユニークスキルから【地縛霊の鎖】が消えており、ジョブの【地縛霊】が【神霊】に変わっていた。


「泣かないでくださいよ。それより、怪我を治してくれてありがとうございます」

『トールくん、子どもなのに無茶して! 先生を心配させないでください!』


 一頻り泣いて落ち着いたティエリア先生は、そう怒る。

 そして、ふわりと俺の体が浮く。


「うわっ、ちょ、なんですか! 先生!」

『罰としてトールくんは、自由になった先生にお世話されるんですよ! さぁ、家に帰りましょう!』

「ちょ、自分で歩ける、歩けますから!」

『ダメです。貧血状態のトールくんを歩かせるわけにはいきませんからね』


 ティエリア先生は、悪霊として習得した【念動力】スキルを使い、俺をゆっくりと浮かせて運び、森の中に入っていく。

 先生は、俺の家の位置を知らないために、俺が恥ずかしながら誘導し、魔物避けの結界に阻まれることなく先生と共に家に辿り着き、ベッドに寝かされた。


 それから三日――先生の【念動力】で甘やかされ、構われ続け、ベッドの上で養生させられたのだった。


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