24話
24話
それからの俺の日課は、少し変化した。
朝起きて、食事を取り、畑や家の周りを確認したら、マナポーションを持って、南の廃村に向かう。
ティエリア先生に【魔力譲渡】とマナポーションで魔力を回復した後、【魔力操作】を学んでいる。
最初の頃は、自分自身の魔力に集中することが難しく、一人の世界に入り込むことが多かった。
だが、日常生活で【魔力操作】を意識しているので、少しずつ慣れてきた。
そして、【魔力操作】に慣れたころに、先生の話を聞く余裕が生まれた。
そこからティエリア先生から常識や知識を学んだり、互いに質問し合って、その疑問に対する答えを求める形式の授業が行なわれた。
そして昼前には、森の家に帰って食事を取ったら、午後からは森の魔物を狩り、マナポーションの材料のエーダル草を採取する。
夜には、ティエリア先生に渡すマナポーションを作成して、その日を終える。
そして、午後に毎日魔物を狩りに森に出かけることを伝えたらティエリア先生に、休みなさいと言われた。
『普通の冒険者だって、魔物討伐の後は、休養日を充てているわ。それにトールくんはまだ子どもよ。だから、休みなさい。じゃないと、これ以上の授業はやりませんよ』
「は、はい……」
そう言われてしまい、互いの妥協点として週に二日は、休養日となった。
休養日には、ティエリア先生の授業を受けた後は、森の家で本を読んだり、廃村の廃屋や畑、草が生え放題の砂利道を整備し直したり、放置されていた人骨を埋葬して簡単なお墓を作ったりした。
『もう、トールくんったら、働いているのか、休んでいるのか分からないわよ』
ティエリア先生がそうぼやき、困った子を見るような目で廃屋の屋根から溜息を吐いている姿を見た。
だが、子どもが土遊びするようなものだと諦めて見守ることにしたようだ。
そんな日々のために今までよりも魔物討伐の速度が一気に落ち込み、レベルやスキルレベルの上がりも遅くなる。
それでもティエリア先生の授業は、魔物討伐に充てた時間以上の価値があった。
そして、ディエリア先生と出会って四ヶ月、異世界転生して半年の結果がこれである。
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NAME:トール・ライド
年齢:12
JOB【錬金術師】
LV 30
HP :1640/1640(生命力)MP :520/520(魔力量)
STR :230(筋力) VIT :207(耐久力) DEX :180(器用さ) AGI :262(速度)
INT :160(知力、理解力) MGI :215(魔力) RMG :155(耐魔)
武器スキル
【槍Lv4】
【剣Lv3】
【短剣Lv3】
【棍棒Lv3】
【斧Lv3】
【投擲Lv4】
【盾Lv3】
【弓Lv2】
魔法スキル
【魔力回復Lv5】
【魔力操作Lv9】
【火魔法Lv2】
【水魔法Lv2】
【生活魔法Lv4】
【魔力譲渡Lv7】
【回復魔法Lv1】
強化スキル
【刺突強化Lv4】
【斬撃強化Lv3】
【打撃強化Lv4】
【生命力強化Lv5】
【魔力量強化Lv2】
【筋力強化Lv5】
【耐久力強化Lv3】
【器用強化Lv4】
【速度強化Lv4】
【知力強化Lv2】
【魔力強化Lv2】
【耐魔強化Lv1】
【自己強化:身体Lv2】
【感覚強化:嗅覚Lv5】
【消化Lv1】
【回復速度強化Lv3】
【身体強化Lv2】
【並列思考Lv1】
耐性スキル
【物理耐性Lv4】
【毒耐性Lv3】
【睡眠耐性Lv1】
【威圧耐性Lv1】
【病気耐性Lv1】
生産スキル
【錬金術Lv4】
【料理Lv3】
【調合Lv4】
【建築Lv2】
【栽培Lv3】
技能スキル
【鑑定Lv5】
【採取Lv5】
【跳躍Lv4】
【暗視Lv6】
【騎乗Lv1】
【調教Lv1】
【罠師Lv3】
【狩猟Lv4】
【伐採Lv3】
戦術スキル
【連携Lv2】
【追跡Lv3】
【逃走Lv3】
【指揮Lv2】
【威圧Lv4】
【挑発Lv1】
感知・隠密系スキル
【気配察知Lv3】
【気配遮断Lv3】
【罠感知Lv1】
【魔力感知Lv4】
【危機察知Lv2】
【魔力隠蔽Lv2】
【霊視Lv3】
その他スキル
【仮死Lv2】
【礼儀作法Lv2】
ユニークスキル
【錬成変化】
【成長因子】
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新規のスキルは、多くは得られなかったが、全体的にやや能力が底上げされる形となった。
魔力を循環させ、【魔力操作】を最優先に鍛えていたために、【成長因子】との相乗効果でティエリア先生も驚くレベル9まで成長した。
それに合わせて【身体強化】や自分の傷を治す【回復魔法】などの多くの魔法関係のスキルが上がり、【魔力操作】しながらティエリア先生の授業や日常生活を送っていたために【並列思考】スキルを得た。
あと、冒険者になる場合には、荒っぽい俺口調のままでもいいけれど、相手に対しては、私などと使い分ける必要があると指摘されて、言葉遣いなどを修正された。
前世では、一応社会人をやっていたが、この森で外界と接する機会がないのか、それとも精神が若返った肉体に引っ張られていたのか、気付かない間に、疎かになっていた。
ティエリア先生に修正された結果――【礼儀作法】なんかのスキルが生えていた。
そんなティエリア先生の授業の四ヶ月は、長いようで短く、色んなことがあり、いくつもの出来事を思い出す。
…………
……
…
『トールくん、その槍を見せてくれるかしら?』
「これ、ですか。いいですよ」
俺が作った刺突の猪鉄槍をティエリア先生に見せると、真剣な表情でそれを観察している。
『これは、ダンジョン産の武器か何かかしら? 穂先だけの付け替えするタイプだけど、とても性能がいいわ。何の素材で作られたのかしら?』
「これは、俺が作った武器ですよ。鉄とフォレスト・ボアの牙、土属性の魔石が素材です。スキルは【刺突強化Lv3】と【斬撃強化Lv2】のスキル珠を合成してます」
『えっ?』
そう言って、ティエリア先生に実演するために、廃屋に残された金属を抽出して、鉄のナイフを作り出し、気配察知で見つけたウルフから抽出した【斬撃強化Lv1】のスキル珠を付与してみせた。
スキルを付与しただけで切れ味が格段に良くなるナイフを見て驚くティエリア先生は、いつになく怖い表情で俺を見ている。
『トールくん、真剣に聞いて』
「は、はい」
『トールくんの【錬成変化】で作られる魔道具は、通常の付与ではないのはわかるわよね』
「はい。多分、ダンジョン産のようなものですよね」
ティエリア先生は、その通りだと頷き、また別のことを伝えてくる。
『あと、鉄とフォレスト・ボアの牙、土属性の魔石から作られる合金は、通常では武器には向かないのよ』
「えっ?」
『どちらかと言うと、鎧や盾とかの身を守る道具に向いた金属なの。切れ味もそこそこだから、わざわざそれで槍を作ろうとはしない。それに使われる素材と付与にも相性があるわ』
例えば、火属性の魔物の素材に水属性の付与をすると反発したり、上手く付与がされないことがある。それと同じで、この合金には、【刺突強化】のような攻撃的なスキルは反発するらしい。
「えっと……じゃあ、どういうことですか?」
ティエリア先生が少しの間、目を瞑り、言葉を溜めて教えてくれる。
『こうした酔狂で通常ではあり得ない品は、大抵がダンジョンとかで産出するものよ』
元々、ダンジョン産の魔道具などを想像して作り上げたものだ。
以前、本で見かけた自然発生的な魔道具について答えると、ティエリア先生が頷く。
『その通りよ。じゃあ、通常の魔道具とダンジョン産とだと、どんな風に違うと思う?』
「えっ、性能、ですか?」
性能もそうだけど、根本的に違うらしい。
『通常の付与は、魔力を通して、使われた素材の特性を引き出し、魔法文字や魔法陣で指向性を決める疑似スキル的なものなのよ』
例えば、魔道具のランタンの場合だと、籠める魔力によって際限なく光や炎が強くなり、そして素材の限界に達して自壊する。
それが壊れるのを防ぐために受け付ける魔力量の限界や明かりの大きさなどを魔法文字や魔法陣で書き込んだりして制限や指向性を決める。
『だけど、ダンジョン産のランタンの場合は、光の調節機能、籠める魔力の運用効率、限界まで魔力を籠めた際の安全性とか色々な面で高い。通常の付与にある性能を指定する魔法文字や魔法陣がないのよ』
「えっ?」
『ダンジョンの品は、そうした制御する魔法文字ではなく、人の意志や思い描いた動きをそのまま行なってくれるの。これは大きな違いなのよ」
例えば、通常付与の武器が決められた範囲の効果しか発揮しないのに対して、ダンジョン産の魔法武器は、人の意志と想像力、そして武器の許容範囲内でなら自由に現象を引き起こす。
『トールくんが【錬成変化】で作る道具は、ダンジョン産と同等だから、人の前に晒す時は、養い親の先生からの貰い物って言いなさい。昔、冒険者でダンジョンから見つけた物を譲り受けた、とかね』
「は、はい」
『うん。良い子。あなたの能力を制限しろとは言わないわ。でも、根本的な付与とは、違うことを覚えて。どちらかというと、創造能力に近いものだから』
「あ、あの……じゃあ俺に、通常の【付与】のやり方も教えてもらえますか?」
俺の頼みにティエリア先生が、えっ? という表情を浮かべる。
「俺の【錬成変化】と【付与】が別々の技能なら、それを融合させることもできるんじゃないかと思いまして。それに、人前で見せるならやっぱり普通の方法も覚えていた方が良いでしょうし……ダメですか?」
上目遣いで尋ねる俺にティエリア先生は、口元に手を当てて考える。
『うーん。できなくは……ないわね。ダンジョン産の武器に後から魔法文字を刻んで能力拡張したりするから、理論上はできるわね。――いいわ、簡単な文字や作り方は知っているけど、私はあくまで本職じゃないわ。だから、深く学びたい時は、他の人に師事してね』
「はい、よろしくお願いします!」
こうして、俺は、【錬金術】の付与の基礎を学び始めることができた。
自分自身が少しあやふやになっているから魔道具に関して少し捕捉。
作中の魔道具には、幾つか種類があります。
・ダンジョンや遺跡などから産出されるスキル付きの魔道具。
再現可能な道具から再現不可能な国宝級の魔道具など幅広く存在する。
・魔物の素材や魔法金属などを使用して、スキルを付与、もしくは素材の元である生物が保有していたスキルを引き出す魔道具。
再現性は高いが、素材の質や組み合わせ、作り手の腕で性能が左右される。
・長い年月人々に使われ、使用者の想いや魔力に感応してスキルが生まれる道具。
再現性はないが、普段使いの道具にスキルが生まれることから魔道具扱いはされないのが、殆どである。人の魔力と感情で誕生するために、儀式的な場で生まれたり、世に言う呪い付きの道具もこれに分類される。
・錬金術師や魔道具職人などが魔法文字を刻んで作り出す魔道具。
これは、様々な素材を使って、道具の素体を作り、魔法文字や魔法陣を刻んで、魔力を流し込むことで【スキル】を再現する道具。
スキルほどの道具としての自由度はないが、非常に高い再現性を持つ。
また鍛治師などが作り出したスキル付きの魔剣などの道具に魔法文字や魔法陣を刻み、能力拡張するなど【付与】の技術は様々な場面で生かされてる。
トールが学んでいるのは、この再現性の高い魔道具です。
またトールが【錬成変化】で生み出した槍は、ダンジョン産に近い性質の魔道具になります。